【経済学科】海外研修レポート(フィリピン)

【経済学科】海外研修レポート(フィリピン)

世界的に見ても高い経済成長率を達成するようになった最近のフィリピンですが、所得の不平等、雇用の不足、無くならない貧困などの課題も残っています。こうした現状を実地に視察するとともに、アジア開発銀行、世界銀行、JICA、JETRO、諸企業、フィリピン大学などの訪問を通じて、フィリピン経済の構造と課題、直接投資の現状と投資環境、開発援助の実態と貧困削減への成果などについて全般的な理解を深めることを目的に、経済学科では毎年海外研修(フィリピン)を実施しています。今年度の研修は8月26日(日)~9月2日(日)に実施され、4名の学生が参加しました。引率の早川達二教授より研修の様子が詳細に綴られたレポートが届きましたので、ブログメンバーの経済学科の野田が紹介します。

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〇8月26日(日)行程:岡山空港から韓国インチョン空港経由でマニラへ

今回で5回目となるフィリピン研修が始まりました。定刻に岡山空港を出発し、韓国のインチョン空港へは昼の12時頃に到着。運良く入手していた空港ラウンジ使用クーポンのおかげで、フリー(?)ランチを一同満喫できました。マニラのアキノ空港へは予定通り夜の10時ごろの到着。迎えのマイクロバスに乗り込んで、マニラの中心部マカティ市に位置するホテルに全員無事に到着しました。

 

〇8月27日(月)行程:アジア開発銀行(ADB)

(アジア開発銀行)

アジア開発銀行の本部は、マカティ市の隣のマンダルーヨン市に位置しています。まず、カフェテリアに入り、私の元同僚であるPrincipal Financial Sector SpecialistのJurgen Conradさんを交えて昼食をとり、交流を行いました。ドイツ人のConradさんは、5年間ADB北京事務所で勤務した後、最近本部に戻ってきたばかりです。東京にある日本の国際協力銀行(JBIC)での勤務経験もあるConradさんから、様々な仕事に関する興味深い話を伺いました。

プログラムでは、最初にコンサルタントの黒川さんが、ADBの全体的な業務を説明してくださいました。黒川さんが担当されている地球温暖化対策としてのCO2削減につながるような新しい取り組みについても、具体的な解説がありました。続いて、Associate Human Resource OfficerのWilldon OllerさんがADBの概要とインターンシップ・プログラムについて丁寧に説明されました。ADBのinternational staffの場合、他での勤務経験を経てから入る職員が多くなっています。続いて、ADB本部の建物の中をFacilities Planning and Management OfficerのErwin Casaclangさんが案内されました。植物用のリサイクル水のタンク、屋上にある多くのソーラーパネル、リサイクル用の紙の整理の様子を一同見学できました。

中庭で記念撮影をした後、ADBで日本政府を代表されている栗原理事を表敬訪問しました。ADBは、国際機関の中で最も日本人が活躍しているところで、約1,200人のinternational staffのうち、150人が日本人だとのことでした。

ADBの日本理事室で(右から3人目栗原理事)

 

〇8月28日(火)行程:JICA、世界銀行、エンデラン大学

(JICA)

マカティ市にあるJICA事務所を訪れました。JICAによるフィリピン支援の取り組みについて、浅田NGOコーディネーターと福山駐在員から大変丁寧な説明をいただきました。現政権はインフラ投資の増加を目指していて、それを支援するJICAの役割は非常に大きいと言えます。地下鉄のプロジェクトについて伺ったところ、マニラを南北に通る予定の地下鉄事業の準備を進めているとのことでした。一同、フィリピンの経済とインフラ整備、貧困削減など多くの開発課題についての理解が大いに深まりました。

 

(世界銀行)

マカティ市の隣のタギグ市のFort Bonifacioに向かいました。広大な軍の跡地を再開発したこの地域は、大変近代的でマニラを初めて訪れた参加学生たちは、この地区の発展ぶりを肌で実感することができました。

今回は、Senior EconomistのRong Qianさんと会合を持ちました。世界銀行フィリピン事務所は、年に2回ほど詳細な経済分析レポートを発行しています。Qianさんは経済分析に基づいて、フィリピン経済や開発課題について丁寧に解説してくださいました。最近のインフレ懸念の他、フィリピンはインフラ投資を積極的に推進しているが、物品調達システムなどの要因から政府予算執行には時間がかかること、政府の定義ではまだ人口の約22%が貧困層であることが指摘されました。

Rong Qian Senior Economist(左から2番目)と(世界銀行マニラ事務所)

 

(エンデラン大学)

エンデラン大学は、タギグ市Fort Bonifacioに位置する私立大学です。国際ホスピタリティ・マネジメント、経営学、起業、経済学のプログラムがあり、キャンパスには教育用のレストラン、キッチン、ホテル客室なども整備されています。また、留学生向けの短期・長期の英語研修プログラムも充実しています。普段は、日本で勤務されているEducation Adviserの宮内さんと案内担当職員のToni Santosさんがキャンパスを案内してくださいました。多くの日本人学生が英語を集中的に学んでいる様子を見ることができました。さらに、大学の近くにはVenice Grand Canal Mallという新しいモールができていて、観光地にもなっているとのことでした。

