【心理学科】ポストコロナの心理学研究:顔が見える透明なマスクの効果検証

【心理学科】ポストコロナの心理学研究:顔が見える透明なマスクの効果検証

マスク生活にもすっかり慣れてしまった昨今。私たちの生活に、マスクがどんなふうに影響しているのか、それを考えることも心理学の役目です。この度、衛生マスクの着用に関する研究の成果が、国際学術誌に掲載されました!研究を行った宮崎由樹准教授からの報告をお届けします(投稿は学長室ブログメンバーの大杉です)。

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心理学科の宮崎です。

福山大学、北海道大学、およびユニ・チャーム株式会社の共同研究の成果が知覚心理学の国際学術誌『i-Perception』に掲載されました。

論文のタイトルは「Effects of wearing a transparent face mask on perception of facial expressions (透明なマスクの着用が表情の知覚に及ぼす効果)」です。口元の見える透明なマスクや(不透明な)衛生マスクの着用が表情の読み取りやすさ/にくさに及ぼす影響を調べた実験について報告した論文です。論文の和文プレスリリース英文プレスリリースもご覧ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、私たちは外出時に衛生マスクを着用するようになりました。マスク着用は、COVID-19の感染拡大防止に有効ですが、着用者の口元や表情が読み取りづらくなってしまうというマイナス面もあります。こうしたマスク常用にともなう問題への対処として、北海道大学とユニ・チャーム株式会社との共同で口周りが見える透明なマスクの評価を行いました。

この実験の参加者は、マスクなし、衛生マスク、あるいは透明マスクを着用したさまざまな表情を浮かべた顔画像を1枚ずつ見て、その表情を7択(怒り・嫌悪・恐怖・喜び・無表情・悲しみ・驚き)で判断しました。その後、その表情の強度についても0点(弱い)〜 100点(強い)で評価しました。

<実験はオンラインでqualtricsを使って行いました。この女性モデルは衛生マスクの奥では「喜び」表情を浮かべています。>

実験の結果、明らかになったのは主に以下の3点です。

  1. マスクなし(素顔)にくらべて、衛生マスクを着用することで表情が読み取りづらくなることがわかりました。ただし、表情の種類による違いがあり、女性顔画像でも男性顔画像でも、衛生マスク着用によって表情が読み取りづらくなったのは「喜び」表情と「恐怖」表情を浮かべたものでした。衛生マスクを着用した「喜び」表情を浮かべた顔は「無表情」と誤認されやすいこと、衛生マスクを着用した「恐怖」を浮かべた顔は「怒り」や「驚き」表情と誤認されやすいことも示されました。
  2. マスクなし(素顔)にくらべて、衛生マスクを着用することで「喜び」表情を浮かべた顔の表情強度は低く評定されることが明らかになりました。
  3. 透明マスクは衛生マスクとは異なり、その着用によって表情が読み取りづらくなったり、表情の強度が低く評定されることはありませんでした。

総じて今回の結果は、COVID-19流行下の対人コミュニケーション場面で表情を正確に伝えるために、透明マスクを有効利用できる可能性を示すものです。

<7表情ごとの表情判断の正答率: 衛生マスクを着用した「喜び」や「恐怖」表情を浮かべた顔は他の表情を浮かべていると間違えられてしまう。透明マスクではそのような誤認が起こらない。*が統計的に有意な差があったところです。>

<7表情ごとの表情の強度の評定値: 衛生マスクを着用した「喜び」表情を浮かべた顔は強度が低く感じられる。透明マスクではそのような強度低下は起こらない。*が統計的に有意な差があったところです。>

この論文のAltmetric(論文の注目度を示す指標)は6月中旬の公開から1ヶ月で130を超え、トレンド論文として、『i-Perception』誌のトップページで以下のように紹介されています。この続編となる学童期の子ども達を対象とした実験も進んでおりますので、成果が学術誌等へ掲載され次第、学長室ブログで紹介したいと思います。<一番左が今回の論文です。ちなみに一番右の論文も私たちが発表した衛生マスクに関する研究(北海道大学主導研究)です。>

なお、今回紹介したような産学共同研究には、認知心理学研究室の学部生も参加・協力してくれています。本研究には、 4年生の森田美有さん(広島県立大門高等学校出身)が協力してくれました。

このコロナ後の社会で、心理学はどのように社会に貢献することができるでしょうか?高校生の皆さん、福山大学の心理学科でこの難しい課題にチャレンジしてみませんか?

よろしければ、8月21日(日)のオープンキャンパスへお越しください。心理学科の教員一同、お待ちしております!

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困難な時代ですが、そんな時に心理学が果たせる役割はたくさんあります。今回ご紹介したマスク研究も、表情認知という人のコミュニケーションを支える大切な要素を検討した重要な研究です。心理学の果たす社会貢献、皆さんもぜひ、注目してみてくださいね!

 

 

学長から一言:認知心理学の宮崎准教授の研究成果発表では、少し前の、マスク着用が顔の大きさ知覚に与える影響の研究を覚えています。今回はマスクが表情認知に及ぼす影響の研究。コロナ禍でマスク着用が日常になった今日、まさに多くの人が関心を寄せ注目する点を深掘りした貴重な研究成果です。国際的な専門学術誌でも高い評価が得られたことを心から慶びたいと思います。