【心理学科】高校生を対象とした暴力防止授業の実施

【心理学科】高校生を対象とした暴力防止授業の実施

皆さんは「デートDV」や「アクティブ・バイスタンダー」という言葉を聞いたことがありますか?暴力は、どんな時も、どんな関係性でも、振るっていいものではありません。

本日は、心理学科の発達心理学研究室が実施する暴力防止授業の様子について、心理学科赤澤淳子教授からの報告をお届けします(投稿は学長室ブログメンバーの大杉です)。

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心理学科の赤澤です。

心理学科の発達心理学研究室所属の3年生7名が、7月20日(水)の13:40~15:40に暴力防止授業を行いました。福山市立福山高等学校の6年生192名を対象とした「暴力防止授業-アクティブ・バイスタンダーを目指そう」と題した授業です。

<福山市立福山高等学校の先生方(中央と右から2番目)と発達心理学研究室3年生>

発達心理学研究室所属の3年生は、2019年度より高校生を対象とした暴力防止授業を実施してきました。2019年度と2020年度は、対面形式でデートDV予防授業を実施し、被害者や加害者にならないための方策について、アクティブ・ラーニングの手法を採り入れ説明しました(2019年度の詳細はこちらのブログ記事を、2020年度の詳細はこちらのブログ記事をご覧ください)。2021年度はオンデマンド形式によるオンライン授業でしたが、デートDVだけでなく、暴力全般を対象として、「アクティブ・バイスタンダー(active bystander)」について取り上げました(詳細はこちらのブログ記事をご覧ください)。

バイスタンダーとは、ただ暴力を傍観している「傍観者」という意味です。アクティブ・バイスタンダーとは、暴力を防止するためには「傍観者」ではなく、暴力に介入していく「介入者」であるべきだということを意味しています。授業では、自身が被害者・加害者にならないだけでなく、被害者を援助し、加害者の暴力を止めることができるようなアプローチについて説明していきます。

<授業の風景>

授業は大きく3部に分けた構成で行われました。まず、第1部の「暴力の境界(バウンダリー)」は、金城香音さん(広島県・尾道高等学校出身)が担当しました。金城さんは、補助資料への穴埋めなどを指示しながら、暴力の境界と種類について説明しました。暴力の種類では、多種多様で暴力とは認識しづらい精神的暴力や、最近増加しているSNSを用いた暴力について丁寧に伝えました。

<金城さんの授業風景>

第2部の「暴力を防ぐために-他者視点」は、藤井愛海さん(福山市立福山高等学校出身)が担当しました。藤井さんは、暴力の境界を考えるワークを行い、暴力の予防においては「暴力かどうか判断するのは自分ではなく、その行為を相手がどう感じるか」というような「他者視点」を持つことが重要であると説明しました。藤井さんは母校での授業となりましたが、実は高校側で今回の授業の担当をされていた和佐田先生が、藤井さんの高校時代の担任の先生でした!和佐田先生は、藤井さんの成長ぶりを大変喜んでくださいました。

最後の第3部「暴力を防ぐために-アクティブ・バイスタンダー(介入者)を目指そう」は、高城琴羽さん(広島県立呉三津田高等学校出身)が担当しました。高城さんは、暴力の被害者や加害者から実際に相談を受けた時の対応法についてが説明し、高校生と大学生で被害者と相談者役のロールプレイも行いました。オンデマンド形式で実施された昨年度はこのような時間を設けられませんでしたが、今回はしっかりロールプレイを入れることができました。

<藤井さんと高城さんの授業風景>

授業を担当した学生の感想

授業を行った3名の学生は、以下のような感想を述べています。

  • 金城香音さん

「私は、暴力の境界線や暴力の種類についての説明を担当しました。その中で、どういう言葉で説明をすれば高校生に伝わるのかということを考えることが難しかったです。しかし、今回の授業を聞いてくれた高校生から、授業で習ったことを活かしていきたいといった感想を多くもらうことができたので、我々の意図が伝わったと感じ、とても嬉しかったです。今後は私自身もこの授業を活かして、他者視点をもって生活していきたいと思いました。」

