経済学部

Faculty of Economics

【国際経済学科】ブータン交流プログラムを実施しました!

【国際経済学科】ブータン交流プログラムを実施しました!

こんにちは。国際経済学科の足立です。令和7年度福山大学教育振興助成事業に採択された、国際経済学科鈴木伸講師の「ブータンと日本のケーススタディを通じた国際協力と地域活性化を学ぶ国際交流プログラム」が実施されましたので、鈴木講師からレポートしていただきます。

 


国際経済学科の鈴木です。私が担当する後期開講科目「国際機関論」において、この度、令和7年度教育振興助成事業として採択された「ブータンと日本のケーススタディを通じた国際協力と地域活性化を学ぶ国際交流プログラムの開発」を実施しました。

この企画は、私の後輩であり、現在京都大学大学院に所属し、ブータン農村の研究をしている森下航平氏 に、「福山大学の学生たちに、座学では得られない『本物の経験』をさせたい」と相談したことから始まりました。彼は今回の交流を行ったブータン王立大学シェラブツェ校で滞在研究をしており、ブータンと日本をオンラインでつなぎながらコーディネートしてくれました。

ブータンからzoomで第1回目のオリエンテーションの全体説明をする森下氏

私たちの目的は、単なる国際交流ではありません。JICA(国際協力機構)の国際協力をケーススタディとし、それを私たちが住む「備後地域」の過疎化などの課題と比較考察することにあります。「国際協力」というと、どうしても「一方的にしてあげる」というようなイメージが付きまといます。しかし、現場を見ていると必ずしもそうとも言い切れないのです。それは、右派ポピリズムが蔓延し、自国中心主義の傾向が強まっている昨今において、改めて「国際協力」の実際や意義を問うことは非常に重要なトピックと言えるでしょう。本学「国際機関論」の授業を通じて、学生がよき市民(1人の福山・尾道・三原・・・・・市民、日本国民、世界市民)になるにはどうすれば良いのかを考える鍵を提供したいのです。またそれに限らず、ブータンの学生との交流を通じて自分自身を見つめなおしてほしいのです。そして最終的に、ブータンの学生と「地域の課題」をテーマに英語で本気の議論を交わすことを通じ、学生たちに「グローカルな視点」を育んでもらうこと、それがこのプログラムの核心であり、私が授業で目指したものでした。

この挑戦的な試みに、学生たちは多様な動機を持って参加してくれました。

<学生の声:受講理由> 

  • 「海外には興味があるから」(経済学科2年・男子学生)
  • 「他の講義では味わうことができない経験をぜひ受講したいと思ったからです。」(経済学科2年・男子学生)
  • 「シラバスを見て面白そうだと思った。農業人口の減少や自然環境などについて取り上げてみたい」(国際経済学科3年・女子学生)
  • 「ブータンの大学生の人たちと交流できることなんて普通ではないと思うからいい経験になると思った。」(経済学科2年・男子学生)

本プログラムの最大の特徴は、11月6日のオンライン交流会を「単発のイベント」ではなく、5回にわたる事前学習の「集大成」として位置づけた点にあります。この記事では、その6週間にわたる学びの軌跡を、一挙にご報告します。

第1回目のオリエンテーションを聞く学生たち

1.専門家から学ぶ「リアル」:事前学習(第2回・第3回)

交流会という「本番」の質を高めるため、まずは専門家の皆様から国際協力とブータンの「リアル」を学ぶセッションを設けました。学生たちが持つ「国際協力」のイメージや、「幸せの国」というステレオタイプを良い意味で壊し、議論のための共通基盤を築くことが狙いです。

1.1. 島根県海士町との接続(第2回:江森真矢子氏 講義)

ブータンの女性民族衣装を着て講演をする江森真矢子氏

10月2日(木)の第2回講義では、一般社団法人まなびとの江森真矢子氏に対面で登壇いただきました。江森氏は、JICA草の根技術協力事業として、日本の「辺境」の離島・島根県海士町(あまちょう)の「高校魅力化プロジェクト」の知見をブータンに展開する「PBL for GNH(地域課題解決学習)」に携わっています。

海士町は、かつて「人口流出のネガティブスパイラル」に陥っていましたが、「島留学」などの教育魅力化によってV字回復を遂げた、日本の地域活性化の先進事例です 。江森氏は、海士町とブータンが「辺境にある」「人口流出という課題意識」といった共通性を持つと指摘 。これは、課題の当事者であった日本の知見をブータンと「共創」する「辺境からのリバースイノベーション」であると熱く語られました 。

