【機械システム工学科】機械作動音の音質を授業で分析

【機械システム工学科】機械作動音の音質を授業で分析

主観評価あるいは官能評価という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。機械の音の主観評価に関する授業について、学長室ブログメンバー、機械システム工学科の内田が紹介します。

 

******************

私たちの身の回りには、決まった測定方法がなく、人の五感やフィーリングで評価するしかないものがたくさんあります。身近なものとしては味や匂いがありますが、機械が関係するものでは、見栄えや手触り、乗心地や安心感、操作感や使い勝手などがあります。機械の作動音の音質もその一つで、ユーザーがその機械の品質を感じ取るうえでの重要な要素の一つとなっています。そうしたものを数値化するため、「10点満点で7点」という具合に人が点数付けする方法が、主観評価あるいは官能評価と呼ばれるものです。機械システム工学科では、学科の授業科目である「環境自動車工学」の学修項目の一つとして、受講学生たちが自動車作動音の主観評価に取り組んでいます。

今年度の授業で取り上げたのは、エンジンの始動音(以下「エンジン音」)とウインカーの作動音(以下「ウインカー音」)の2つです。まず受講学生たちが全員、自宅の自家用車か、あるいは機械システム工学科の自動車実習工場が保有する実習用車両でこの2つの音を録音し、その音データを持ち寄りました。録音は、全員があらかじめ決めた姿勢で運転席に座り、自分の携帯電話を使って行いました。そして持ち寄った音データは、携帯の機種の特性や録音用アプリの違いによる偏りを補正するための処理を行いました(結構大変な処理ですが、詳細は省略します。)。

次に、補正後の音データを全員が再生して耳で聞き、「穏やかさ」、「重厚感」、「高級感」、「心地よさ」などの評価項目ごとに、10点満点で点数付け(すなわち主観評価)しました。またそれと並行して、各音データをコンピュータ解析し、低音から高音までの7つの周波数帯域ごとの音成分の強さを計算しました(専門的には「オクターブバンド分析」と呼ばれる解析です。周波数帯域とは音の高さの範囲のことです)。後者のように、物理的・機械的計測手段を用いて数値データを得ることを、「主観評価」に対して「客観評価」と呼びます。コンピュータ解析は、2020年に福山大学に導入された科学技術計算ソフトMatlabを使って行いました。

そして現在、相関分析、重回帰分析などの統計解析手法を使って、主観評価項目間の関係や、主観評価と客観評価の関係について解析を進めています。解析計算は、上述したオクターブバンド分析以外はエクセルを使って行いますが、受講生たちは参考資料を閲覧しながら複数のデータや複数のソフトを同時並行的に扱わなければならないため、コンピュータルームに据え付けのPCと自分のBYOD機のPCとをフルに駆使しています。コンピュータルームとは、2019年度にリニューアルされた機械システム工学科のCAD/CAM室です。

この最後の解析は現在進行中ですが、この記事が公開される頃には結果が出ているはずです。受講学生は、解析に組み入れるデータ項目を自分で選択したり、解析結果の数値を自分で解釈したりするので、決まった正解はなく、それぞれに異なった結果が出てくると思います。授業担当教員としては、「エンジン音の『穏やかさ』と『重厚感』は相反する音質項目である」とか、「ウインカー音は、高音成分が小さいほど高級感が出る」といったような、興味深い結果がたくさん出てくることを期待しています。音質の主観評価と客観評価の関係が割り出せれば、音質を改善するには自動車のどの部分をどう変えればよいのかなども予想がつくようになります。そのことは、学生たちが将来の就職先でいろいろな主観評価の改善策を練るうえでのヒントになることでしょう。

それでは最後に、これまでの授業の中で受講学生たちが選んだ「もっとも高級感あるエンジン音」、「もっとも心地よいエンジン音」、「もっとも高級感あるウインカー音」、「もっとも心地よいウインカー音」の4つの音をお聞きください。

 

  • もっとも高級感あるエンジン音

 

  • もっとも心地よいエンジン音

 

  • もっとも高級感あるウインカー音

 

  • もっとも心地よいウインカー音

 

いかがだったでしょうか。もしかしたら、何か違和感を持たれたかもしれません。実はこの授業の受講学生(すなわち音質の点数付けを行った人たち)は機械システム工学科の男子学生14名ですが、こうした一部の集団(標本)は、必ずしも人全体(母集団)を偏りなく代表するものではありませんので、違和感があったとすれば、おそらくそれによるものでしょう。そうしたことを学ぶことも、この授業の目的の一つです。

 

 

学長から一言:機械の音を主観的、客観的に認識する授業の材料として、自動車のエンジン音とウィンカーの音を使ったとのこと。雨の日に車を運転していてワイパーを動かすと、フロントガラスとの間で妙な摩擦音がすることなどを経験することはありますが、エンジン音などを注意深く集中して聴いたことはありません。さまざまなエンジンの音をたくさん聞く経験を積み重ねる中で異常を察知できる力もついてくるのでしょう。この記事を読みながら、聴診器で心臓の音を聞いたり、脈を取ることで微妙な変化に気づくお医者さんの力量のこと、それと同時に種々の機械や血液検査を通じて客観的に捉える方法を用いることを連想しました。医者であれ、機械技術者であれ、達人になると機械に勝るとも劣らない察知能力を身につけることになるのではないでしょうか。