【生物工学科】生態系を解明する

【生物工学科】生態系を解明する

森の中に入ると本当に多くの生き物に出会うことができ、その生き物たちは食う食われるの関係にあったり、同じ食べ物をめぐって競争関係にあったり、複雑な関係を私たちに見せてくれます。果たして、この複雑な生態系を解明することができるのでしょうか?動物のウンチの中身をDNAで解明する手法で、食物連鎖を探る研究が急速に進展しています。生物工学科では、福山大学研究ブランディングプロジェクト「瀬戸内の里山・里海学」の中で、瀬戸内の島々におけるネズミの食性分析を行っています。その成果が出始めてきましたので、生物工学科佐藤が紹介したいと思います。下の写真は因島です。

DNAで動物が食べたものを分析する

下の図の方法は、難しく言うと、DNAメタバーコーディング法と言います。動物のウンチの中には、その動物が食べた動物や植物が含まれています。これまでは、ウンチの中身を砕いて顕微鏡で観察することで生き物の検出を行っていましたが、例えばネズミのウンチは米粒程度と非常に小さいので、そこに含まれる生き物の痕跡があまりに小さすぎて、詳細な生き物の種類の同定には至っていませんでした。全ての生き物はDNAを持っています。ウンチの中からDNAを取り出してその情報を調べると、食べられた生き物を検出できるはずですよね。食物連鎖を探る新しい手法の登場です!

森の中では

森の中はぐちゃぐちゃしているように見えます。何も目印がないと、元の場所に戻ったようでも戻ることができないこともあります。なので、下の写真のようにピンクテープを木に括り付けて、その近くにネズミを捕まえるトラップを一晩おいて置き、翌朝、確認に行きます(野生動物の捕獲には許可が必要です)。餌はオートミールで誘引します。

翌朝確認に行くと、、、

たいていは、数頭のアカネズミを捕獲することができます。昼間見ることのないアカネズミですが、しっかりと森の一員として活動をしていることを実感できます。かわいいでしょ。4年生も3年次に生物多様性実習でネズミの捕獲方法を学びますので、卒業研究で引き続き現場を何度も体験し、卒業するころにはかなり生き物の扱いに慣れていきます。

サンプリング&リリース

4年生たちは、捕獲したアカネズミから数㎜程度の耳組織片とウンチをサンプリングして、あとは森に戻します。アカネズミは元気に走り去っていきますよ。時々、巣穴を確認できるという貴重な体験ができます。これらのサンプルを研究室に持ち帰って、ウンチのDNA分析を行うわけです。

研究成果に!

生物工学科では、すでにこのDNAメタバーコーディング法がルーチンワークとなっており、成果も出始めています。9月には「環境と測定技術」で野ネズミの食性分析手法についての解説が掲載され、10月には瀬戸内の島々でアカネズミが何を食べているのかについての論文が日本哺乳類学会英文誌Mammal Studyに掲載されました。

佐藤淳(2019)野ネズミの糞中DNAの分析から生態系を探る. 環境と測定技術 Vol.46(通巻549号): 8-16.

Sato JJ, Kyogoku D, Komura T, Inamori C, Maeda K, Yamaguchi Y, and Isagi Y (2019) Potential and pitfalls of the DNA metabarcoding analyses for the dietary study of the large Japanese wood mouse Apodemus speciosus on Seto Inland Sea islands. Mammal Study 44 (4): 221-231(プレスリリースはこちら

瀬戸内の里山・里海学

上の論文から、瀬戸内海の島々でアカネズミはブナ科の植物とヤガ科の蛾をたくさん食べていることが分かりました。アカネズミは冬に備えて、秋にブナ科の植物がつくるドングリを集めて食べているのでしょう。きっと、そのため込んだ一部のドングリは芽吹いて次世代のブナ科の植物が作られるのだろうと思います。アカネズミは森の更新に役に立っているのです。また、ヤガ科の蛾には果実吸蛾類と言って果樹園被害をもたらす蛾が多く含まれていますので、アカネズミがそれを食べるということは、アカネズミは森の中でひっそりと果樹園被害の抑制という大きな仕事をしているのかもしれません。これまで見えなかったこうした生態系の秘密が一つずつ分かってくると、人と自然との共生の在り方が見えてくるのではないかと思います。福山大学が進める研究ブランディングプロジェクト「瀬戸内の里山・里海学」では、一つの目標として自然共生社会の構築を目指していますので、本研究がその一助となれば幸いです。

DNAメタバーコーディング法を使った生態系分析は、まだまだ始まったばかりです。高校生の皆さん、この希望の見え始めた手法を生物工学科で学んで、一緒に生態系を解き明かす旅に出ませんか?

最近、生物工学科広岡准教授の研究グループから微生物同士のフェロモンを介した相互作用に関する研究論文が発表されました。いろいろな生き物同士の関係は複雑ですが、解きほぐすのはとても面白いです。

生物工学科における多様な研究はこちらから

 

学長から一言:研究は、真剣だけど楽しそうですねッ!学生さんもネズミさんも、お互いにお互いを傷つけることなく、研究参加を楽しんでいる雰囲気なのが良いですねッ!そういえば、来年は“ねずみ年”。。。研究が進展しそ~う!!!