【メディア・映像学科】ユナイテッドピープル株式会社の関根健次氏による特別講義

【メディア・映像学科】ユナイテッドピープル株式会社の関根健次氏による特別講義

ドキュメンタリー映画の配給や制作を行うユナイテッドピープル株式会社の関根健次氏をお招きして、映画メディアの可能性についての特別講義を開催しました。講義の様子が阿部准教授から届きましたので、学長室ブログメンバーの渡辺が紹介します。


メディア・映像学科の阿部です。12月16日(月)の「基礎ゼミ」において、ドキュメンタリー映画の配給や制作を行うユナイテッドピープル株式会社の関根健次氏をお招きし、映画メディアの可能性についてお話いただく機会がありましたので、報告します。

メディア・映像学科では、情報社会における問題解決のための実践力を培うために、映像やCG、グラフィックデザインなど様々なメディア制作の方法を学ぶと同時に、作り手の思いを聞く機会を積極的に作ってきました。また、2012年以降は学科主催の映画上映会も開催し、映画監督や研究者の方の話を伺いながら、これからのメディアのあるべき姿について地域で考える機会を設けています。

今回は、これまでとは視点を変え、映画文化を下支えする配給というお仕事の側面から映画メディアの可能性をどのように考えていらっしゃるかを伺いたいと考え、自らドキュメンタリー映画の配給会社を立ち上げた関根健次氏をお招きし、講義をいただく機会に恵まれました。

授業の冒頭は、ISによる虐殺と性奴隷から逃れ、各地で自身の体験や思いを証言している2018年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんに密着したドキュメンタリー『ナディアの誓い』の予告編から始まりました。

関根氏は、アメリカの大学に通っていた時から世界中を旅してこられたと言っておられました。旅の中で様々な境遇をもつ人々と出会い、お互いの考えを共有してきた経験が世界中の人権問題や環境問題について考えるきっかけとなり、今の仕事につながっているとの話でした。

数あるユナイテッドピープルの配給作品の中から、バングラデシュの縫製工場で起きた大爆発事故からファストファッションのあり方について考えた映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』や、フードロスについて考える『0円キッチン』を題材に、そこで問われていることについて時折映像を交えながらお話しいただきました。

今回は、事前にユナイテッドピープルが配給している作品について学生たちと共有し、関根氏への質問を伝えていたこともあり、どのようにして関根氏が配給作品を決めているのかについてや、これから配給される作品などについて、じっくり伺うことができました。下記にあげる学生たちの感想を見ても、社会問題を扱った映画はただ観るだけでなく、これらを見て何を考え、どのような行動に移すことができそうかなどを共有する時間が必要と思われます。ユナイテッドピープルでは、市民上映会の開催を推奨し、そのような会を企画しやすい仕組み「cinemo」も運営されています。

私たちが世界の全ての現場を見て考えることは難しいですが、映像メディアを通じてこれらの課題に少しでも近づき、行動に移していく、そのことによって世界の状況は変わっていくかもしれません。そのことを強く感じさせ、作品の送り手としての思いと矜持とを一身に浴びた90分でした。

この講義の「空気」は、下記の学生たちの感想にも表れていると思います。その一部を掲載します。


メディア・映像学科2年 M・Fさん

本日の講義を拝聴し、映画は人々の心だけではなく世界中の世の中をも変え得る力を秘めているのだということを感じました。関根さんのお話の中で、私が最も印象的だと感じたことは「日本は戦後だけど世界は戦時中」という言葉です。私ごとになってしまうのですが、私は普段、映画を授業外で眼にすることはあまりなく、ドキュメンタリー番組を自宅で視聴することが多いです。これまで私自身が視聴してきた番組を振り返ってみると、主役は日本人(有名人やとある業界の分野で注目を浴びている人物など)で舞台の大半がその人物の日本の職場や思い入れのある場所といった印象が多いように感じました。私自身の視野がこれまで日本という平和な島国に限られていたということに危機感のようなものを感じました。世界ではまだ戦争が続いていますし、世界ではこのようなことが問題となっています。報道番組や新聞などでそういった出来事が起こっているのだと断片的に知ることはできますが、それだけで一概に知った気になっていてはいけません。映画というかたちで届いた声や叫びも現地の方々の今日の声や叫びの実際はごく一部でしかないのだと、気づくことができました。

