【生物工学科】ユニークな授業“ワイン品質評価学”

【生物工学科】ユニークな授業“ワイン品質評価学”

発酵の基礎であるワイン醸造を体験することで、バイオテクノロジーを身近に感じてもらう「福山大学ワインプロジェクト」を、生物工学科では進めています。1年次は“植物栽培実習”で植物栽培の基本を学び、2年次では“果樹栽培加工実習”でブドウ栽培やワイン醸造を学びます。この時に醸造したワインはおよそ1年熟成させ、3年次の“ワイン品質評価学”で官能評価を行います。生物工学科では様々なユニークなカリキュラムが行われていますが、今回は実際にお酒を口に含む、この「ワイン品質評価学」を紹介したいと思います。学長室ブログメンバー兼福山大学ワイン醸造所長の吉崎がお伝えします。

5つの基本的な味覚「五味」

ワイン品質評価学は全7回、1単位の授業になります。初めの数回は官能評価の理論を学び、その後は実践を交えて進めていきます。講義と実習のハイブリッドですね。最初の実習は基本味が判別できるか、ブラインドで確かめます。ヒトが感じる最も基本的な味は「甘味」・「酸味」・「塩味」・「苦味」・「うま味」の5種類ですが、これに加えてワインの味わいに関係する「金属味」と「渋味」を口に含んでどの味か当ててみます。簡単に思われるかもしれませんが、慣れていないと意外と間違えます。

ワインの香り

ワインには数百種類もの香り成分が含まれていて、ワインを扱うソムリエさんなどは100種類以上の香りを識別しているようです。科学的に同定されたものもあればされていないものもあり、また複数合わさって特定の香りとして感じる場合もあり、非常に奥が深いです。東広島市にある独立行政法人酒類総合研究所では、官能評価訓練用ワインフレーバーサンプルの作成(PDFのリンク)がされていて、これは私もお手伝いをしたので同じサンプルを所蔵しています。授業ではこの39サンプルを実際に嗅いでみて、どのような香りがするのかを記述するという実習を行います。これは他ではなかなか体験できない、贅沢な実習だと思います。

 

官能評価

およその薀蓄を深めたら、いよいよ前年度に自ら造ったワインの官能評価を行います。ただの味見と違うのは、簡単に言えば再現性があるように環境を整えることです。講義室なので厳密な制御は難しいですが、気温や明るさ、グラスなどをできるだけ一定にすることで、それぞれのワインの違いが見えてきます。同じブドウを使っているのに、造った班によって全然味わいが違うのですよね。私の指導が及んでいないのが一因なので、誰が造ったワインも美味しく仕上がるように試行錯誤中です。

日本ワインコンクール審査員による指導

最後の総仕上げに、後藤奈美客員教授より官能評価に及ぼす醸造過程の科学的な背景を解説いただき、さらに実際の市販のワインを使って官能評価の実践を行います。後藤客員教授は酒類総合研究所の理事長や日本ブドウ・ワイン学会の会長を務めておられ、また日本ワインコンクールの審査委員長でもあります。後藤客員教授の授業をこうして直に受けられるのは非常に恵まれていますね。

新型コロナウイルス感染予防の観点から、今年は広く十分すぎるほど間隔を空けて授業を行いました。それぞれのテーブルには6種類ずつワインが配られ、口直し用の水と吐き出し用の紙コップも用意され、結構本格的です。ワインは向かって、右からソーヴィニヨン・ブラン(白)、リースリング(白)、ピオーネ(ロゼ)、マスカット・ベーリーA(赤)、メルロー(赤)、ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー(赤)と並んでいます。

使用するのはもちろん官能評価用のワイングラスで、国際標準規格(ISO3591)に沿ったものです。テイスティングシートに記述しながら、点数を付けていきます。ソムリエなどの資格を目指すのでなければ、なかなか体験できない実習です。けっしてタダの飲み会じゃないのが伝わるでしょうか?(笑)

以上、生物工学科の“ワイン品質評価学”をざっと説明しましたが、いかがだったでしょう? 

最初にも書きましたが、ワイン造りは植物学や微生物学、そして生化学や有機化学をも含む総合科学です。専門が細分化され、なかなか全体像が掴みにくいバイオテクノロジーを俯瞰するのにぴったりな教材です。また、自分たちでブドウ栽培からワイン造りまで行い、官能評価まで体験できるのは全国的にも非常にユニークなカリキュラムだと思います。是非、皆さんもワイン造りを通してバイオテクノロジーの見識を深めてみませんか!

最後に、後藤客員教授はこの3月末で酒類総合研究所を定年退官されるそうです。日本のワイン業界にもたらした功績は計れず、私ももちろん酒類業界でも多くの方が後藤客員教授にはお世話になっており、惜しまれつつの退官です。しかし、日本ブドウ・ワイン学会長ほか数々の役職は継続されますし、私たちも引き続きお世話になります。まずは、一区切りを迎えられる後藤客員教授、本当にお疲れ様でした!

 

学長から一言:ふーん、「ワイン品質評価学」は、大学の授業とは思えない、本格的なものですねッ!!!ぶどうを栽培し、収穫したぶどうでワインを製造し。。。学生の皆さん、いつの間にかバイオテクノロジーの全体像を学んでいますよ!ユニークで有意義な授業!!!