現地での写真を多く交えながらお話いただきました。

<学生の声> 

  • 「島根県の海士町とブータンの似ていることが多々あって驚きました。双方で改善するためにたくさん取り組んでいるところがすごいと思いました。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「ブータンの学生の1日のスケジュールを聞いて朝も早くみっちり予定が組まれていることに驚きました。また、小学生から落第があることに驚きました。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「私は高校の探求の時間で日本の農村の課題をテーマに調べ学習をした経験があり、この授業と共通している部分が多くこれからの講義も楽しみに感じています。」(経済学科2年・男子学生)

1.2. 「支援」のリアルと「過疎化」の深層(第3回:塗木陽平氏・石内良季氏 講義)

10月9日(木)の第3回講義は、JICAブータン事務所から塗木陽平氏がオンラインで、京都大学大学院の石内良季氏が対面で登壇するという、マクロとミクロの両視点からブータンを深く知るセッションとなりました 。

JICAブータン事務所からオンラインで講演をする塗木陽平氏

塗木氏は、日本がブータンで展開する「農業」(“ブータン農業の父”西岡京治氏の功績)、「インフラ整備」(移動時間を劇的に短縮する26の橋梁建設)、「保健医療」(遠隔で胎児を診断するモバイル胎児モニター導入)といった多角的な協力について紹介しました。

しかし塗木氏は同時に、ブータンが直面する最も深刻な社会課題を「若者の失業」と「国外への人材流出」であると述べます。

ブータンの男性民族衣装を着て現地調査で撮り集めた写真や動画を交えて講演をする石内氏

続いて登壇した石内氏の講義は、人類学的なフィールドワークの視点から、この「人口流出」のミクロな実態をえぐり出しました。石内氏は、東部ブータンの農村で見られる耕作放棄地や廃村の写真を提示していただきました。

特に衝撃的だったのは、1990年には116人ほどの村人が集い祭りを行っていた仏塔(チョルテン)が、2025年現在では管理する者がいなくなり、「真っ黒」に変色し、手前は完全に藪と化している比較写真でした。石内氏は、この現象が日本の過疎と全く同じグローバルな問題であると指摘しました。

さらに石内氏は、この過疎化がブータン人にもたらす精神的な危機を解説します。ブータンでは、2歳の乳児でさえ仏教的な対象を「モノノ」(お寺やお坊さんのことを表す幼児語)と呼び、日常に仏教が根付いています。彼らにとって祭りで他者に食事を「与える」ことや、葬儀で集まり故人のために祈ることは、来世のために功徳を積む最も重要な善行です。

しかし、過疎化によって人口が減少すると、祭りで「与える」相手も、葬儀で共に祈る仲間もいなくなります。つまり、過疎化とは「人がいないと、善行を行うことができない。功徳を積むことができない」という、人生観の根幹を揺るがす精神的・文化的危機として捉えられているのです。

熱心に話を聞く学生たち

<学生の声>

  • 「特に印象に残っている部分では、仏塔が見る影もなく変わり果ててしまって、誰も祈りを捧げていないというところです。…切ない気持ちになりました。」(経済学科2年・男子学生)はるたつ顔が25キロ
  • 「1番印象に残ったのは2歳児が仏教という概念をわかっているという事だ。言葉で説明することはできないけど『モノノ』という言葉で仏教を認識できているのが凄いと思った。日本の2歳児ではありえない事だと思う。」(経済学科2年・女子学生)

専門家たちの生々しい報告によって、「幸せの国」という一面的なイメージは完全に覆されました。学生たちは、ブータンを「日本と同じく深刻な農村課題に直面する国」として、対等な議論の相手として認識する準備が整ったのです。

江森氏の話を真剣に聞く早川学部長と鈴木

今回のゲスト講演は公開講座にしておりました。学生のみならず、教員も非常に興味深く拝聴いたしました。

2.地元を知る:ブータンに伝える備後地域の課題(第4回・第5回)

ブータンの「リアル」を学んだ学生たちが次に取り組むのは、自らの足元である「備後地域」の課題分析です 。

ここで、企画者として一つの仕掛けをしました。プレゼン準備の指示(第4講)において、「※シャッター商店街など街中の課題は今回NG」という明確な制約を設けたのです 。

これは、学生の関心が安易な「中心市街地の活性化」に向かうことを防ぎ、意識を強制的に「農村」の問題(人口減少、農業継承者不足、耕作放棄地など)へと誘導するための意図的な制約です。これにより、学生たちが取り上げる課題は、第2回で学んだブータンの農村課題(過疎化、若者の流出)と直接比較可能なものとなり、交流の質を担保する設計としました。

