「瀬戸内海にはやはり古代河川が存在した~アカネズミのゲノムからわかった島嶼形成史~」のプレスリリースについて

このことについて、下記のとおりプレスリリースを行いましたのでお知らせいたします。 

瀬戸内海島嶼に生息するアカネズミ(齧歯目ネズミ科)を対象にゲノム情報の分析を行い、島間のアカネズミの類縁関係を解明した。その結果、約2万年前の氷期に存在した古代河川 豊予川(ほうよがわ)が瀬戸内海の島嶼の形成に大きな影響を与えたことが明らかとなった。

これまでの地質学的研究により、瀬戸内海の海底には古代河川の痕跡があることが示唆されていた。瀬戸内海の東に紀淡川(きたんがわ)、西に豊予川(ほうよがわ)の2大水系が知られ、それぞれ現在の1級河川とつながっていたと考えられている。最終氷期の終了後、地球の温暖化とともに急速に海水準が上昇したことで、これらの古代河川が海との連結路となり、瀬戸内海の形成を推し進めたと想定されるため、古代河川が残した足跡をたどることで、瀬戸内海の形成の歴史を探ることができると考えた。しかし地質学の研究では、過去から現在にかけて起こる堆積作用や浸食作用の影響もあり、海底地形の正確な推定には限界がある。そこで本研究では瀬戸内海島嶼に生息するアカネズミ(Apodemus speciosus)の類縁関係を明らかにすることで、島の類縁度を推定し、古代河川がどのような順序で島の形成に関与したのかを明らかにすることを試みた。ゲノムの多型を分析する手法の一つであるGRAS-Di法により92個体のアカネズミの分析を行った結果、94,142 個の一塩基多型(個体間の遺伝情報の違い)を検出することができた。これらの多型に基づき系統樹を推定したところ、信頼性の高い系統関係を明らかにすることができた。中でも、【因島-生口島】、【大三島-伯方島-大島】、【大三島-伯方島】、【因島-生口島-大三島-伯方島-大島】、【大崎上島-大崎下島】、【上蒲刈島-下蒲刈島】、【大崎上島-大崎下島-上蒲刈島-下蒲刈島】、【倉橋島-江田島】のアカネズミの近縁性がそれぞれ高い信頼値で支持された。さらに、倉橋島-江田島や向島のアカネズミは、福山大学、尾道、呉の本州の個体との近縁性を示し、愛媛(今治)、高知、徳島の四国の個体は一つのグループを形成した。これらの系統関係と、地理情報システムを用いて推定した古代河川である豊予川の流路との関係性を見てみると、両者の間に極めて高い一致性を見出すことができた(下図)。以上の結果は、約2万年前の最終氷期最盛期に瀬戸内海西部を流れていた豊予川が島嶼域に生息するアカネズミの遺伝的分化の形成に大きな役割を果たしたことを強く示唆し、このことにより島の形成順序の一端が解明された。

本成果は、2022 年 6 月21日に日本動物学会の国際学術誌「Zoological Letters」にオンライン公開された。

Sato, J.J., Yasuda, K. Ancient rivers shaped the current genetic diversity of the wood mouse (Apodemus speciosus) on the islands of the Seto Inland Sea, Japan. Zoological Lett 8, 9 (2022). https://doi.org/10.1186/s40851-022-00193-3

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地理情報システムを利用して推定した古代河川 豊予川(黒い実線)とゲノム情報を利用して推定したアカネズミの系統関係(赤い点線)との関係。色のついた丸印はアカネズミの採集地点を示す。

 


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