生命工学部

Faculty of Life Science and Biotechnology

【生物科学科】糖で操る遺伝子スイッチ!枯草菌での新たなタンパク質発現技術と転写因子RhaRの機能解明

2023年度に本学大学院(工学研究科 生命工学専攻)を修了した桑原佑奈さんが、広岡和丈教授の指導のもとで取り組んだ研究成果が、国際的な学術雑誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」に掲載されることになりました(論文タイトル:Engineering rhamnose-inducible T7 expression systems in Bacillus subtilis utilizing the rhaEW promoter and identifying critical residues in RhaR regulating this promoter)。

この成果は、2023年8月掲載されたフラボノイド誘導型T7発現系、今年5月に掲載されたペクチン誘導型T7発現系に続く第3報となります。今回の研究では、枯草菌(Bacillus subtilis)を用い、ラムノース(自然界に存在する糖の一種)の添加によって目的のタンパク質を効率よく発現させる「T7発現系」を開発しました。さらに、単離された変異体の解析を通じて、発現制御に関与するRhaR転写因子の機能に重要なアミノ酸残基を同定し、より厳密な発現制御が可能な改良型システムを確立しました。本研究は、有用タンパク質を安全かつ柔軟に生産するための新たな方法の開発であると同時に、RhaRが誘導物質をどのように認識してDNA結合活性を制御しているかという基礎的な分子メカニズムの解明にも貢献しています。

これまでに開発されたT7発現系では、フラボノイドやペクチンが誘導物質として用いられてきましたが、本研究で構築したシステムではラムノースによって誘導される点が特徴的です。このように、非毒性で安価な天然物質を利用してタンパク質発現を「ON」にできるシステムは、医薬品や酵素などの有用タンパク質の生産への応用が期待されています。

本研究成果も、生物科学科の学生たちが最先端のバイオ技術に挑戦し、国際的に評価される成果を生み出していることを示しています。今回の研究にも学部4年生の学生が研究室の一員として参加しており、実践的な研究に取り組める環境が、本学科の大きな魅力の一つです。

 

本研究で開発したタンパク質発現システムのしくみ

この図は、ラムノースを加えるとタンパク質を作り始め、グルコースを加えると作るのを止める、スイッチのような働きをする新しい「タンパク質発現システム」のしくみを示しています。
今回の研究では、ラムノースでON、グルコースでOFFになる遺伝子の制御領域(a)や、その改良型(b)を「T7 RNAポリメラーゼ」という酵素の遺伝子と組み合わせて、枯草菌の染色体に組み込みました。さらに、蛍光タンパク質(EGFP)の遺伝子を、T7プロモーターというスイッチの下に配置したプラスミドを細胞に入れ、発現の変化を調べました。このシステムでは、RhaR転写因子がラムノースに応答してONのスイッチを入れ、CcpA転写因子がグルコース存在下でOFFにする働きを担っています。

 

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