【生物工学科】ワイン研究と生態系研究 科研費獲得!

【生物工学科】ワイン研究と生態系研究 科研費獲得!

生物工学科では、生き物を深く学び、その知識や技術を社会に活用することをモットーに教育・研究を行っております。とりわけ、今着目しているのは「食と環境の生物科学」です。この度、ワイン(食)と生態系(環境)に関する研究計画がそれぞれ科研費に採択されましたので、その概要を生物工学科佐藤が紹介します。

科研費

科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)は、基礎から応用まで研究者の自由な発想に基づき提案された研究計画に対して、審査を経て国が支給する研究費です。大学の教員が研究を発展させるうえで大変重要な研究費になります。生物工学科では、昨年度まで2件の研究計画が科研費助成事業のサポートを受けておりましたが、今年度、新たに2件が採択されました。現在、生物工学科の中堅教員3名がそれぞれ科研費を獲得していることになります。

2021年度

広岡和丈教授 基盤研究(C)2020-2022年度

枯草菌宿主での低毒性物質で誘導可能なタンパク質高発現系の開発

佐藤淳教授 基盤研究(C)2018-2021年度

アカネズミゲノム情報から瀬戸内海の古代河川が残した足跡をたどる

2022年度

広岡和丈教授 基盤研究(C)2020-2022年度

枯草菌宿主での低毒性物質で誘導可能なタンパク質高発現系の開発

吉﨑隆之准教授 基盤研究(C)2022-2025年度【新規】

【酵母による赤ワインの色調増強に関わる技術基盤の確立】

佐藤淳教授 基盤研究(C)2022-2026年度【新規】

【糞中DNAから哺乳類の食性を解明する基盤の確立】

以下では、新規の研究計画について概要を紹介したいと思います。

ワイン研究:吉﨑准教授

赤ワインの色調は商品価値に関わるほど重要なワインの要素です。現代は、世界的な地球温暖化によってブドウの栽培に適した土地は北に移動する傾向にあることが知られています。そのため、従来の産地では収穫期の昼夜の寒暖差が縮小して、ブドウの色素が合成されにくくなり色付きが悪くなる問題が生じています。

今回の基盤研究では、赤色の色素を分泌する能力を持つ酵母(NYR20株)をワイン醸造に使って、ブドウの着色不良の問題を解決することを目的としています。成功すれば、着色不良のブドウでも色調の濃い赤ワインを醸造可能になることに加えて、近年世界的に人気が上昇しているロゼワインを、これまで原理的に不可能だった白ブドウ原料から醸造することが可能となります。このようなNYR20株の特徴は、ワイン用酵母として非常にユニークで、ワイン産業にまったく新しいツールを提供することにつながります。

しかしながら、現段階ではNYR20株の発酵が遅いこと、色素分泌が安定しないことが具体的な課題として挙げられます。これらの課題を解決して、新しいワイン醸造を提案することを最終的な着地点としています。ぜひご期待ください。

ブドウ

赤ワイン

生態系研究:佐藤教授

動物の糞の中に含まれる生き物を解明できれば、食物連鎖が明らかになり、その行く末には生態系の解明、そして生態系に配慮した社会の構築につながります。しかし、動物の糞の中身は消化されていたり、そもそも糞の大きさが小さかったりすることで、直接観察ではなかなか分析が難しいのです。そこで、糞中の生物のDNAを検出することで、動物の食性を分析するDNAメタバーコーディング法が開発されました。この手法は画期的で、野ネズミの糞のように米粒大の大きさの糞からでも多様な生物を検出することができます。昨年の研究成果はこちらからご覧ください。

しかし、DNAメタバーコーディング法は「一度に多くの種類の生き物を検出できない」、「生き物の量を分析するのが難しい」、「本当に食べたものかどうか判別が難しいことがある」など課題を抱えています。今回の基盤研究では、アカネズミやニホンテンを対象として、これらの課題を克服し、DNAを用いたより正確な食性分析手法を確立することを目的としています。20年後の社会に活きる知見を少しずつ解き明かそうとしているところです。こちらもぜひご期待ください。

アカネズミ

ニホンテン

ワイン学と生態学。似ても似つかない名前の学問ですが、英語で書くとEnologyEcology。地球環境の影響を受けるブドウ畑とブドウ畑の周りで餌を探す動物たち。突き詰めて考えていくと、2つの研究には接点がありそうです。私たち生物工学科は、里山における生き物の真実を多様な視点で明らかにしようとしています。

科研費の獲得は研究の始まりにすぎません。それぞれの研究が良い成果につながるよう学科でも議論を重ねたいと思います。生物工学科はアクティブな研究を続けております。大学教員の教育を裏で支えるのが研究です。その研究成果はそれぞれの教員の教育を魅力的で、唯一無二のものとします。生物工学科では、科研費による研究成果を活かして教育の魅力を高める努力をしております。今後も生物工学科の教育・研究にぜひ注目してください。

 

 

学長から一言:科学研究費補助金を申請して採択通知が手許に届いた時の喜びや誇らしさは、大学人・研究者でないと味わえず、いわば学者の勲章みたいなものでしょう。何しろ好きで、自らが重要と考えるテーマが専門家からなる審査グループによる高い評価を勝ち取ったことになるのですから。ある研究に研究分担者として関わることも意味がないわけではありませんが、代表者として研究を推進することの意義はまた格別。単なる思いつきでは採択は難しく、常日頃からの研鑽に裏打ちされた内容だからこそ採択につながり、採択実績は雪だるま式に増えていくもの。さあ、研究費を使ってどんなに素晴らしい成果を見せてもらえるか、楽しみです。