【☆学長短信☆】No.123 松浦史登学長顧問が「糖鎖」と本学の成り立ちを語る!

10月24日の教養講座で、松浦史登学長顧問が長い研究歴でのご研究の一端を、実に巧妙に(!)本学の成り立ちと絡めながら学生達に聴かせてくださいました。「糖鎖」のお話でしたが、中でもインフルエンザについてのお話は、今まさに目の前に迫った脅威と関係していますので、皆様に紙上でも紹介しましょう。原稿をいただきました。ご一読を!
(学長室ブログもどうぞ。https://www.fukuyama-u.ac.jp/blog/22253/ )

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インフルエンザ流行の季節を迎えて、「糖鎖」に注目を!
 
 「インフル、2ヶ月早く流行の兆し、ラグビーW杯で感染拡大恐れ」 10月2日の新聞記事のタイトルです。今年のインフルエンザは例年より早い定点当たりの報告数が有り、厚労省が注意を喚起しているのです。A型インフルエンザウイルスは、カモなどの水鳥(渡り鳥)が自然宿主で、彼らによって世界中に運ばれ、ヒト、ニワトリ、ウマ、ブタ、アザラシなどにも感染する人獣共通感染症の源です。インフルエンザは数十年に一度世界的大流行(パンデミック)を引き起こし、世界中で甚大な被害をもたらす、恐ろしい感染症です。
 さて、このインフルエンザのパンデミックに「糖鎖」が深く関係していることをご存じでしょうか。「糖鎖」とはグルコースなどの単純な糖のユニット(単糖)が鎖状に繋がったものですが、私たちの身体の細胞表面はタンパク質や脂質に結合した「糖鎖」で覆われ、細胞の種類を決める目印にもなっています。そのため、「糖鎖は細胞の顔」とも言われています。
 A型インフルエンザ表面にはHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)という2種類の糖タンパク質が存在しており、18種類のHAと11種類のNAの亜型に分類されて、その組み合わせによりH1N1(2019-2020に流行が予想されているもの)の様に示されます。ウイルスは宿主となる細胞にシアル酸を含む糖鎖(細胞の顔)を見つけ、HAを使って結合し、細胞に侵入し増殖します。細胞内で増殖したウイルスは細胞から飛び出し別の細胞に侵入、増殖を繰り返して増えてゆきます。ウイルスが細胞の外に出るとき、侵入したときと同じ糖鎖に結合してしまうので、NA(シアル酸結合を切断する酵素)というハサミを使って、シアル酸を切りとって、細胞に捕まらないようにして外に出ていくのです。(ウイルス同士が凝集するのを防ぐ役割も報告されていますが、ここでは触れません。)インフルエンザウイルスはHAとNAの二刀流使いのくせ者です。
 このような「糖鎖」研究から、インフルエンザ治療薬タミフルなどが生まれました。タミフルはNAの働きを阻害し、ウイルスの増殖を抑える薬です。ウイルスをやっつけるのではなく、増殖を抑える薬ですから、服用する時期が大切なのです。 
 ところで、トリとヒトではインフルエンザウイルスが好む「細胞の顔」=「糖鎖」の構造に違い(シアル酸とガラクトースの結合位置が異なるだけのわずかな違い)があり、原則として、トリインフルエンザはヒトには感染しません。しかし、高病原性トリインフルエンザ(H5N1やH7N9型)がヒトに感染した例が報告され、もしこれがヒト-ヒト感染の能力を持てばパンデミックが発生すると危惧されています。またブタは、ニワトリウイルスとヒトウイルスが好む両方の「糖鎖」を持っており、双方のウイルスに感染可能です。トリウイルスとヒトウイルスという2種類の異なるA型インフルエンザウイルスにブタが同時に感染すると、両方の遺伝子が混ざり合い、これまでヒトが経験したことのない型のウイルスが出来る可能性高くなり、これもパンデミックをもたらす要因になりかねません。
 さて、インフルエンザウイルスに限らず、あらゆる生体にとって「糖鎖」が非常に重要な機能を持つことが分かってきたので、「糖鎖」は核酸、タンパク質に次ぐ生命の第三の鎖と呼ばれるようになり、今や重要な学問分野となっています。半世紀にわたって糖鎖研究に携わってきた老研究者としては、たとえばインフルエンザの話が出たとき、「糖鎖」を思いだし、会話の中で使ってもらえるほど、「糖鎖」と言う言葉が市民権を得てくれることを切に願っています。チコちゃんに「ボ-っと生きてんじゃねーよ」と叱られない為にもね。

 インフルエンザウイルス流行の季節が近づいてきました。日頃の体調管理を心がけるとともに、早めにインフルエンザ予防接種を受けましょう。本学では「福山大学感染症発生時対応マニュアル」を策定して公表していますので、こちらにも是非目を通しておいて下さい。

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と、最後はしっかり本学の危機管理に触れられました。ありがとうございました。
 それにつけても、昨年の西日本豪雨災害に続き、今年も台風19号等による東日本の大規模洪水や土砂災害。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被害を受けられた方々に心からお見舞い申し上げます。

学生のすばらしい活躍です。
(1)今年のETロボコンのパフォーマンス部門であるガレッジニア部門にエントリーしていたスマートシステム学科の1年生を主体とするチームが、11/21(木)に行われるチャンピオンシップ大会の選抜チームになりました(3チーム中の1チームです)。結果一覧、特別審査員によるコメントは、以下をご覧ください。
https://www.etrobo.jp/garagineer-2019-videoreviewresults/

(2)第42回中国四国学生陸上競技選手権大会において、経済学部経済学科3年の金川 伸一郎君が、男子やり投げで優勝しました。おめでとうございます。(残念ながら全国大会とは連動していません。)

(3)先月の学長短信No.122で、第86回全日本大学総合卓球選手権大会に出場することが決まったことを紹介した薬学部1年生の池田未来さんですが、第1回戦は勝利したものの、2回戦で敗退でした。でも、全国大会での第1回戦の勝利を称えたいと思います。

お知らせです。
(4)10月28日、福山大学孔子学院の共同設立大学である中国対外経済貿易大学および上海師範大学代表団、学校法人福山大学からは鈴木理事長、松田福山大学学長、坪井福山平成大学学長他の出席のもとに三大学協定更新の調印式が行われました。同日には三大学理事会と中国経済シンポジウムも開催され、昨年設立10周年を迎えた福山大学孔子学院は新たなスタートを切ることになりました。(冨士福山大学孔子学院理事長・福山大学副学長 記)