【生物工学科(生物科学科への名称変更 認可申請中)】生物多様性を学ぶ

【生物工学科(生物科学科への名称変更 認可申請中)】生物多様性を学ぶ

生物工学科は、2024年4月より生物科学科に名称変更します(文部科学省に認可申請中。一部内容を変更する場合があります)。これまで生物工学科は、DNA、細胞、個体、群集、生態系、そして進化の視点で生き物を理解することに努め、得られた生物科学の知見を社会に役立てることを目指してきました。特に現代社会は生物多様性の損失の危機という最大の環境問題を抱えていることから、生き物をより大きな視点、つまり生態学や進化生物学の視点で学ぶ必要性が高まっています。今日は、学科の実習のなかから、キャンパスの生物多様性を学ぶ生物多様性実習(3年次)を紹介したいと思います(生物工学科 佐藤)。

生物多様性豊かなキャンパス

福山大学は三蔵の丘に設置された大学で、森に囲まれていることから、様々な野生動物が出没します。食肉類と呼ばれる哺乳類だけを取り上げて見ても、ニホンテン、アナグマ、タヌキ、アカギツネなどなど普段の生活では見かけない哺乳類が大学内およびその周囲の森に暮らしているのです。そうしたキャンパスは全国的にも珍しく生物多様性を学ぶ上では大変すばらしい環境を提供してくれます。下の動画は、夕方、学生たちが少なくなってきたときに、学生たちがいつも歩く道を、とことこと歩くアナグマです(2023年5月13日撮影)。アナグマは日本固有種のイタチ科の動物で、巣穴を掘ってそこで暮らしています。大学内のキャンパスでは、側溝を利用しているのをよく見かけます。

https://www.youtube.com/shorts/ZrcZ9rSodrk

福山大学キャンパスを生物多様性の学び舎とする

何故、生物多様性を学ばなければならないのでしょうか?ある経済学を専門とする先生に「あの山の森がすべて伐採されたら一体何が起こるのですか」と聞かれたことがあります。わたしは教科書にある生態系サービスの話を持ち出して、生態系にはたくさんの恵みがあるから守らないといけないという説明をしましたが、わたしの話はあきらかに具体性に欠けていました。聞かれていたのは、“その森”が無くなった時の話なのです。何故、生物多様性を守らなければならないかと学生に聞いてみると、必ず「生態系が崩れるから」という答えが返ってきます。私の答えも学生の答えもきっと正しいです。しかし、生物多様性の問題を解決するためには、その場所がもつ固有の生物多様性の意義という具体性を持たせることが大変重要なのです。簡単ではありません。しかし、教員も学生も一緒になって、この複雑な生物多様性の仕組みを学ぶ必要があるのです。そこで「福山大学キャンパスを生物多様性の学び舎とする」というテーマを掲げて、身近な生物多様性の意義を理解しようとしています。生物多様性実習はその一環です。

生物多様性実習(3年次)

もう一つ生物多様性を学ぶ上で素晴らしい点が本学にはあります。それはこんな森の中に最新のDNA分析機器が揃っていることです。皆さんはミスマッチをチャンスととらえたことはあるでしょうか?「森の中でDNA分析」、これほど魅力的な状況はありません。生物多様性には複数の階層があり、遺伝子の多様性は生物多様性を生み出すもっとも基礎となる多様性です。3年次の生物多様性実習では、哺乳類などの脊椎動物や昆虫を対象として、種の多様性とDNAの分析手法を学びます。フィールドから実験室まで、DNAから生態系まで、幅広い知識と技術を学んでもらいます。捕虫網を持って学内を歩くと、他の学科の学生に珍しいものを見るような目で見られますが、そんなのお構いなし!

捕虫網を持ってキャンパスを歩く

採集した虫の標本を作り、種の多様性を学ぶ

東の森でアカネズミを捕獲(許可有)

薬草園でツチガエルを捕獲

同じく薬草園でカナヘビを捕獲

DNAの実験:小さなチューブの中の見えないDNAを吸わないように上澄みを捨てる!

DNAの実験:未来創造館にある3500DNAシークエンサーでネズミと昆虫のミトコンドリアDNAを分析

2050年ビジョンと2030年ミッション

少しだけ難しい話をします。2022年に開催された生物多様性条約第15回締約国会議では、昆明・モントリオール枠組みが採択されました。そこで、世界は2050年に向けたビジョンとして「自然との共生」を掲げ、2030年に向けたミッションとして、ネイチャーポジティブ(自然の再興)の実現を目指すことになりました。ネイチャーポジティブは「自然を回復軌道に乗せるため,生物多様性の損失を止め,反転させること(環境省)」を意味します。生物多様性の損失は地球の限界(プラネタリーバウンダリー)を超えるほど大きいものであると言われているのです。2030年というともうすぐですね。2024年4月に大学生になった人が、2028年3月に卒業し、社会で働きはじめたまさにそのときに、このミッションに対して社会がどのように対応したのかが問われる時代になっています。そしてその結果を踏まえて、20年後の2050年に、企業や他の組織のキーパーソンとなった40台の皆さんは、「自然との共生」が果たして達成できたのかどうかを評価する必要があります。これから、どのような社会で生きるにしろ、大学時代に生物多様性を学ぶ意義はとても深いのです。

福山大学は、そのユニークな教育舞台と充実した機器設備を使って、生物多様性の知識と技術を頭と体で学べる大学です。興味のある皆さんは、生物科学科(文部科学省に認可申請中:現 生物工学科)で学んでみませんか?

次回のオープンキャンパス情報は以下のサイトからご覧ください。酵母の生物多様性から社会への活用までの話を聞くことができます。ぜひお越しください!

7/22(土)テーマ:酵母のアルコール発酵を科学する

 

学長から一言:生物の多様性について知るのに最適の条件の整った生物工学科は、比較的大きな哺乳類から昆虫、さらには酵母まで何でも学ぶことができそうです。音楽グループの「いきものがかり」という面白い名前を耳にしたことがありますが、「生き物」が大好きだったり、環境問題に関心があったりする人にはたまらない魅力にあふれた学科ですね。