メディア・映像学科2年 H・Sさん

映画『ザ・トゥルー・コスト』について、自分たちが着ているものの背景に人の死が関わっているなんて思いもよりませんでした。普段の生活を何気なく過ごすことは、命を無駄にすることだと思わされました。そして、ドキュメンタリー映像を通して、人の価値観や思考を変えられる凄さに衝撃を受けました。自分は人のために何ができるのか?幸せとは一体なんなのか?という本質的なことを考えさせられました。また、情報はものを知る上での方法であり、そのことの正負を判断するのは自分の目で見ることが必要だと感じました。たとえ、ボロボロの服を着ているからといって貧しいとは限らないし、その人にとって幸せなことなのかもしれなません。改めて人のありがたさを大切にしたいと思いました。 

メディア・映像学科2年 K・Kさん

私は、この講義を聞く前と聞く後では自分の考えが全く変わりました。どのような点で変わったかというと、普段自分が何気なく着ている服やお腹いっぱいだからと残してしまっていたご飯生活の全てを一度見直していこうと心から思いました。幼い頃は親をはじめとする周りの大人にご飯を残すなと言われ、それが当たり前だと思い残さず食べてきました。それが、いつからか何の抵抗もなく残してしまっていた自分がいました。今、少しだけ大人になった自分はなぜこのようなことをするのか考えてみました。まず、ご飯を残すことがなぜ良くないことなのかそれを考えることにしました。それは食べたくても食べられない状況の子供が世界には多くいることで、そんなことは少し考えれば分かることです。そのことを忘れていた自分がとても恥ずかしいと思いました。将来、爆弾を開発したいと言った少年の言葉は印象的でした。パレスチナの紛争地で出会った少年の話ですが、関根さんは現地の子供たちとサッカーをした後、こんな質問をしました。「みんなの将来の夢は?」すると一人の少年がこう言ったそうです。「将来、爆弾を開発したい。」その少年は目の前で自分のおばさんを射殺されたそうだ。その憎しみから爆弾を開発して仕返しをしたいそうです。関根さんは「憎しみは憎しみを生む。そんなことをしたら、また君のように悲しむことが出てくる」と説得したが、少年は最後まで爆弾を開発するという意思は揺らがなかったそうです。そんなことをしてはいけないことは当たり前ですが、その少年をただ責めることはどうしてもできません。この講義を受ける前は、ただ悪いものとだけしていたと思います。しかし、その少年の背景にはあまりに悲惨な出来事が起きており、そのことを知ることができただけでも今回の講義を受けて良かったと思います。

メディア・映像学科2年 S・Kさん

関根さんがヒッチハイクで訪れた紛争地で出会った少年の夢の話が、すごくショックで印象にとても残っています。私はまず、世界的には戦争は減って平和になってきていると勝手に思っていました。しかし、減っているどころか戦争をしている地域はどんどん広がっていると聞いて、こんなに世の中のことが知りやすくなっている今の時代に、なんで知らなかったんだろうと恥ずかしくなりました。そして、人を殺したいという夢を持ってしまう子供たちが紛争地にはたくさんいて、紛争が終わらない限りこれからも増え続けていくと思うと、偽善者的ですがなんとかしたいという思いになりました。また、自分がこんなにも心を打たれたことにも驚きました。今回の講義後、その日の友人との会話の話題はずっと関根さんの講義の話でもちきりでした。そのくらい今回の講義は、私たちに大きな影響を与えてもらったんだなと思いました。


関根氏の語るエピソードの一つ一つが重く、授業後にも考え続けた学生も多かったようです。今回「映画の可能性」というテーマでお願いをしていたのですが、関根氏の講義そのものが私たちに「映画の可能性」を体験させてくれるものであったと思います。関根さん、この度は貴重な機会を本当にどうもありがとうございました。

 

学長から一言:なかなかインパクトの大きい授業だったようですね。。。学生の心が強く揺さぶられています。。。ここからどのような行動の変化が生じるか、期待します!関根先生、ありがとうございました!