学部・学科・大学院

建築学科

佐藤 圭一(さとう けいいち)

職 名 教授
学 位 博士(工学)、一級建築士
専門分野 地域生活空間計画学、都市計画史、建築史
担当科目 日本建築史、西洋・近代建築史、建築保存・再生論、造形デザイン、建築設計演習など
メッセージ 「地域生活空間計画学研究室」では、地域・生活・空間・計画をキーワードとして、フィールド(臨地)から問いを立て、解決に導くという研究手法をとっています。地域と協働でヒト・モノ・コトをデザインする「備後地域遺産研究会」を主宰して、地域の至宝「地域遺産」を守り継承する実践も行っています。備後表をユネスコ無形文化遺産へ。

近代植民都市の計画理念とその空間形成・変容・転成・保全

南アフリカ内陸にグラーフ・ライネという18世紀末に建設された都市があります。地形を読んで灌漑し、グリッドを敷いたオランダ植民都市計画の一つで、18世紀末のケープ植民地のフロンティア都市でした。現在でもアパルトヘイト期の人種隔離空間が都市形態に色濃く残っています。「全ての都市はある意味で植民都市である」(R. Home)といえますが、この研究の始まりは現代都市に胚胎された問題を紐解く旅でした。それまで僅かばかりもっていた自信と世界観は最初の臨地調査時に微塵となり、南アフリカに行って自分に何ができるのかまだ分かりませんが、畏れ敬いながら通っています。

隔離された都市形態が残る内陸植民都市グラーフ・ライネ(南アフリカ) 

生活用水供給システムの変遷からみた居住空間形成

水源と取水・給水のための制度や技術を併せ「生活用水供給システム」と概念規定し、その変遷過程に着目して、居住空間の形成史を明らかにしています。生活用水供給システムには、最も原始的な湧水直接取水型から大規模な近代上水道事業までいくつかの類型がありますが、これらは決して一方向の歴史的発展過程ではないことが分かってきました。上水道敷設地域に住む人々が、飲用水を求めて、ポリタンクを抱え湧水池に「名水」を汲みに行く行為は非常に興味深いものです。また、水環境の豊かな地域では、水道事業に依らず、現在でも自前の清廉な水源と給水システムを維持する集落(コミュニティ)が存在します。近代都市計画が追求した衛生思想とは異なる原理で形成された居住空間です。瀬戸内の中心である備後地域は、温暖で自然災害は少ないのですが、降水量が少なく水資源の乏しい土地でもあります。旧城下町近世水道敷設から近代の旧佐波浄水場建設に至る過程に着目して、備後地域の居住空間形成を明らかにすることが新たな研究テーマです。

秘匿の水道水源に向かうフィールドワーク

「地域遺産」の理念構築とその保全・活用

福山に着任してから、時に学生と共に、毎月のように明王院へ通っています。信心深いわけでもなく、実は水神信仰していますが、30年ぶりの静謐な仏寺境内に惹かれました。学術調査には至っていませんが、五重塔内部に闖入させていただく貴重な機会を得ました。備後地域には草戸、鞆の浦や尾道など偉大な歴史的空間や国宝建造物も残りますが、地域で継承されてきた生活空間や風習そのものが「地域遺産」と考えています。地域の人々が守り伝えたい地域の至宝=「地域遺産」は、莫大なコストをかけて凍結保存するのではなく、使い続けることでしか継承することはできないのだろうと考えています。その理念構築と保全・活用の実践のため、日々、地に臨み、地域遺産を「発掘」しています。

国宝明王院五重塔 ~五層目の欄干からみる~

地域遺産を視座とした備後のまちづくり

ユネスコ世界遺産の掲げる「顕著な普遍的価値」をもたないかもしれないが、生活空間に根ざした「地域遺産 はそれ以上の価値をもつ場面があります。遺産を更新するのか、継承するのか、最終的には広く地域住民の判断に委ねられるものだと考えています。地域生活空間計画学研究室の役割は、現地調査に基づいて錯綜する都市や建築の歴史を紐解き、将来計画をカタチとして提示することです。どんな制度を構築したとしても、遺産は登録よりもその保全・活用が難しい。遺産を継承するためには、その地域だけでなく、域外の様々なヒト・モノ・コトを巻き込む仕組みが必要となります。学生と共に足もと備後の地域遺産を「発掘」しつつ、地域と協働でまちづくりのお手伝いをしています。持続可能な人材育成(ヒト)、環境形成(モノ)、制度構築(コト)を目指して、地域遺産の学術調査をまちづくりの実践に活かしてゆきたいと思います。

地域住民によって整備された地域の至宝「別所砂留」