プレゼン内容を相談する学生たち

<学生の声> 

  • 「自分たちが普段住んでいる身近な地域にもこんな深刻な問題に直面しているなんてあまり考える機会が今まで無かったので、考えさせられる貴重な機会になり、有意義な時間を過ごさせて頂きました。」(経済学科2年・男子学生)
  • 「ビンゴ地域は私が思っているよりも少子高齢化が進んでいることがわかりました。若年層の都市への流出なども原因となっていて確かに私の友達や、私も都市に出たいのでさらに悪化しそうだと懸念しました。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「備後地域の課題を改めて考えるきっかけになった」(国際経済学科4年・男子学生)
  • 「自分の地元にも同じような問題があることに気づいた」(国際経済学科3年生・女子学生)

学生たちは第5回(10月30日)までにプレゼン動画を完成させ、いよいよブータンの学生たちとの対面に臨みました。

3.「鏡」の向こうの私たち:オンライン国際交流(第6回)

交流当日の様子

11月6日(木)、プログラムのクライマックスである、ブータン王立大学シェラブツェ校( Sherubtse College, Royal University of Bhutan )の学生たちとのオンライン国際交流会を開催しました 。

当日は、互いに事前に撮影・共有したプレゼンテーション動画を視聴した後、リアルタイムでの質疑応答、そしてブレイクアウトルームでの少人数ディスカッションが行われました。

ここで、私が意図した「グローカルな相互発見」が、両国の学生たち自身の言葉によって現実のものとなりました。

各自のスマホやPCでzoomに入りブータンの学生と交流する福大生

<福山大学生の発見:「ブータンも、備後と同じだった」> 

  • 「ブータンの農村は日本と同じような若者の後継者が少ないという課題があることを知った。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「ブータンの人は英語力も高くてとても尊敬しました。ブータンも備後と同じように課題は沢山あるのでどこも同じなんだなと思いました。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「ブータンの農村が抱える課題が備後地域と多くの共通点を持つことに気づき、国際的な視点から地域課題を考えることの意義を深く理解することができました。」(経済学科2年・男子学生)

<ブータン学生の発見:「『先進国』日本も、私たちと同じだった」> 

  • 「このプログラムを通じて、日本もブータンと同様に過疎化や高齢化といった農村部の課題に直面していることを学びました。…私の日本に対するイメージは変わりました。」(ブータン男子学生)
  • 「日本のような先進国でさえ、農村コミュニティの維持に苦労していることを知り、驚きました。これにより私の日本に対するイメージが変わりました。」(ブータン男子学生)
  • 「日本と聞くと、私はその近代性ばかりを考えていました。…日本がこのような農村部の問題に直面しているとは思いもしませんでした。」(ブータン女子学生)
  • 「日本の農村における技術革新や地域活性化の取り組みに関心がある」(ブータン男子学生)
  • 「日本の若者による地域での起業や、文化・伝統を守りながら発展する姿に学びたい」(ブータン女子学生)

3.1. 「伝わらない」というリアルな課題

この教育実践報告として、また将来の国際交流プログラムへの参考として、当日の「課題」についても率直に記す必要があります。それは「言語の壁」です。

この「言語の壁」は、まさに学生たちにとって最大の試練でした。しかし、そこで立ちすくむのではなく、何とか伝えようともがく姿こそが、私(鈴木)が最も感動した瞬間でした。

経済学科2年の堀翔竜くんは、うまく言葉が出ない中でも、最後まで諦めずにブータンの学生にプレゼンをしようと真摯に努力を続けてくれました。その姿は、教員である私やファシリテーターの先生方の心を強く動かすものでした。この「伝えたい」という一心から生まれた真摯な姿勢こそ、彼にとって一生の財産になるはずです。

そして、その悔しさや困難を、他の多くの学生も共有していました。

自分の言葉でブータンの学生と交流している経済学科2年の堀翔竜くん

<学生の声(反省)>

  • 「英語が全くわからなかったのが、反省です。」(経済学科2年・男子学生)
  • 「英語力がもっとあれば通訳を通せずに意思疎通ができたと思う。」(経済学科2年・女子学生)
  • 「日本の学生たちの英語を理解するのは難しく、彼らとコミュニケーションをとるのは少し大変でした。」(ブータン女子学生)

 

