【海洋生物科学科】国際学術シンポジウム(SIMSEA 2nd Regional Symposium) へ参加!

【海洋生物科学科】国際学術シンポジウム(SIMSEA 2nd Regional Symposium) へ参加!

地球温暖化に伴う海水温や海面の上昇など、気候変動による沿岸環境への影響を把握することは、海に面したアジア諸外国でも共通の課題です。また、アジア諸国の多くは、かつて瀬戸内海が経験した開発による歴史を繰り返し、沿岸海域は環境悪化の一途をたどっています。こうした沿岸海域の持続的な利用について議論する国際シンポジウム:SIMSEA(Sustainability Initiative in the Marginal Seas of South and East Asia)2nd Regional Symposiumへ参加してきましたので、海洋生物科学科の渡辺が報告します。

 

シンポジウムはフィリピンのマニラ(11/19~20)で行われました。私は福山大学の客員教授でもある宮崎信之先生(東京大学名誉教授)からの依頼で、宮崎先生が企画・発案したセッションで演者の一人を務めました。セッションの内容は、バイオロギング(動物に記録計を付けて行動や環境計測を行う手法)を用いた沿岸海域の環境計測や持続的可能性へ向けた研究を紹介するものでした。研究内容の詳細については、研究室HP過去の投稿をご覧ください。

このような依頼を受けましたが、私が福山大学で行う研究は、瀬戸内海に棲む動物の行動や生態を明らかにするというものです。それがアジア諸外国の環境問題を解決するうえで役に立つ話になるのか、依頼を受けて以来、悩み続けていました。

他のシンポジウム演者の講演では、色分けした世界地図や衛星画像がスクリーンに映し出され、グローバルスケールで環境変動を分析した例などが報告されていました。一方、私の研究は瀬戸内海という実にローカルな話です。しかし、グローバルな(漠然とした)話をされるよりも、目の前で起きているローカルな(現実的な)出来事に人は関心を持つのではないかとも思います。

皆さんも地球温暖化により、世界各地の海水温が徐々に上昇して南極や北極の氷が解けていることはニュースなどで聞いたことがあるかと思います。しかし、どのくらいのスピードで海水温が上昇しているのかご存知でしょうか?
気象庁のサイトによると、世界各地の海域の平均水温は過去100年間でわずか+0.54℃の上昇率です。私のような海洋生物学者にとっても、これは思っているよりもゆっくりとしたスピードでした。皆さんはこれを聞いて「いますぐ何とかしないと!」と思うでしょうか?私は「なんだそんなものなのか」と安心していました。

さらに、気象庁広島県のサイトで日本沿岸や瀬戸内海沿岸の海水温の変化を調べてみました。すると、日本沿岸の上昇率は世界平均の約2倍(+1.19℃/100年)、さらに瀬戸内海の上昇率は世界平均の約6倍(+3.1℃/100年)と世界でも類を見ない速度で海水温が急速に上昇していることがわかりました。このデータを見て初めて、海水温の上昇を身近な問題として感じることができました。また、こうした身近な問題に意識を持つことが地球規模での環境問題を解決することへ繋がるのではないかと思います。

バイオロギングセッションでの講演の様子

私の講演では、最初に日本地図を見せ、こう話しました。
瀬戸内海に面した福山大学から来ました。」
「きょうは瀬戸内海という閉鎖された小さな海域で暮らすユニークな動物(カブトガニとナルトビエイ)に関する研究を紹介します。」
「地球規模で見たら、無視してもよさそうな小さな海域(瀬戸内海)ですが、日本人口の約3割の4千万人近くがこの沿岸に住み、いまでもその天然資源に依存した生活を続けています。」
「私たちの将来にとって、瀬戸内海の自然を理解し、持続的に利用していくことはとても大切なことです。」
「この動物たち(カブトガニ・ナルトビエイ)の目線で瀬戸内海を理解することは、その有効な手段であると考えています。」
・・・

あえてローカルな話(瀬戸内海)であることを強調して、身近な問題として感じてもらうことを意識しました。

バイオロギングセッションの最後に他の演者の方々と記念撮影(前列右から2人目)

シンポジウムセッションでは、他の4人の演者とともに魚類・アザラシ・海鳥・ウミガメについて、バイオロギングを使った海洋環境や海洋汚染を計測する新たな手法について紹介しました。総合討論の場では、アジアの諸外国がこのバイオロギング手法を導入するための教科書を作るべきだという意見がありました。現在、私も執筆に加わった日本語の参考書(例えば、バイオロギング1)はいくつかあります。福山大学での私の講義では、それらを海洋動物の行動学・生態学の入門書としています。しかし、英語の参考書はないので、それは良いアイディアだと思いました。私たちが瀬戸内海で行う調査が近い将来、アジアの諸外国の環境問題を解決する役に立つ日が来るかもしれません。

世界三大夕焼けの一つ:マニラ湾の夕陽

シンポジウム会場となったのは、フィリピンでも最も伝統のある一流ホテルでした。上の写真は宿泊した11階の客室から撮影したマニラ湾に沈む夕陽です。何でも世界の三大夕焼けの一つとして有名だとか。ホテルから見る夕陽は確かに美しかった。しかし、会議後にマニラ市内を歩き、その劣悪な衛生環境には驚くことばかりでした。ホテル近くは、マニラ市内でも高級住宅街に相当する地域なのでしょうが、ホテルのすぐ裏では汚水やゴミは処理されずに放置されていました。たくさんの野良犬や野良猫が路上を歩き、その横では人々が寝ており、日本人とわかると物乞いに寄ってくる子供たちもいました。戦後の広島は、きっとこんな感じだったのかもしれません。きっとマニラの真実はこちらの方で、ホテルから眺める美しい世界はどうやら幻想なのでしょう。動物にビデオカメラを付ける私の研究も、おとぎ話のように思えてきました。瀬戸内海から発した私の研究が、いつの日かグローバルな環境問題を解決する役に立つものなのか?この真実を目の当たりにすると、とても想像ができません。この会議後の散歩で、実に大きな課題を突き付けられた気がしました。

会場となったホテル裏のマニラの街並み

 

学長から一言:最近その研究が国内はむろん、世界的にも、そしてマスコミでも良く取り上げられている渡辺伸一准教授のマニラでの国際学会発表報告ですが。。。研究の意義と厳しい現実の両方を見せていただきましたッ!だからこそ研究を続けなければ。。。