【心理学科】大学生による高校生を対象とした暴力防止授業!

【心理学科】大学生による高校生を対象とした暴力防止授業!

発達心理学研究室の学生による高校生向けの暴力防止授業は、年々パワーアップしています。今年はテーマも広くなり、かつオンデマンド型という初めての試みでしたが、苦労の甲斐あり充実の授業だったようです。本日は、そんな学生の活躍について、発達心理学研究室の赤澤淳子教授からの報告をお届けします(学長室ブログメンバーの大杉が投稿します)。

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心理学科の赤澤です。9月8日(水)に、発達心理学研究室所属の3年生が、「暴力防止授業-アクティブ・バイスタンダーを目指そう」というテーマのオンデマンド型授業を福山市立福山高等学校の3年生187名を対象として実施しました。新型コロナウイルス感染症の影響で、大学生は大学でオンデマンド型授業やオンライン型授業などを受けていますが、今回は自分たちが授業を実施する側となり、試行錯誤しながらオンデマンド型授業の資料作成に取り組みました。

<授業を実施した発達心理学研究室のメンバー(左から、安井さん、梶野さん、赤枝さん)>

発達心理学研究室では、2019年度より研究室所属の3年生が高校生を対象としたデートDV予防授業を実施しています。これまでは対面授業で、アクティブ・ラーニングの手法を用い、授業内でロールプレイングやスモールグループ・ディスカッションなどを実施していました。

2021年度は、これまでのデートDVだけでなく、暴力全般の予防法について考えることになり、「アクティブ・バイスタンダー(active bystander)」を取り上げることにしました。

バイスタンダーとは、ただ暴力を傍観している「傍観者」という意味です。しかし、アクティブ・バイスタンダーとは、暴力を防止するために、暴力に介入していく「介入者」という意味です。例えば、誰かのセクハラ的な発言に対し、周囲の人が傍観しているだけだと、それは許容された行動とみなされる危険性があり、セクハラが継続される可能性が高くなります。しかし、アクティブ・バイスタンダーが「それはセクハラ行為ですよ。」と指摘することにより、暴力の被害や加害を減らすことができるとされています。

欧米では、アクティブ・バイスタンダー教育が実施されており、その効果検証なども行われていますが、日本ではまだほとんど取り上げられていないテーマです。そのため、学生たちは、バイスタンダーについて勉強するために、“Adolescent dating violence”という書籍を読み、事前学習を進め、PowerPointスライドを用いた授業資料を作成しました。

当初は授業を対面で実施することになっていましたが、8月末の広島県の緊急事態宣言の発出を受け、高校と協議した結果、オンデマンド型の授業に変更することとなりました。そのため、作成したPowerPointスライドにさらに音声を取り込み、授業資料を作り上げました。

今回の授業の目的は、「暴力の境界や種類ついて理解すること」、「暴力を防止する方法について理解すること」の2点でした。

また、授業は以下の3部構成で行いました。

  • 第1部「暴力の境界(バウンダリー)
  • 第2部「暴力を防ぐために-他者視点
  • 第3部「暴力を防ぐために-アクティブ・バイスタンダー(介入者)を目指そう

第1部では、補助資料への穴埋めなどを指示しながら、暴力の境界と種類について説明しました。暴力の種類では、多種多様で暴力とは認識しづらい精神的暴力や、最近増加しているSNSを用いた暴力について丁寧に伝えました。第2部では、暴力の境界を考えるワークを行い、「暴力かどうか判断するのは自分ではなく、その行為を相手がどう感じるか」というような「他者視点」を持つことが、暴力の予防において重要であると説明しました。そして、第3部では、暴力の被害者や加害者から実際に相談を受けた時の対応法について説明しました。

 <オンデマンド型授業コンテンツ作成の様子>

録画したPowerPointスライド資料は福山市立福山高等学校の先生にお送りし、当日、高校生は各教室で授業を視聴しました。

<授業を視聴している高校生>

 以下に、授業を受けた高校生の感想をいくつか紹介します。

  • 「自分が思っていたよりも暴力の範囲が広くてびっくりした。知らないうちに周りに被害を与えている、なんてことにならないように自分の行動を客観的に考えてみようと思った。また、アクティブ・バイスタンダーを目指したいと思った。」
  • 「暴力の定義は人それぞれだという話で、非常にデリケートなトピックだと感じた。アクティブ・バイスタンダーという単語は、これまでに耳にしたことがなかったので、この講座で得た情報は人生においてプラスに働くだろうと思われる。激動の社会に生きる我々にとって、コミュニケーションスキルは多種多様の側面があり、『暴力』もその一種ではないかと感じた。」
  • 「何もしないことが加害者への手助けになるという考えを聞き、被害者のために動けたらいいなと思った。」
  • 「加害者への接し方、救い方を知れたことが新鮮で良かった。」
  • 「大変ゆっくりで、丁寧な説明で、とてもわかりやすかった。穴埋めの問題の答え合わせをしてくれたので良かった。自分も加害者になりうるので、相手の立場になって気持ちをしっかり考えて行動して、困っている人がいた時には、助けてあげられるようになりたい。」

