【人間文化学科】フィールドワークによる文学探訪―井伏鱒二の随筆に現れた古墳を見る

【人間文化学科】フィールドワークによる文学探訪―井伏鱒二の随筆に現れた古墳を見る

フィールドワークでは、文献を読むだけでは味わうことのできない感動が湧き起こることもあります。今回はそんな例の一つとして、青木美保教授がゼミにて実施したフィールドワークについての報告が届きましたので、学長室ブログメンバー・人間文化学科の清水がお伝えします。

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青木ゼミフィールドワーク2022―井伏鱒二の随筆に現れた古墳を見る―

人間文化学科では、3年次にそれぞれのゼミに分かれて研究活動が始まります。青木ゼミは、日本近現代文学研究を専門にするゼミで、これまで福山市出身で名誉市民でもある井伏鱒二の、郷土について書かれた作品の舞台や事跡を実地踏査してきました。そして、その調査結果を報告書としてまとめることによって、卒業論文を書くための研究技術を身に付けることにつなげています。

この調査は、2006年第1回から毎年続けてきました。その都度、地域の方々に助けられて新しい発見があり、井伏鱒二研究にも新情報を加えてきましたが、2020年度・2021年度はコロナ禍のため中止となりました。その中で、2021年度は井伏鱒二の郷土観をテーマに、エッセイ「郷里風土記」(昭和13年)などを取り上げて、それを基に実地踏査の計画を立て、その成果は福山大学備後圏域経済・文化研究センターの創設記念行事の際に展示しました。そして、2022年度、延期となっていたその実地踏査計画は5月21日(土)についに実施の日を迎え、青木ゼミ3年生・4年生に興味を持った1年生3人が加わり、総勢20名で調査地に向いました。調査地は、井伏生家のある福山市加茂町です。

井伏は、エッセイの中で郷土備後が古い伝説を多く持つ歴史的な場所であることを力説し、特に自分の生家付近について、「このあたりから山地にかけ、南向きの斜面には古墳の集団がよく見つかつた。私も子供のときの山で幾つとなく古墳を発掘し、土器をたくさん所有して遊戯のときに使用した。」と述べています。今回の最大の目的は、井伏生家付近の古墳を見ることでした。

今回は、講師として、いつもの案内役の郷土史家・田口義之先生から、元広島県埋蔵文化財調査室長の篠原芳秀先生をご紹介いただきました。篠原先生は、事前に何度も井伏生家の裏山へ調査に行かれ、地域の方の協力の下、ついにその古墳を発見されました。こうして、井伏研究にまた新たな発見が一つ加わることになったのです。篠原先生によれば、この古墳は県埋蔵文化財において「土井古墳群」(第1号から第3号)として登録されており、横穴式石室を持つ古墳時代後期のものとのことでした。当日は、井伏家にご挨拶した上で、その裏山(井伏家ご当主談では「横山」)に向いました。まず、10分~15分程度登った林の中に第1号古墳がその姿を見せました。第2号古墳は急な山の斜面上にあり、当初躊躇していたゼミ生たちも次々にその斜面を登って古墳を間近に実見しました。

その際の学生の感想です。「普段体験することがほとんどない古墳の調査や、井伏鱒二、窪田次郎のゆかりの地に行ったことで、彼らが備後地域を愛したその魅力を自分なりに理解できた気がしました。また、先輩方が調べて下さった資料をもとに探索することで、なぜ備後地域には古墳が集中しているのかが気になりました。」(1年生)

「古墳の形や様子、井伏の家との位置関係など、授業だけでは分からないことを学ぶことができて良かったです。また、実際に行ってみることで、とても楽しく学ぶことができました。」(3年生)

「井伏家の近所の方が「この辺りに古墳があるの?、へぇ〜」というような反応だったのに対して、井伏家の裏山にしっかりと古墳があったのが印象的だった。(中略)井伏は郷里のことを自慢しないようで自慢していると青木先生が以前仰っていたが、その通りかもしれないと感じた。」(4年生)

当日は、その後、姫谷焼窯跡窪田次郎邸跡地などを巡った後、窪田次郎旧宅の建物を移築したレストランで地産地消の料理をいただき、帰路につきました。現在、ゼミでは、授業で報告書作成のための文献調査を続けています。

こちらの報告を踏まえて、以下の2点も併せてお伝えします。

・9月10日(土)のオープンキャンパスの模擬授業で、この調査の成果の一部を紹介します。
・7月20日(水)、備後圏域経済・文化研究センターの「地域資料活用研修」において、以下の通り、講師の篠原芳秀先生に備後の古代の生活についての講義をお願いしています。興味のある方はご参加下さい(詳細は以下のファイルを参照)。

備後圏域経済・文化研究センター地域資料活用研修について

 

 

学長から一言:長い年月の中でいくぶん変わったかも知れませんが、幼い井伏鱒二が目にしたであろう景色の多くを我が目で確かめ、生家を訪れ、事情をよく知る人々から直接に話を伺うことで作家の実像にいっそう肉迫することができるのでしょう。フィールドワークの強みです。学生諸君の感想からも、フィールドワークの効果が確実に上がったことを見て取ることができます。