  • 藤井愛海さん

「私は暴力を防ぐために大切となる他者視点について説明し、自身がされて嫌な気持ちになる行動について高校生ひとりひとりに考えてもらいました。また、具体的な項目を提示し、挙手をしてもらうことによって周囲の人と自身の暴力観の違いについても体感してもらいました。どのように説明したら伝わるか、他人事だと思わずに聞いてもらえるかを考え、問いかけるように話をするということに気をつけました。この授業を受けた高校生が、より相手の視点で物事を考えられるようになったり、困った人がいたら傍観者にならず積極的に援助行動がとれたりするようになってくれたら嬉しいです。」

  • 高城琴羽さん

「私は、暴力被害を止める存在になりうるアクティブ・バイスタンダーとは何か、被害者や加害者への関わり方や被害者・加害者から相談を受けたときに心がけるべきことや適切な行動について授業で説明しました。授業の際は、実際に生徒の皆さんに考えてもらうワークが多かったので重要な部分ではゆっくり丁寧に伝えるということを心掛けました。また、自分自身がアクティブ・バイスタンダーという言葉や存在を初めて知り、自分も今回の授業の準備を行いながら理解を深めることができ、とてもいい経験になりました。私自身のこれからの生活にも活かせることが多くあったので、相談にのる際や話を聞くときには今回の授業で学んだことを意識していきたいと思います。」

参加した高校生の感想

また、授業を受けた側の高校生が、以下のような感想を書いてくれましたので、紹介します。授業内容や方法、また大学生が行う授業について嬉しいコメントが沢山ありました。

  • 「私はアクティブ・バイスタンダーという言葉をはじめて聞きましたが、私がこのような行動をすることで、少しでも暴力を減らせればいいなと思いました。今後は、まわりによく目を向けて、被害にあっている人がいたら助けたいと思いました。」
  • 「精神的暴力については、ほとんど考えたことがなかったので、今回の話を聞いて暴力について考えを改めることができたので良かった。例に出して、それについて自分で気持ちを書くことで、より明確にすることができた。」
  • 「暴力を見て見ぬふりをするのではなく、被害者、加害者の思いを聞いて、他者視点に立って一つの出来事に丁寧に向き合える人になりたいと思った。今日学んだような関わりのポイントをしっかり押さえて、今後人と付き合っていきたい。」
  • 「今回の授業を通して、暴力にはさまざまな種類があり、自分は暴力だと感じていなくても、相手がそう感じてしまうと暴力行為になってしまうため、相手を尊重した言動をとることを心がけたいと思った。どの発表もとても分かりやすかった。」
  • 「大学生が授業をしているとは思えないほど満足感のある授業でした。聞き手参加型なのが楽しかったです。」

<補助資料に熱心に書き込む様子>

<ロールプレイの様子>

実は、福山市立福山高等学校では、昨年度の福山大学心理学科の卒業生で、今回参加の発達心理学研究室在学生の先輩でもある草野裕兵先生が教鞭を取っています。草野先生は、2020年度に福山市立福山高等学校でデートDV予防授業を実施し、その縁もあって同校で勤務しています。

また今回、授業の前後に高校生に無記名のアンケート調査を実施させていただき、その一部を卒業研究のデータとして活用することになっています。

暴力防止授業の実施だけでなく、様々な面でサポートいただいている福山市立福山高等学校の髙田芳幸校長先生を始めとし、今回の授業を企画してくださった保健部主任の和佐田知子先生、養護教諭の村上千賀子先生に心よりお礼申し上げます。

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暴力について、いけないものだと知りつつも、その実態について深く考えたことのない人は多いのではないかと思います。世界にはびこる暴力について考えること、それを防止するために教育、研究することも、心理学の大きな役割です。興味を持ってくれた高校生の皆さん、8月21日(日)のオープンキャンパスにもぜひ参加くださいね!

 

 

学長から一言:昨年度と違って、コロナ禍のハンディを乗り越え、今年は対面で高校での授業が実現して良かったですね。どうしたら暴力防止についてより良く理解してもらえるか、相当に準備し努力したことでしょう。ひとに教えることは最善の学びです。授業を受けた高校生の皆さんの感想からもレベルの高い授業だったことが分かります。