【☆学長短信☆】No.25「科研費の採択結果に接して」

新任の教職員や役職者への辞令交付を行い、本日から新たな学年度です。気の引き締まる思いで今日を迎えましたが、先日、令和4年度応募で今年度から使用可能な科学研究費補助金(以下、科研費と略記)の審査結果資料が手許に届きました。本学関係者の間でも、見事に応募課題が採択された人、惜しくも不採択通知を受け取った人と、悲喜こもごもであったことでしょう。 

今回、全国では92,470件の新規応募のうち26,435件が採択となり(新規採択率28.6%は2年連続で前年度より上昇)、継続分も合わせた83,444件に対して約2,212億円が配分されるといいます。教員が自らの研究経費として使える「直接経費」と、事務手続き費用や施設・設備の整備・維持費用など所属機関へ配分される「間接経費」とを合わせた額です。新規採択分と継続分を合わせた1課題当たりの平均配分額(直接経費)は2039,000円で、前年度比0.6%の増加です。コロナ禍に伴う継続研究課題の期間延長などが影響し、新規応募件数が前年度より2,738件減少したそうです。本学でも昨年度中に何人かの方から、コロナ禍による海外調査の実施困難等の理由により、所定の計画どおりではなく、年度を越えた課題の実施継続を申請する決裁文書が回ってきました。  

研究者にとって、文科省、そして実際には日本学術振興会が所管する科研費を獲得することは、自らの自由な発想に基づいて重要と考える学術研究課題にどれほど積極的に取り組み、成果をあげることに真剣に向き合っているかを示す証のように思います。特別な研究資金など必要としない性質の研究課題なら、申請の必要はないのかも知れません。また、所属機関が提供する個人研究費やポケットマネーだけで、学術的な興味関心や研究遂行上のニーズを十分に満たしうるとすれば、幸せなことです。国立大学ですら経常費補助金の逓減傾向が進む中で、近隣の諸大学がそれぞれ準備し、教員が自由に使える個人研究費の目減り状況を漏れ聞くにつけ、本学の場合、今のところ、研究活動実績に応じた個人研究費の支給基準・状況は他大学と遜色ないレベルと言えるように思います。加えて、本学には個人研究費の他に独自の学術研究助成金制度があり、教員による海外での学会発表のために旅費の助成が行われ、学生についても国内外での学会発表の旅費助成制度があり、毎年20名以上の院生・学生がこれを利用して研究成果の発表を行っています。 

ここで、少し昔の個人的な話をすることをお許しください。2年半の大学助手としての勤務を経た後、1980年代にほぼ30歳代の9年半を過ごしたのは、当時の文部省直轄の教育研究所でした。本省のお膝元ならさぞかし研究費も潤沢だろうと思いきや、とんでもない勘違いでした。少なくとも当時は、外部資金を獲得しなければ個人研究に関しては「冬眠」を余儀なくされる現実を赴任後に知りました。教育職でなく研究職(俸給表の基準が教育職より1ランク低い)の、年齢相応の給与に加え、お呼びが掛かれば出かけた首都圏をはじめとする諸大学での非常勤講師手当のヘソクリから回せた、必要な文献・資料の購入経費は知れています。それからは必死でした。周りを見渡し、科研費獲得において常勝の先輩・同僚から科研費申請書類作成のコツや知恵を拝借したり、論理的・説得的申請文を練ったりするのに余念がありませんでした。その苦労のせいかどうかは分かりませんが、全く幸運にもその後の何十年もの間、在外研究中等で申請が思うに任せなかった時期を除き、リーディング・ヒッター並の高打率を維持できました。 

翻って、本学の最近の状況を見ましょう。令和4年度に採択された研究課題の件数は42件、経費の配分額は4,355万円でした。採択件数では県内私立大学中のトップであり、県内第二位の私立大学の37件より5件上回りました。但し、配分額は昨年度の5,031万円より下がり、全国では162位、県内私立大学でも第三位に甘んじました。ちなみに、本学の過去数年来の採択件数と全国的に見た経費配分額による順位は、2015年が21件で200位、2016年が25件で158位、2017年が25件で174位、2018年が27件で161位、2019年が31件で172位、2020年が34件で164位、2021年度が41件で149位でした。配分された研究費の額も2015年の2,652万円に比べて、大きく増加して来たことが分かります。研究領域により必要な研究費の多寡には大差がありますから、配分される経費の総額より採択件数のほうが、その大学の実力を示していると思います。 

採択件数の42件で喜んでも、全国で見れば、令和4年度に応募した研究者が所属する1,370機関のうち、本学は289位に留まります。トップの東京大の4,041件の100分の1、私立大学トップの慶応大の1,097件にも遠く及びません。しかし、明治期から存在した大学などとは施設、経費、人的・学的な蓄積において桁違いのハンディが付き過ぎていて、陸上トラックでの競走に譬えれば、遙か先を走っている選手の背中さえ見えずにいる感があります。申請可能な所属教員数だけ見ても違い過ぎます。ただ、離れ過ぎて勝負にならないように見えても、「千里の道も一歩から」の譬えもあります。何よりも、組織としての大学がどうこうではなく、個々人が自らの研究を行うのに必要十分な条件を確保できるか否かが研究者には大事なのです。そして、申請しなければ採択もありません。

ところで、令和4年度の科研費採択情報に関して、とても嬉しいことがありました。所属機関別に見た40歳未満の研究者の新規採択率の上位校一覧を見て目を丸くしました。なんと、わが福山大学は38.1%で、全国の大学、短大、高専、研究機関の中で25位に位置付いているではありませんか。本学の若い世代が日頃から積極的に研究に取り組み、頑張っている結果に他なりません。もちろん、年配者が科研費獲得や研究に不熱心ないし控え目であってよいはずがありません。隠居気分や若年寄気分は以ての外です(これは多分に自戒を込めたつもりです)。大学では、自らの研究成果を踏まえることで講義やゼミにおける学生への語り、教える内容が豊かになり、また、何か分からないことに夢中で取り組む教師の背中を見て学生は育つものです。何よりも、若い人が活き活きしている組織は健康です。科研費獲得はその一つの表れでしょう。この嬉しく誇らしい成果を皆さんと共有し、同僚諸氏には一層の奮起を期待したいと思ったのです。