「天然記念物であるニホンヤマネの糞から非侵襲的に食性を分析する遺伝手法を開発」のプレスリリースについて

このことについて、下記のとおりプレスリリースを行いましたのでお知らせいたします。 

国の天然記念物であるニホンヤマネ(齧歯目ヤマネ科)の糞に含まれる餌生物種のDNAを分析することで、非侵襲的に食性を分析する手法を開発した。分析の結果、蛾、ハエ、カメムシ類ほか、多様な無脊椎動物、そしてサルナシをはじめとした多様な植物の主に果実を食べていることが明らかとなった。

ポイント

  • 天然記念物にストレスを与えることなく食性を分析する手法を開発したこと

これまでのニホンヤマネの食性研究においては、本種が保護の対象であるため、採餌行動を森で直接観察したり、あるいは糞の内容物や事故による数少ない死亡個体の消化管内容物を顕微鏡で観察するという手法が採られてきた。しかし、糞や消化管に残された生物の残骸の観察から餌生物の種を同定することは難しく、森での直接観察は効果的であるが、人が見ることのできる対象は限定的であるため、本種の食性の詳細は明らかではなかった。

昨今、次世代シークエンサーの開発とともに、水や土壌、糞などの環境中のサンプルに含まれる生物の残骸からDNAを分析する環境DNA技術が発展してきた。DNAをバーコードとみなして、環境サンプル中のDNAから複数の生物種を特定する手法をDNAメタバーコーディング法と呼ぶ。著者らは、これまでに、アカネズミ、ヒメネズミ、ハタネズミ等の齧歯類の糞を対象に本手法を展開し、遺伝的な食性分析手法を発展させてきました。

そこで、本研究では森林に設置した巣箱に残された糞を対象に、DNAメタバーコーディング法を用いて分析し、ニホンヤマネの食性を明らかにすることを試みた。

具体的には、糞に含まれる無脊椎動物のミトコンドリアDNA COI遺伝子と、植物のITS2領域をターゲットとしたPCR増幅を行い、本学に設置された次世代シークエンサーMiSeqを用いて、PCR増幅産物のDNAの塩基配列を決定した。得られた塩基配列を国際DNAデータベースで検索し、餌生物の分類群の同定を行った。その結果、山梨県北杜市では、本種が夏に蛾類と種々の植物を食べており、秋にハエとカメムシ類(アブラムシ)、そしてサルナシを食べていることが明らかとなった。サルナシの検出時期は果実期と重なるため、ニホンヤマネは冬眠前の脂肪源としてサルナシの果実を食べていると考えられる。島根県隠岐郡では、11月に蛾類とシイが検出され、山梨県北杜市とは異なる傾向にあった。

以上のように、巣箱に残された糞から保護の対象となる動物の餌生物を検出することが可能であることを示した点に、本研究の重要性がある。より詳細な研究の説明はこちらのPDFを参照されたい。

 

本成果は、2023年8月11日に日本哺乳類学会の国際学術誌「Mammal Study」にオンライン公開された(オープンアクセス)。プリント版では本誌の2023年10月号に掲載される(10月末発行予定)。

 

Sato, J.J., Matsuda, H., Fujita, H., Yasuda, K., Aiba, H., Minato, S. Noninvasive genetic methods for species identification and dietary profiling of the Japanese dormouse Glirulus japonicus from fecal samples. Mammal Study 48 (4): https://doi.org/10.3106/ms2023-0003 (2023)

 

サラサドウダンを食べるニホンヤマネ(撮影:一社)ヤマネ・いきもの研究所 湊秋作)

 


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