<穴埋め式の補助資料に熱心に書き込み生徒の様子>

オンデマンド型授業を実施した3名の学生は、以下のような感想を述べています。

  • 発達心理学研究室3年 赤枝沙紀さん

「私は暴力の境界線や暴力の種類についての説明を担当しましたが、どういう言葉を使えばわかりやすいのか、高校生にとってわかりやすい身近な例は何かを考えるのが難しかったです。この授業でデートDVや暴力について知り、今後の生活に活かしたいと思ってくれている生徒が多く、とても嬉しかったです。その他にも、人との価値観の違いを実感した生徒が多く、感想の中にもそれが多数見られました。しかし、生徒の感想には、『価値観の違いを実感すると同時に、その価値観の違いをどう確認すればいいのかわからない』という意見も見られました。今後の課題として、そのような点についても説明できたらと考えています。」

  • 発達心理学研究室3年 梶野ひなたさん

「私は暴力を防ぐために大切な他者視点を持つことについて説明しました。この授業を作るにあたって、『アクティブ・バイスタンダー』という存在を知るところから始め、暴力とはどのようなことか、どうすれば暴力を防ぐことができるのかについて発達心理学研究室の仲間と議論を重ねました。担当した第2部では具体的な行動を挙げて暴力だと思うか否かを生徒に挙手してもらい、周囲との暴力観の差を体感してもらいました。この具体的な行動を検討する過程で、高校生が暴力観について理解するためには、どのような行動を取り上げるのが有効かつ適切であるかについて考える作業は難航しましたが、非常に有益でした。このような授業コンテンツ作成は、自分の暴力観についても改めて考えるきっかけになり、貴重な経験ができたと感じています。授業では、特に『何もしていないから関係ないのではなく、何もしないことを選択している』ということを高校生に伝えたいと考えていましたが、見て見ぬふりが加害になることを知ってくれた生徒がいたことが感想からわかり、特に嬉しかったです。これからの生活で相手の気持ちを想像できる人が1人でも多くなっていってほしいと願っています。」

  • 発達心理学研究室3年 安井雅浩さん

「僕は、アクティブ・バイスタンダーとは何か、被害者や加害者への関わり方、相談を受けたときに心がけるべきことや適切な行動について授業で伝えました。授業で伝える時には、速くなりすぎないように、重要な部分でゆっくり丁寧に伝えるということを心掛けました。この授業を行う準備の時に、僕自身も初めてアクティブ・バイスタンダーについて知ったので、この言葉や考えがこれから世の中で広く浸透してほしいですし、自分もアクティブ・バイスタンダーになりたい、人から相談を受けたときはこの授業で学んだことを活かしたいと思いました。」

今回の授業は、高校生における暴力防止に関する学びを深めることが目的でしたが、授業を行った側の大学生においても貴重な学びの経験となりました。この授業の前後には高校生に無記名のアンケート調査も実施し、その一部を卒業研究のデータとして活用させていただくことになっています。このような機会を設けてくださった福山市立福山高等学校の校長先生をはじめ、ご協力いただいた先生方に心よりお礼申し上げます。

なお、今回の授業コンテンツは、9月22日(水)に広島県立明王台高等学校の全校生徒にも視聴していただきました。大学生による高校生への暴力防止授業が、今後も普及することを指導教員として願っています。

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アクティブ・バイスタンダーという言葉は、私(大杉)も初めて知りました。心理学では、「傍観者効果」と言われる効果(自分以外に傍観者がいればいるほど、人は自ら動こうとしなくなる)もありますが、「傍観者」って、やはり曲者だなと思います。「介入者」になっていく勇気を、1人1人が持つことが大事ですね。素敵な授業が今後も広がっていくことを楽しみにしています!

 

 

学長から一言:心理学科から次々と興味深い報告が届きます。今回は高校生に向けた暴力防止の啓発授業。どうしたら意図がうまく伝わるか、担当した諸君は言葉を選び、スライド提示の仕方を工夫し、大いに考えたことでしょう。そうした努力の結果は、高校生の皆さんにきっちり受け止められていたことが感想文に表れています。まさに「教うるは学ぶの半ばたり」「教学は相長ず」そのままのエピソード。専門分野の学習を深めるためにも、こうした質の高いサービスラーニングないしボランティア活動を続けて行って下さい。