経済学部

Faculty of Economics

2022年度(後期卒業)卒業論文:経済学部長賞対象論文(5編)

経済学部では、2022年度(後期)の卒業論文から、論文完成度、作成努力度、教員指導度といった観点から評価付けを行い、特に優秀なものと経済学部長が認めた卒業論文に「経済学部長賞」が授与されることになりました。2022年度の対象論文は以下の5編です。

〈経済学科〉

① 出羽愛華(高羅ゼミ 広島県立府中高等学校出身)『10年後、子育てNo.1都市「Fukuyama」に!-府中市の子育てを考える-』

評価点:福山市を対象とした子育て支援(ネウボラ推進)に関した最優秀発表実績を踏まえ、今度は横展開し、著者の故郷の府中市を対象とした子育て支援を巡る課題発掘と改善提案を行った論文である。府中市役所やソフトバンクへのインタビューを通じ、福山市と府中市では子育てインフラストラクチャー状況(産婦人科の不存在、数少ない小児科、赤ちゃん用品専門店がない等々)異なることを把握した上で、情報技術やロボット等の新たな技術を利活用することで子育て支援の重層化を目指した提言を纏めている。福山市ネイボラ推進研究の際に蓄積した研究アプローチを十二分に利用していることは評価に値する。また、参考資料数が53編にも及び、本論文作成に向けての著者の並々ならぬ投入エネルギーを感じさせる。

課題:子育てインフラストラクチャーの差が地方自治体毎で存在するということは所与の前提とし、それらの格差是正に向け、新たな技術による解決はその選択肢の一つに過ぎない。シビル・ミニマム、ナショナル・ミニマムといった考えがある中で、今回の「子育て支援」のためのあるべき地方行政サービス水準をどこまでとするのが良いかといった視点での研究まで発展して欲しい。

② 永井隼人(田中ゼミ 愛媛県立今治南高等学校出身)『動物園をより良くするために』

評価点:本研究では全国動物園水族館協会に加盟している89の動物園を対象に5年間(2015〜2019年)の膨大なデータ収集を行った上で、営業時間、入園料金(大人・小学生)、面積、年数、アクセス時間、飼育動物数、動物の種類を被説明変数とし、入園者数を説明変数とし、相関分析では入園者数と各要因の関係性を調査し、回帰分析では各要因が入園者数にどの程度影響しているかを分析している。結論として特定の動物を飼育すること・動物数が多いほど動物園の入園者数は増加するという結果が得られており極めて論旨が明快である。併せて、動物園の収益希少性が高い動物や飼育動物数が多いことは、動物園の年数や入園料などの要因よりも入園者数の増減に最も影響があるが、飼育費用も高額になることから入園者の増加を見込むため多様な動物の飼育は必ずしも動物園の収益増加に直結しないことを導くなどオリジナリティのある論文である。

課題:例えば、環境経済学では、人々が(環境の良い)観光地にどれだけ魅力を感じているのか(=利用価値、便益)を推計する手法の一つとして、人々がどれだけコストを掛けて何回その観光地を訪問するのかという情報を利用するトラベル・コスト法を使う。動物園への入園という人々にとっての利用価値や便益を推計する手法アプローチも色々と考えられ、今後の研究発展に期待したい。

③ 向田愛子(藤本ゼミ 広島県立福山明王台高等学校出身)『地方都市におけるベンチャー企業進出と戦略の考察』

評価点:地方都市でベンチャー企業が起業し、成長して地域や国を引っ張っていくという仮設を実証するため、日米比較、都市の規模比較、ベンチャー企業の成長履歴を把握するという関連情報の絞り込みを丁寧に行っている。そして地元の広島県、さらには福山市でのベンチャー企業の誘致に当って何が必要かに関して、ベンチャー企業支援組織である福山ビジネスサポートセンター「Fuku-Biz」の専門家にインタビューすることでベンチャー企業誘致戦略としての具体的提言を行っていることは評価できる。論文総頁数が多ければ良いというものではないが、本論文は56頁にも及び、今回の候補作の中で群を抜く多さであり、著者の作成努力には敬意を表したい。

課題:「Fuku-Biz」の専門家へのインタビューに留まらず、「Fuku-Biz」設立の切っ掛けを作った小出宗昭氏の関連情報を集めるとベンチャー企業支援に新たな視点を得る可能性があると思います。

〈国際経済学科〉
Ryosuke Yamamoto(Bisset seminar 広島県立福山誠之館高等学校出身)“The key to success when expanding retail overseas seen in management comparison between Walmart and PPIH”

評価点:流通小売販売の大手企業のウォルマートとPPIHを取り上げ、事業範囲を海外に拡げる際の両社の異なるビジネスモデルを比較している。取扱商品(食料品、日用品等)購入に関する電子取引化の動きなど消費者行動の国際的な変化も踏まえつつ、多くの国での進出事例を比較検討している。著者は、実に数多くの先行研究を調べ上げており、本論文完成に向けての投入時間、エネルギーは計り知れない。

課題:流通小売販売のP.B.商品戦略比較に関する先行研究も多く、さらに著者としての研究の独自性に期待したい。また、例えばウォルマートの日本進出では西友との資本提携を伴った海外進出であったが、ウォルマートとPPIH両社を通じてのM&A等の資本進出戦略比較まで精査・研究できれば、さらに良い研究報告となったと思われる。

〈税務会計学科〉
田中舜也(関下ゼミ 岡山県立笠岡商業高等学校出身)『内部統制的アメーバ経営-管理会計手法の不正防止への適用』

評価点:本論文では、横領・着服問題等の企業不正の抑制の一端を担っている内部統制に注目し、有効性に欠ける内部統制に代わり不正防止に効果を発揮が期待される「アメーバ経営」に着目、内部統制的アメーバ経営が有効ではないかという仮説を立てている。アメーバ経営に内在する機能・体制が内部統制との補完性があるかどうかを確かめ、内部統制との併用を視野に入れた企業への運用性を提示した独自性の高い研究論文となっている。

課題:アメーバ経営を実際に導入している企業等にインタビュー等を行なえば更に良くなったであろう。

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