【人間文化学科】「人間文化」を学ぶとは?―授業紹介

【人間文化学科】「人間文化」を学ぶとは?―授業紹介

「福山大学の人間文化学科とは何を学ぶところなのか?」という質問を受けることがあります(本学科の学生も、就職活動での面接で質問されることがあるそうです)。「本を読む」というイメージが強いと思いますが、それだけではありません。そこで今回は、具体的な事例を2つ交えながら「人間文化学科の学び」について、学長室ブログメンバーの清水がお伝えします。

1、オープンキャンパスの「模擬講義」

人間文化学科での学びを体験できる機会が模擬講義です。ここでは、今年度の夏に実施された2つの模擬授業について紹介します。

体験入学会:8月21日(日) 
村上亮准教授「大学における歴史学の学び―ナチを題材として―」

ドイツのヒトラー政権の姿へ限りなく迫る試みです。 ナチを取り扱った書籍や映像は日本にも数多くあります。特に、私たちはナチの映像に触れる際に、それを「実際にあった事実」として認識しがちです。すなわち、その映像の作り手であるナチ政権の意図を考えることをせずに、そのまま受け入れてしまっていないでしょうか。例えば、ナチが自らの成果として大々的に宣伝した失業問題の解決も、統計資料を検討してみるとイメージが先行した「神話」である事実が浮き彫りになります。この一例は教科書に書かれている内容にも疑問をもつことの大切さ、わかりやすさの中に隠された「嘘」が見えてくることの面白さを示してくれています。

キャンパス見学会:9月10日(土)
青木美保教授:「「穴の海」伝説から見る古代の備後―井伏鱒二の郷土観から―」

青木教授の日本近現代文学ゼミでは、2006年から福山市出身の作家井伏鱒二の「在所もの」(故郷を舞台とした作品)について、読解とフィールドワークを続けています。この日の模擬授業では、井伏が郷里について書いた随筆に登場する「穴の海」伝説が取り上げられました。「穴の海」とは、現在の福山湾から神辺平野にかけて「奥行きの深い入り海になつてゐた」その「入り海」を指し、『日本書紀』には、日本武尊がその「穴の海」に住む「悪ぶる神」を征伐したという話が記されています。この地には、6世紀ごろ大和朝廷と深い関係を持つ「アナ氏」一族が住んでいたという歴史もあり、彼等のものと思われる古墳が多くあるとのことでした。模擬授業の中で紹介された今年実施のフィールドワークでは、井伏が少年のとき、生家の裏山で発掘したという古墳を確認したこと、実地調査も踏まえて古代の福山の様子を想像し、現在の福山の起源を考察したことについて説明がありました。

こうした模擬授業からは、人間文化の学びが、文献や史料、フィールドワークを通じて対象テーマの深層へと向かい、「「調べ」「考え」「議論する」」ものであることを体感できます。

 

2、「教養ゼミ」

人間文化学科は、歴史学や文学の他にも多彩な専門を学ぶことのできる場です(学科教員の情報はこちら)。その一例として、1年次生対象の授業「教養ゼミ」について紹介します。この授業は、学科教員全員が持ち回りで授業を担当するオムニバス形式をとっています。授業テーマも毎回異なり、教員の専門を活かした内容となっています。授業テーマの一部は以下の通りです。
 

「建築で見る日本古代史―日本建築の源流を追って」(日本古代史)
「昔の「普通」を考える」(日本文化史)
「言葉をつなげる、言葉でつながる」(日本語学)
「韻数文解」(アメリカ文学)
「記憶の文化」(ヨーロッパ思想)
「祈りの行動学」(中国思想・文化)

 
例えば、私が担当する「祈りの行動学」では、『日本霊異記』(日本最古の仏教説話集)や道教(中国土着の宗教)などの資料から「祈る」という身近な行為に付随する諸要素を取り上げ、様々な「祈り」のかたちについて一緒に考えていきます。この授業は、私が日頃から関心を持っていて、少しずつ調べていたことを形にしたものです。ただし、この「興味関心を掘り下げて形にする」ということは、なにも教員だけに限りません。
 
人間文化学科で学ぶ学生も、それぞれ何かしらの興味関心を持っています。それは歴史上の人物や文学作品、音楽やアニメ、地元の文化や遺跡など多種多様です。学生たちは様々な機会においてそれらをさらに探究し、他者との議論を重ね、言葉で表現して伝えることを繰り返します。最初はたどたどしいかもしれません。しかし、このことは次第に自己表現力として形となり、さらには人と人、人とモノを繋ぐ力になります。そうした力を育てていきながら、自分とはどのような人間か、自分が地域において貢献できること・役割は何かについて考えていくのです。

人間文化学科の学生たちは、こうした学びを4年間積み重ねながら自分の道を模索し、就職や進学という“未来”に繋げていきます。自身の興味関心を通じて、言語や資料、そして言葉を駆使しながら”新しい自分”を創造する力を磨く。これは「人間文化」創造の歴史とも重なるのではないでしょうか。

次回の記事では、こうした学びを積み上げてきた4年生の就職活動(就職体験発表会)についてレポートします。ご期待ください。

 

 

学長から一言:オープンキャンパスでの「模擬授業」を通じて、人間文化学科における日々の教育活動の一端が、参加高校生など聴講者に伝わったことでしょう。また、入学後に学ぶ「教養ゼミ」の内容を含めて、人や社会の有り様にさまざまな観点から深く切り込んでいくこの学問分野の魅力を、もっともっと多くの若者に感じて欲しいものです。