国際経済学科
鈴木 伸(すずき しん)

職 名 | 講師 |
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学 位 | 修士 |
専門分野 | ヨーロッパ経済、財政学、環境経済学 |
担当科目 | EU経済論、国際機関論、専門英語、教養ゼミ |
メッセージ | 北欧は福祉で有名ですが、そこには様々な困難の中、各レベルの政府が経済成長の追求し、節約することで維持しています。私はフィンランドに度々足を運び、現地資料やインタビューで北欧の強さの秘密を探っています。ICT時代でも現地調査でしか得られないものがたくさんあります。北欧の光と影を一緒に探っていきましょう! |
北欧の福祉国家としてのフィンランド、強さの秘密は?
私が研究しているフィンランドは、福祉国家として広く知られているだけでなく、世界有数のIT先進国でもあり、「世界一幸福な国」としても有名です。しかし、人口はわずか約550万人と、広島県・岡山県・島根県を合わせた程度の小国にすぎません。また、かつてはソ連との戦争に敗れ、経済的にも厳しい時代を経験しました。そうした逆境の中で、フィンランドはいかにして国際競争力を維持してきたのか。その「光」と「影」は何なのか。私はその秘密を探るため、フィンランドの中央政府および地方政府が行っている政策・制度・財政について研究を進めています。

フィンランドの象徴、ヘルシンキ大聖堂
フィンランドの地域格差拡大と国-地方自治体の関係性の変化
フィンランドは、伝統的に地域格差の是正に積極的に取り組んできた国です。現在も、主要政党の一つであるフィンランド中央党は、地域格差の是正を中心政策の一つとしています。しかし、経済のグローバル化が進む中で、日本と同様に首都ヘルシンキへの一極集中が加速しています。中央政府も、ヘルシンキの国際競争力を高めるため、2000年代後半から「首都圏政策(metropolipolitiikka)」を本格的に導入しました。こうした流れの中で、地方部の発展のあり方は従来とは大きく変わりつつあります。日本においても、「地方創生」と「都市の競争力強化」は、いずれか一方ではなく、同時並行で進めるべき重要な政策課題です。私は、フィンランドの政策の変化やその背景を通じて、日本にとっても有益なヒントを見出すことを目指しています。

首都圏政策で強化されたヘルシンキ大都市圏の鉄道網
地域政策におけるEUの役割は?
フィンランドは国際競争力にさらされる中、地域政策も都市の競争力強化を重視する方向へと転換が進められています。一方で、こうした動きの中で地域格差が改めて大きな課題となってきています。この地域格差の是正において、重要な役割を果たしているのがEU(欧州連合)です。ヨーロッパが一つになるうえで大きな障害となるのが「域内格差」であり、加盟国間や各地域の間に存在する格差は、不満や対立の原因となりかねません。そのためEUは、独自の予算を用いて地域振興政策を積極的に展開しています。そして、そのEUの支援を巧みに活用しているのがフィンランドです。フィンランドの地方部では、EUの地域振興予算を効果的に獲得し、それを活かして地域づくりを進めています。さらに、国レベルでもこうした取り組みをしっかりとバックアップしています。私は現在、このEUの地域政策がフィンランドの地方に与えている効果についても、政策効果の検証という視点から研究を行っています。

ブリュッセルのEU本部
厳しい時代を乗り越えたフィンランドの地方自治制度
北欧は福祉国家として知られますが、財源保障と地方政府の裁量はトレードオフの関係にあります。中央政府が支援を強めるほど、地方の自立性は弱まるためです。フィンランドでもこの課題は深刻で、1990年代の大不況を機に地方自治改革が進みました。現在は、自治体を企業体のように見立てた「自治体コンツェルン」制度により、財源保障と裁量の両立が図られています。こうした制度から、日本の地方自治や財政を考えるヒントを得ています。

フィンランドの自治体協会
ヨーロッパの環境政策と再生可能エネルギー
ヨーロッパでは、EUの環境政策を背景に、再生可能エネルギーの普及が進められています。中でも自治体の果たす役割は大きく、自治体が所有するエネルギー公営企業が、再生可能エネルギーの導入を積極的に推進しています。また、こうした企業の売電収益や配電収益が、自治体財政に大きく貢献している事例も存在します。私は、ヨーロッパにおける再生可能エネルギー導入の実態について、各階層(EU、国家、自治体)の役割とその相互関係に注目し、分析を進めています。

ドイツ・バイエルン州にあるシュタットベルケ・ローゼンハイム(自治体出資のエネルギー企業)