【海洋生物科学科】豪雨災害後に海洋(ナルトビエイ)調査を再開!

【海洋生物科学科】豪雨災害後に海洋(ナルトビエイ)調査を再開!

中国地方を襲った豪雨から早3週間が近く経ちました。豪雨は中国地方の各所に深い爪痕を残し、断水や交通機関の乱れなど、いまだに我々の生活に大きな影響を与えています。そして、豪雨の後はほとんど雨が降らず、連日40℃近い猛暑が続いています。さらなる大雨も心配なところですが、干ばつによる農作物への被害なども深刻な問題です。海洋生物科学科の渡辺です。久々の投稿になります。

こうした異常ともいえる現在の気象は、今後の私たちの生活にどのような影響を与えるのか、とても不安に感じます。今回の豪雨の被害を短期的に考えるだけでなく、長期的な視点で影響を考え、その対策を立てていくことも重要な課題だと思います。

豪雨による海洋環境への影響は?

地球温暖化のような気象の変化は、感じることのできないほどゆっくりとした時間の中で生じる。そして、エルニーニョ現象などの海水温の上昇に伴う異常気象は、遠く離れた地球の裏側で起きている。我々の生活とは直接関係のない出来事である。以前の私はそう考えていました。しかし、こうした異常気象による災害が日本各地で毎年のように起こり、多くの犠牲者を生み出しています。こうした劇的な気象の変化は、いまや異常ではなく常態化しつつあります。これが地球規模の環境変化の影響であり、世界中で同様な被害が生じる危険があることを認識しなければいけないと思っています。私は、気象や防災の専門家ではありませんが、海洋生物の研究を通じて、何とかこの問題に取り組みたいと考えています。

大雨は、洪水や土砂崩れを引き起こし、私たちの生活に直接的な被害をもたらしました。こうしたニュースは連日報じられていると思います。しかし、大雨が瀬戸内海へ流れ込み、どういう影響をもたらすのか?は不明です。大雨は河川を通じて大量の淡水とともに土砂や生活ゴミを瀬戸内海へ排出します。上の写真は、豪雨後の7月9日に因島キャンパス前の海岸で有瀧教授が撮影したものです。海域には大量のゴミが漂流し、海岸に漂着していました。こうした漂流物は船の運航を妨げるだけでなく、漁網に絡まるため地域の水産業に大きな打撃を与えていることが予想されます。また、漂流するプラスチックゴミは時間とともに粉砕されてマイクロプラスチックとなり、海中を漂います。マイクロプラスチックは、海洋中の汚染物質を吸着し、魚類などの体内に取り込まれ、やがてそれを食べた人の健康に影響を与えることが指摘されています。このように長期的に、豪雨が私たちの生活に悪影響を与えていることも否定できません。

海洋動物の目線から得られること

私の研究室では、瀬戸内海に棲む海洋動物にビデオカメラや環境計測を行う記録計を付け、海洋動物の目線で海の環境を記録する研究をしています。そもそもの目的は、対象となる魚や海鳥などの海洋動物の生態を知ることでした。しかし、海洋動物の目線で得られた情報を通じて、私たちの認識とはまったく異なる海の世界を垣間見ることがあります。この手法を使って、瀬戸内海の環境が豪雨の前後でどう変化するのか?ぜひとも調べていきたいと考えています。

これまで、福山大学の目の前に広がる松永湾でナルトビエイという大型のエイに記録計を付ける調査をしてきました(写真上)。豪雨災害の数日前にもこの調査を行っており、大雨による被害が生じる前の松永湾の様子や、水温などの環境情報がナルトビエイ目線で得られています。

待ちに待ったナルトビエイ調査を再開!

豪雨災害から2週間近くが経過し、海上での安全が確保できた7月19日、学生たちとエイ調査を再開しました。調査ではエイを海の上から見つけて、それを釣り上げます。釣りというと餌を付けて待つイメージですが、この釣りは違います。1メートルを超えるエイを海岸から見つけ、釣り針を投げ入れて泳ぐエイを引っ掛けます。「釣り」というか「狩り」に近い感覚です。この日は、久々の調査で気合を入れて、2匹を目標に捕獲を行いました。

大雨から2週間経ったというのに、海上にはたくさんの漂流物があり、水はひどく濁っていました。そのため、エイを見つけるのが難しく、調査は困難を極めました。じっと海中に目を凝らしているとエイの輪郭を示すステルス戦闘機のような影!すかさず、仕掛けを投入してエイを引っ掛けます。しかし、この日はなかなか釣り上げることができません。猛暑の中、3時間かけて何とか2匹のエイの捕獲に成功しました。体重20kgを超えるまずまずのサイズです。

捕獲した2匹のエイには、3次元の遊泳経路を計測するための記録計と海中の塩分濃度を計測する記録計をそれぞれ付けました。これらのデータから、松永湾内のどこをエイが利用し、そこの環境が大雨の前と比較してどう変化したのかを知ることができるかもしれません。今回、とくに期待していたのは塩分濃度の変化です。大量の河川水の流入により、湾内の塩分濃度がどの程度変わるのか?これは海洋生態系に大きな影響をもたらす要因となることが予想されます。

調査船「爽風丸」で記録計を回収

装着した記録計は、予め設定した時刻に自動的に切り離されて、海面へ浮上します。記録計からは電波信号が出るので、海上でアンテナを振り、その信号の方角へ船で向かいます。どこで装置が浮上するのかはわからないので、いつもハラハラ・ドキドキで浮上時刻を待つことになります。

装着から4日後、この日はいつもより遠くの海上で装置が浮いていることがわかり、調査船で急行しました。装置の回収には、因島キャンパスの藤井船長が調査船「爽風丸」で同行してくれています。

海上に浮かぶ記録計を発見して回収すると、やっとデータを得ることができます。私たちの緊張が解ける瞬間です。

得られたデータから、

大雨後、松永湾の塩分濃度が普段より0.5%ほど一様に低いことがわかりました。河川から淡水が流れ込むと、比重が低い淡水は上へ比重の高い海水が下へ溜まります。しかし、大雨の影響から、淡水と海水が攪拌され、海底付近でも塩分濃度が下がったのではないかと推測しています。さらに、この時期の過去のデータと比較すると、海水温が高いことも示されました。詳しくは、今後の学生たちの卒業研究の中で明らかになってくるかと思います。こうした災害時だからこそ調べておかなければいけないことがたくさんあると思います。今後も、私たちは調査研究を通じて、社会へ還元できる知識と知恵がないものか、模索していきたいと思います。

 

学長から一言:豪雨災害後授業を再開してようやく1週間、大学のキャンパスにも学生が戻ってきましたが、まだ完全に全員、というところまで行かず、最後の手当を急ピッチで行っているところです。。。が、なんと頼もしい!!!このような環境を逆手にとって、このような状況でなければ出来ない研究を始めている学生と教員がいました!!!学生達のこの力強い笑顔に、私も疲れを忘れます!!!