私は、この「伝わらない」というリアルな困難こそが、最も強力な学習動機になると考えています。この日、学生たちの通訳や両国のバックグラウンドの情報の提供でサポートしてくれた、京都大学大学院の平山貴一氏、菊川翔太氏、樋上真央氏、齋藤七海氏、多田陸氏、そして企画全体をコーディネートしてくれた森下氏といったTA・ファシリテーター陣のサポートがいかに重要であったか 、そしてこの「悔しさ」こそが学生たちの次の学びへのステップとなったことは、教育実践上の重要な知見です。

zoomの集合写真

4.結び:他者を通じて自己を見つめ直す

本プログラムは、学生たちの視座を高めるだけでなく、具体的なスキルセットの向上にも寄与したと実感しています。

事後アンケートでは、福山大学生から「プレゼンテーション能力」や「チームワークの重要性を実感した」、ブータン学生から「異文化間でのコミュニケーションやチームワークを通じて自分自身の成長を感じた」  という回答が多数寄せられました。

さらに私が注目したのは、「言語の壁」という困難を通じて、学生たちが自らの課題を客観的に認識する「メタ認知(内省)」の機会を得たことです。

<学生の声(未来への意欲)> 

  • 「ブータンの農村開発や教育支援の取り組みについてさらに学び、国際協力の現場に関わる機会を持ちたいです。」(経済学科2年・男子学生)
  • 「国際交流への関心が高まった」(経済学科2年・女子学生)
  • 「もっと英語を学びたい」(国際経済学科3年・女子学生)
  • 「将来、日本がどのように技術革新を農村課題の解決に活用しているか、もっと学びたいです。…日本の農村部も訪れてみたい。」(ブータン男子学生)
  • 「国際交流プログラムにもっと参加し、異文化理解を深め、協働的なアプローチがどう農村課題を解決できるか探求したい。」(ブータン女子学生)

今回のプログラムで、JICAブータン事務所からオンライン登壇いただいた塗木陽平氏は、かつてJICA中国センター(東広島市)に勤務されており、福山大学とのご縁を感じてくださっていました 1。塗木氏は、講義の最後に海外で働く面白さを次のように語られました。

「一番は、他者を通じて自分を見つめ直すというのが、私はあるかなと思っています。…他者を通じて、ブータンを通じて日本を見つめ直す…」

この言葉は、まさに私がこのプログラムで学生たちに体験してほしかったことそのものです。福山大学の学生はブータンという「他者」を通じて自らの地域(備後)の課題を再発見し、ブータンの学生は日本という「他者」を通じて自国の課題を客観視しました。

教育の最終目標が、プログラムの終了後も続く「学びへの意欲」を喚起することにあるならば、今回の挑戦的なプログラムはその目的を十分に達成できたのではないかと感じています。

受講学生の声(一部抜粋)

<経済学科2年・坂根秀くん> 

ブータンでの都市部への人口流出の話を聞き、備後地域でも少子高齢化が進み廃校などが出てきていて危機感を持った方が良いなと思いました。農村部の教育がその地域の文化、歴史、環境への「愛着と誇り」育む場として機能していない現状が、最も深刻な課題ではないかという認識に変わりました。またプレゼン作成や交流を通じて、ブータンの方の話や現在私たちが住んでいる備後地域のプレゼンを作ることで問題解決にはまず構造を理解することが必要だと感じました。備後地域の課題で少子高齢化を止めるための解決策は、地元の企業が地元民を優遇することで都市部への流出を少なくして活性化することではないかと考えました。

坂根くんとグループ10のメンバー

<国際経済学科3年・小林心さん> 

JICAの塗木さんのお話では、私もJICAの活動に参加してみたいと思うようになりました。そして交流会ではブータンの学生から、ブータンも日本と同じ課題を抱えていることがわかったし、何より彼らも経済学を学んでいることを知ってシンパシーを感じた。もっと英語を勉強して、いつかブータンに留学したい!

iPadに向かって話しかける小林さん

末筆ながら、このような貴重な機会を実現できましたのは、ひとえに本プログラムをご採択いただいた福山大学教育振興助成事業をはじめ、日本・ブータン両国のご協力いただいた関係者の皆様のご尽力の賜物です。心より御礼申し上げます。

 

学長から一言:国際経済学科の鈴木伸講師が担当科目「国際機関論」の一環で実施し、ブータンとオンラインでつないだ現地大学生との交流は双方の学生に大変な知的刺激を与えたようです。ブータンの大学生との直接交流に先立って、JICAブータン事務所のスタッフや京都大学の院生による取り組み紹介、さらに「島留学」などを通じて隠岐の魅力を高め、過疎化脱却を図る海士町からの報告が周到に準備され、全体として広く農山村の人口流出・過疎化問題を縦横に考える仕組みが見事です。オンラインでの対話に果敢に挑んだ学生の皆さんにも拍手を送ります。

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