【生物工学科】SDGsとバイオテクノロジー

【生物工学科】SDGsとバイオテクノロジー

国連が2030年までに解決すべき17の目標をまとめたSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)は、初等教育をはじめ、広く世界中に浸透しつつあります。その中で、私たちそれぞれが目標達成に向けてどのように貢献できるかを考えることはとても大切なことです。

SDGsの中で、バイオテクノロジー(生物工学)は多くの目標に貢献できると期待されています。福山大学生物工学科においても、SDGsが始まる以前から、これらの目標と調和する教育・研究を行ってきました。このブログでは、「生物工学科って何をするところ?」という疑問を少しでも解消するために、学科の教育・研究とSDGsとの関わりを紹介します。皆さん一緒により良い社会を作っていきましょう。生物工学科佐藤がお伝えします。

飢餓の問題を解決するために重要なのが農業です。大切なのはリンや窒素のような肥料を過剰に使うことなく、持続可能な農業を行うことです。今、土の中の微生物が植物の生育を手助けするメカニズムを解明することに注目が集まっています。広岡教授は枯草菌のゲノムを分析することで、植物が分泌するフラボノイドに反応して「鉄イオン取り込み」に関わる遺伝子群が活性化していることを突き止め、植物が自身の鉄イオンの取り込みに枯草菌を利用するのではないかということを明らかにしました。農業に役立つ根圏生態系の解明に一歩迫りました。

広岡教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/hirooka-kazutake/

 

地球上には180万種もいると言われる生き物が作る化合物の中には、様々な産業に役に立つ有益な化合物、とりわけ健康や医療の分野に貢献できる化合物がたくさんあります。例えば、岩本教授は甲殻類由来のキトサンナノファイバーを練り込んだ高分子素材を作っています。この素材は、骨芽細胞を生やすと人工骨様になるほか、環境中から重金属を、また農業廃棄物から有用物質を回収するなど、人の健康に貢献する多機能な新素材として利用できる可能性を持っています。原口教授は植物がその生存戦略として持つ二次代謝産物に注目し、メキシコの植物からアルツハイマーやうつの改善に貢献できる化合物やウイスキー樽を作る植物から糖尿病合併症にかかわる反応を抑制する化合物を見つけました。

岩本教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/iwamoto-hiroyuki/

原口教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/haraguchi-hiroyuki/

さらに、人の体内の物質について構造と生理活性を調べることで健康問題に貢献しようとしています。例えば、タンパク質や脂質についた糖鎖の違いには、感染、炎症、ガンなどの疾病と関わりがあることが知られています。太田教授は質量分析などを駆使して糖鎖の構造を解析することで、その生理活性を調べています。糖鎖の違いに基づいてガン細胞を識別できる可能性があります。

太田教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/oota-masaya/

 

再生可能エネルギーの生産は古くて新しい研究分野です。生物工学科でも、いらなくなった廃棄物を利用してバイオ燃料をつくる研究を進めています。例えば、秦野教授松崎教授は燃料として利用できる油脂を酵母から効率的に回収する研究を行っています。さらに、カビの力を借りて食用廃油から植物ガソリンを生産することや酵母の力を借りて植物繊維やアオサからバイオエタノールを生産することも行っています。生き物の力を借りながら、いらなくなったものを有効活用して、クリーンなエネルギーの産生を目指しています。さらに、岩本教授は産業用途に使われる酵素の解析と改良を行っています。より高性能な酵素を使うとより効率の良いものづくりが可能となり、エネルギーや資源、廃棄物を削減できます。

秦野教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/hatano-takushi/

松崎教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/matsuzaki-hiroaki/

岩本教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/iwamoto-hiroyuki/

 

地方創生が望まれる中、地域における技術革新と新しい産業の創出が重要なカギを握っています。久冨教授は福山で栽培されたバラから1,000株以上の野生酵母を分離して、発酵性に優れた製パンに適する酵母を4株選別することで、膨らみ、焼き色、香り、食感、味わいにおいて、優れた個性を示すパンを作り出すことに成功しました。また、山本教授久冨教授吉﨑准教授福山大学ワインプロジェクトを立ち上げ、地域に根差したブドウ栽培を活用し、地域オリジナルのワインを作ると共に、ブドウの栽培からワイン醸造、製品の普及・流通までを行う六次産業化のモデルづくりを行っています。

山本教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/yamamoto-satoru/

久冨教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/hisatomi-taisuke/

吉﨑准教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/yoshizaki-takayuki/

 

二酸化炭素を吸収する海(藻場)や陸(森林)の豊かさは気候変動と切っても切れない関係にあります。また、海の豊かさには森の豊かさが関わっています。したがって、これら3つの目標は三位一体と考えなければなりません。佐藤准教授は次世代シークエンサーを用いた環境DNA分析を活用し、森のネズミの食性から森林生態系の一部を解明する手法を確立しました。同様に海の魚の食性分析、沿岸域の生物相分析を行い海の生態系や森とのつながりを明らかにすることで、森と海の豊かさを持続可能にするための要因を探っています。

佐藤准教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/satou-jyun/

化学汚染物質を除去することも豊かな自然環境を守るうえで大切です。太田教授はヨウシュヤマゴボウから界面活性剤となる化合物を取り出して、有害なダイオキシンを自然環境から除去するために役立てるなど、微生物や植物の能力を活かした環境汚染物質の浄化技術の開発を目指しています。

太田教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/oota-masaya/

さらに、現代は第6の大量絶滅の時代と言われるほど、生物が急速に絶滅しています。山口教授は動物の体毛やひげを抜いてそこに付着してくる細胞を培養して増殖させ、液体窒素で冷凍保存させた後、生殖技術を駆使して凍結細胞から絶滅動物を復活させる技術の確立を目指しています。

山口教授:https://www.fukuyama-u.ac.jp/life/biological-engineering/yamaguchi-yasunori/

 

SDGsは地域だけの目標ではなく、世界規模での連携が求められています。生物工学科は、ラオスのラム酒製造企業LAODIと連携し、福山大学ラオス醸造研修所を設立し、学生の醸造の理解を深化させると共に、現地社会や文化、自然環境等の学びから国際的視野が涵養されることを目指しています。また、今後、ラオス国立大学と食や環境に関する教育・研究で連携していきます。

ラオス研修(2019年12月):https://www.fukuyama-u.ac.jp/blog/28245/

 

以上、生物工学科の教育と研究はSDGsの目標と調和しています。「生物工学科って何をするところ?」という疑問に対して、少しでも理解の足しになれば幸いです。

 

日本においては、これから人口減少に拍車がかかり、超高齢化社会がやってくるのは目に見えています。これまで以上に、健康・医療・介護の問題、農林水産業の衰退、地域社会の不活化、人と自然環境との関わりの変容が顕在化してくると予想されます。このような課題に直面する社会において、バイオテクノロジーは世の中を生き抜くのに欠かせないリテラシーの一つになると信じています。生物工学科での学びは、そのような能力を身に付けることに他なりません。SDGsと共により幅広い視野から、地球と人が抱える課題の解決に向けて、ポジティブな思考を持った若者の育成を目指しています。

 

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学長から一言:生物工学科の目指す世界がよく分かりますねッ!!!これからを担う多くの若い人が、このようなことに興味を持って学んでくれることを心から期待!