【グリーンサイエンス研究センター】外来種とどう向き合うか?
外来種問題は地域の問題であり、日本全国の問題であり、そして世界の問題でもあります。外来種問題の専門家である森林総合研究所 野生動物研究領域 チーム長の亘悠哉さんを第53回のグリーンサイエンスセミナーの講師としてお招きし、外来種問題とその対策について詳細に解説していただきました(12/12)。「なぜそこに外来種がいるのか? 導入の経緯と私たちが果たすべき責任」と題した大変すばらしいセミナーでした。グリーンサイエンス研究センター長の佐藤(生物科学科)がセミナーの様子を報告します。
奄美大島のマングース根絶から見えてきたこと
まず、昨年、大きなニュースになった「奄美大島のマングース根絶」について、導入から根絶までの歴史の紹介があり、どのような要因が根絶という成功に導いたのかを振り返られました。1979年にハブ対策として放たれた奄美大島のフイリマングースですが、その後、ハブの抑制には効果がないことが判明し、その一方で多くの在来種の生存を脅かしてきました。奄美大島にはアマミノクロウサギやアマミトゲネズミなど多くの日本固有種がおります。
この20年ほどの間で、マングース根絶に向けて住民、市民団体、行政、研究者が一体となって、根絶に向けた活動が続けられてきました。その間、マングースを根絶するためにマングースバスターズが結成され、時にはマングース探索犬を活用しながら、根気強く、そして長期間、誰も達成できるとは思っていなかった難問に対して、対策が続けられました。その結果、最後にマングースが捕獲されたのが2018年、そしてそれから6年4カ月の間、3万個のワナを仕掛け続けて、捕獲ゼロの記録を積み上げてきました。外来種の根絶の成果は世界的にもまれな快挙であり、草の根的に始まった対策が、行政や研究者など多くの人を巻き込みながら根絶達成へとつながったことが印象的でした。
一連の歴史を振り返ることで、マングース導入後の増加、マングース対策後の減少といった、個体群の変動には異なるフェーズがあり、各フェーズにおいて対策が異なるということを聞き、画一的な外来種対策では、解決のできない難しい問題であることがわかりました。地域社会の現状を理解し、どのフェーズにあるのかエビデンスをしっかりと得る必要がありそうです。

外来種対策の原則
外来種対策に重要なのは、「全ての個体が捕獲圧にさらされること」、「増加率を上回る捕獲圧がかけられていること」、そして「個体の移入がないこと」とのことでした。ある一つの地域の外来種被害だけを見て対策しても効果はなく、個体群全体を見渡して、市町村の連携、県、国との階層的なガバナンスが重要のようです。そして、研究者のサポートによる明確なエビデンスがなければならないという点は、私たち大学教員が地域社会に貢献すべき点であることを改めて認識しました。
最後に、ハクビシン、シカ、クリハラリス(タイワンリス)、アライグマ、ネコ、キョンを例に日本各地における外来種問題を紹介していただきました。特に福山市にはアライグマがおり、この動物はSFTSウイルスを体内で増幅させる動物として知られています。アライグマは森と里を行き来する広い生息域を持つ動物です。SFTS感染者は近年増加傾向にあり、こうした人獣共通感染症の観点からも外来種対策は重要であることがわかりました。

丁寧な回答と解説
本セミナーには本学の教員と学生をはじめ、市役所、地元の民間企業、自然史研究会の皆様が集まりました。質疑応答では、現場の外来種対策の視点、研究の視点、市民の視点と幅広い質問があり、亘さんには全て丁寧にお答えいただきました。質疑を通して、科学的エビデンスに基づく外来種対策が大変重要な意味を持つことを感じました。外来種根絶により、たとえば在来種による農業被害が生じるなど新たな問題が生じるかもしれないですが、それがそもそもの人と自然との関係性であるというお答えには納得しました。30分以上も質疑があり、講演後も、質問が絶えませんでした。私たちの疑問に真摯にお答えいただいた亘さんに感謝いたします。まだまだ聞きたいことのある方は2026年2月26日に東京大学出版会から刊行される「マングース・ヒストリー -ひとつの島をまもるということ-」をお読みください!

学長から一言:グリーンサイエンス研究センターが主催したサイエンスセミナーの講師として本学を訪問された森林総合研究所 野生動物研究領域チーム長の亘悠哉氏による外来種動物がもたらす諸問題やその対応策に関する講演は、この問題に関心を持つ学内外のセミナー参加者の心を鷲づかみ。講演後の長時間にわたる質疑応答がそのことを示しています。いつも興味深いテーマで科学の世界に引き込んでくれる研究センターの活動に、さらなる期待が高まります。




