【☆学長短信☆】No.21 「担任制について」

本学は学生の指導に資するために「クラス担任制」を創立時から採っています。小中学校などと違って、担任を置くのは大学教育において普遍的な手法ではないようです(杉田郁代「クラス担任による学生相談」『IDE現代の高等教育』No.64320228-9月号、20頁)。「面倒見の良さ」を標榜する本学ならではの特徴です。 

昭和5634日制定の「福山大学クラス担任細則」(平成24年改正)によれば、経済学部の12年次では「各学年のクラスごとに各1人」を配置し、34年次にはいわゆるゼミ担当の指導教員が担任となります。人間文化学部は12年次のゼミ担当の指導教員が担任となり、34年次には各学科の特定専門教育科目の担当教員がクラス担任になっています。工学部および生命工学部では14年次を通じて担任が決まり、薬学部では13年次に「各学年のクラスごとに各1人」を配置し、46年次には配属先研究室の指導教員が担当することになっています。 

学部や学年により若干の違いはありますが、同細則に定めるクラス担任の職務は、①オリエンテーション、②教育懇談会における保護者への対応、③学習の指導、④休学・退学・復学など身分異動に関する学生への助言や学科長への連絡となっています。しかし、実際には、担任はここに挙げた職務以外にも学生の学修、生活、就職など万般の相談や指導に当たっていると言ってよいでしょう。本学には、心身の不調を含めて問題が生じた場合に学生が訪れ相談する学生課、保健管理センターやその中の学生相談室、大学教育センターの学修支援相談室や就職課など目的に応じた相談窓口が設けられていますが、担任こそ、学生にとって最も身近でオールラウンドな指導員・カウンセラーなのです。 

日本学生支援機構が令和元年度に実施した「大学等における学生支援の取組状況に関する調査」の結果によると、担任が受け持つ学生数の平均は34.5人、中央値が25.0人、最頻値が10.0人だそうです。本学の場合、一人で50人以上を担当している人がいる反面、1人、2人の場合もあり、2022年度の平均値を計算して見たところ23.3人と、全国平均より少なくなっています。 

コロナ禍の中、担任の働きが光ったケースに何度も出くわしました。本学でも、不運にもPCR検査結果が陽性と判明した学生が現れました。本学独自の健康チェックシステムを通じて、いち早く情報把握が可能でしたが、陽性や濃厚接触が判明した後、学内への感染拡大を阻止する努力の過程で、担任が当該学生と連絡をとり、実に迅速かつ綿密な情報が上がって来て、危機対策本部としての対策を講じる上で大いに助かりました。また、アパートで一人暮らしの場合、周囲との交流を遮断された部屋での静養中には、食料などの調達を心配した担任が自ら運んで届けた心温まる話にも事欠きませんでした。担任制の賜物です。 

上記の杉田先生の別稿(「クラス担任による支援と学生相談」『教育学術新聞』2022817日)での説明によれば、学生相談は、①自発相談、②チャンス相談、③呼び出し面談、④定期面談に分類できるそうです。このうち、同記事で内容についての言及があった前三者に関して、まず自発相談とは、悩みを抱えた学生が自主的に来談するケース。学生がせっかく、恐らく意を決して訪ねて来るのでしょうから、「見捨てられた」などという思いを感じさせないことが肝心。②チャンス相談とは、キャンパス内のどんな場所や時間帯でも担任側の声掛けから始まるケース。日ごろから「あなたのことを気に掛けていますよ」というメッセージを送れるかどうかが大切。③呼び出し面談とは、担任が行う学生相談の中で難しいと考えられ、実行に当たっては反発心を抱かせない工夫や配慮が必要で、一方的な指導ではなく、あくまで一緒に課題解決を目指す姿勢が学生に伝わるように、また根拠となるデータを予め準備して相談に臨むことが重要とのこと。いずれにせよ、カウンセラーの専門資格を持っているわけでもない、私のような一般の教員が経験知に照らしながら相談に当たるのです。大学として催されるFD研修や、読書その他を通じた自己研鑽を通じて、相談員としての力量を向上させていく以外にないのでしょう。杉田先生ご自身が202112月~20221月にウェブ上で実施され、340名からの回答を得られた調査結果の分析では、クラス担任に求められるスキルで最も強く認識されているのは「コミュニケーション」力であることが分かったとされています。 

ところで、勉学の志を抱いて本学に入学しても、さまざまな理由から、途中で方向転換や退学を希望する学生も出てきます。その場合、担任や学部長の所見が記された決裁文書が回ってきます。その所見欄が実に丁寧で、書いた人の人柄を表すような、あるいは前後の事情が分かりやすく記述されたものがある一方、ごく短く、素っ気なく感じるケースがないわけではありません。後者の場合、私は決裁の押印の前に、今さら結果が変わるわけでもなかろうとも思いつつ、当該の担任に電話して事情を聴くことにしています。直接話して見て、たった1行のその簡潔な所見の背後に、さまざまな苦労や配慮、方策を講じた末に万策尽きたことを発見する場合が少なくありません。本学内での転学部・転学科を含めて、学生が新たな道を進むことを示したケースにも出くわします。教員も学生も本学の担任制の良き伝統を再認識すること、そして、教員による一層キメ細かい指導が行われることを願うものです。