2025年度(後期卒業)卒業論文:経済学部長賞対象論文(6編)
経済学部では、2022年度(後期)の卒業論文から、論文完成度、作成努力度、教員指導度といった観点から評価付けを行い、特に優秀なものと経済学部長が認めた卒業論文に「経済学部長賞」を授与しています(2024年度の対象論文はこちら)。2025年度の対象論文は以下の6編です。
<経済学科>
①小畑さくら(高羅ゼミ 広島県立福山明王台高等学校出身)『Jobway企業の事例研究―若手人材の確保と定着に向けて―』
評価点:筆者が3年次に参加したJobwayローカルジョブサミットを出発点として卒業論文のテーマへと発展させ、広島県中小企業家同友会の取り組み及び加盟企業10社へのインタビュー調査を通じて、広島県の中小製造業における若手人材の確保と定着の現状と課題、対応策などを筆者自身の経験にも基づいて的確に整理・分析しており、高く評価できる。福山大学就職課へのインタビューの内容も活用されていて、経済学においても極めて重要な労働市場というテーマに関する筆者の関心の高さが大いに伝わる力作となっている。
課題:本論文は、多くの企業の若手人材の確保と定着に向けた取り組みを広くまとめた。個別の取り組みが、どうすれば実際の若年層の定着に結びつくのか、今後は社会人目線で全体像も見ながら考えて欲しい。製造業における若年層の減少というトレンドの持つ意味は何か、時間をかけて時代の流れをフォローする価値があると思われる。
②常原慎也(善野ゼミ 広島県立神辺旭高等学校出身)『日本における再生可能エネルギー政策の重要性―温室効果ガス削減効果の考察―』
評価点:本論文は、日本の再生可能エネルギー政策を環境経済学の視点から精緻に分析した極めて優れた研究である。筆者は経済産業省等の公的データを自ら収集し、単回帰分析・段階的重回帰分析を用いて再生可能エネルギーの温室効果ガス削減効果を統計的に実証した。特に政府が重点を置く風力発電の課題に踏み込み、政策的含意を導出した点は学部生研究として突出している。データ分析の精度、論理構成、政策提言の明確さのいずれも高く、学部長賞に値する。
課題:データとして活用されているサンプルが11年分だけと限定的である点が課題として残っている。分析対象のサンプル数を増やす工夫ができれば、更に深い実証分析に繋がる可能性がある。本論文はデータ分析結果を丁寧に報告しているが、世界的な再生可能エネルギー政策のトレンドと日本における取り組みを比較する考察の部分ももっと掘り下げて欲しい。
③二宮崇文(野村ゼミ 岡山県・金光学園高等学校出身)『倉敷市における観光の経済波及効果』
評価点:本論文は、倉敷市の観光消費が地域経済に及ぼす波及効果を数量的に明らかにしている。観光庁統計などに基づき消費構造を分解し、産業連関分析を用いて経済波及効果を推計した。日帰り客比率が高く短時間滞在であるが、高い波及効果を示す点で京都などと異なる興味深い特徴を明らかにするとともに、宿泊需要や体験消費の拡大などの課題も指摘している。倉敷市の観光形態が比較的多様であることが指摘されている。自治体の公表したデータを丹念に収集して経済効果(具体的には観光消費が地域経済に及ぼす生産誘発額)を導き出した丁寧な分析方法と、今後の観光政策の課題も示した点を高く評価できる。
課題:京都との比較検討がなされているが、筆者も指摘する通り、京都の経済規模は倉敷市を圧倒している。もっと倉敷市に近い福山市や尾道市との比較ができれば、観光が地域経済に与える影響という観点において興味深いであろう。データ収集や広島県の産業連関表の活用などの検討が必要となる。
④藤原知哉(田中ゼミ 広島県・近畿大学付属広島高等学校出身)『地方路線維持に向けた駅周辺集積の効果』
評価点:日本全国の中核市内主要駅に関する旅客運輸情報や駅周辺の施設数など膨大なデータを収集している。また、収集したデータから独自の指標を作成した上で実証分析がされており、分析結果からも既存研究に対する十分に高い新規性を有すると評価できる。結論として、商業施設の集中が駅利用者数に最も強い影響を与えることが明らかとなり、卒業論文としてオリジナリティーの高い研究にまとまった。
課題:筆者の関心は鉄道の利用に集中しているが、コンパクトシティの議論では、鉄道だけでなく、バス路線など他の輸送手段も総合的に考慮される。本研究の諸結果から、鉄道以外の交通手段の利用に関する含意も検討できれば、都市計画の観点から更に広い考察に繋がる可能性があると思う。
<国際経済学科>
箱崎良貴(足立ゼミ 広島県立因島高等学校出身)『技能実習生の送金とフィリピン経済への影響』
評価点:フィリピン国民のいわゆる出稼ぎ送金がフィリピン経済に占める割合が多いことは、周知の事実である。また、世界にはフィリピン人労働者なくしては経済が立ち行かない国が多いことも事実である。因島という人口わずか2万人あまりの造船の島にフィリピン人技能実習生や特定技能労働者が約1千人働いており、うち125人に対して筆者は英語でアンケート調査を実施した。現在日本で外国人問題がさかんに議論されている中、国際経済学科にふさわしいタイムリーなトピックであり高く評価できる。本論文はフィリピン経済における海外出稼ぎ送金の重要性を裏付けるタイムリーな研究となった。
課題:アンケート結果の分析はもっと工夫できたであろう。例えば、送金の具体的な額について聞いてみれば、興味深いデータが入手できた可能性もある。対象の地域を広げてサンプル数のもっと多いアンケート調査ができれば、価値のある実証分析に繋がるだろう。
<税務会計学科>
相良朱琉(原岡ゼミ 宮崎県立都城泉ケ丘高等学校出身)『介護業界における運営体制の限界と地域連携の重要性―相良モデルの提案と有効性検証―』
評価点:本論文は、介護需要の増大と深刻な人材不足という喫緊の社会課題に対し、現状分析と改善モデル提案の二部構成で鋭く切り込んだ意欲作である。前半では、行政主導による連携の形骸化や住民との心理的距離といった地域連携の問題点を、8つの先行研究・事例分析から詳らかにした。後半では、これらの課題の解決手段として、自律型組織の理念を日本流に再構築した「相良モデル」を提示。これを都城市の「在宅ぼんちネット」を対象とした具体的な思考実験を行い、施設が地域の主体となることで、行政主導では停滞していた情報共有や相談支援等の諸課題が解決可能であることを実証的に検証している。筆者自身の幼少期からの観察と現場経験に基づき、理論と実践を融合させたこの研究成果は、地域包括ケアの未来に新たな視座を与えるものであり、学部長賞に相応しい研究となっている。
課題:本論文の関心は、介護業界における運営体制のありようである。他方、この業界での離職率の高さや人材不足の背景には、待遇の課題、そしてそれに繋がる財源や介護保険に関わる課題が無視できない。「相良モデル」が実際に成果を上げるために必要な、待遇面などでの政策についての考察もあれば、運営体制の議論を補完して提言の説得力を増すだろう。