エンデラン大学記念撮影(右から3人目Santosさん)

エンデラン大学の前に新しくできていたVenice Grand Canal Mallの風景

 

〇8月29日(水)行程:豊ファインパック、東洋シート、Volenday

(豊ファインパック)

高速道路を南へ進み、ラグナ州サンタロサにある広い工業団地へと向かいました。豊ファインパックは本社が福井県越前市の企業であり、2013年からフィリピンでも操業しています。今年の1月に赴任された橘マネージャー、オペレーター2人、総務1人、ドライバー1人の計5人の体制をとっています。会社は高品質の包装資材を生産して日本へ船便で送っています。やはり、フィリピンに進出している村田製作所は特に重要な取引先です。

今回、大変有難いことですが、田中利希也社長が日本から我々の訪問に合わせて来られていてお会いすることができました。田中社長は、この工場を時々視察で訪れる福山大学経済学部元教授の中沢孝夫先生と親交があり、先生の著書『グローバル化と中小企業』に登場されています。

若い、英語を話す労働力が豊富であることがフィリピン進出を決めた重要な要因でした。電気代と国内物流コストが高いことには苦労されています。フィリピンに来られたばかりの若い橘さんが、この工場を運営されていることに学生たちは刺激を受けました。学生時代にバックパッカーとして世界中を旅された田中社長は、地方の中小企業の一つの成功モデルになることを意識して活動されているそうです。田中社長は非常に多くの本を読まれ、本の読者として中沢先生と面識ができたとのことです。

豊ファインパック記念撮影(一番左田中社長、2人目橘マネージャー)

 

(東洋シート)

東洋シートもサンタロサの工業団地敷地内で操業しています。社長の瀬尾さんが、我々一同を歓迎してくださいました。まず、兼平シニア・マネージャーが会社の歴史を説明されました。フィリピンには1999年に進出し、当初は主にフォードに座席を納入していましたが、フォードが2012年に撤退したために取引先が多様化してきています。従業員は現在326人で、そのうち120人が正社員です。この工場では、主に自動車用のシート・カバーが生産されて日本に輸出されます。また、映画館の椅子も製造しており、フィリピン国内で販売を続けています。

社員食堂のフィリピン料理の昼食をいただいた後、増崎シニア・マネージャーに説明をいただきながら生産ラインを見学しました。きめ細かい手作業のできる豊富かつ調整可能な労働力を活かしています。

増崎シニア・マネージャーによる説明

東洋シート記念撮影(左から1人目兼平シニア・マネージャー、2人目増崎シニア・マネージャー、一番右瀬尾社長)

 

(Volenday)

Volendayは、ITや自前の豊富なデータベースの活用などにより、採用作業サポート、人事戦略、ITサービスなどの外国企業向けのbusiness process outsourcing(BPO)を行う企業であり、輸出企業向け優遇措置のあるPEZA(経済特別区)の枠組みを活用しています。説明してくださったAllan Magtibayファイナンス・ディレクタ-によると、今、Volendayはマニラとシンガポールで事業を展開しています。

英語を話す若い豊富な労働力を背景に、BPOはフィリピンの重要産業の一つとなりました。フィリピンでは、2000年の前にミレニアム問題が話題になった頃からITへの関心が非常に高まったそうです。

Magtibayファイナンス・ディレクター(左から3人目)と記念撮影(Volenday)

 

〇8月30日(木)行程:キャステム、JETRO

(キャステム)

マカティ市から南西に進み、福山市に本社があるキャステムの工場のあるカビテ州地域まで行きました。キャステムでは、最初に同社のフィリピンでの操業について、広本社長から説明がありました。キャステムは、生産の9割をフィリピン、タイ、コロンビアで行っているグローバル企業です。また、フィリピンで多様な産業用精密部品を製造しています。最近、医療関係機器の部品の需要が増えていますが、豊富な労働力を活かして臨機応変に生産を調整できるのがフィリピンの強みです。

説明後、新しい工場ビルで「ロストワックス精密鋳造」部品の生産現場を見学させていただきました。ロウのパーツを複数つなげた「ツリー」を作成する様子を一同見学しました。最後に、上杉工場長も加わって日本食弁当を一緒にいただきながら、フィリピンについての会話を楽しみました。

広本社長による案内と説明

キャステム記念撮影(右から2人目広本社長、一番左上杉工場長)

 

(JETRO)

マニラJETRO事務所訪問のため、再びマカティに戻りました。坂田ディレクターからフィリピンの経済概況と課題などについて、大変詳しい説明をしていただきました。特に、PEZA(経済特別区)を通じて外国からの投資を誘致してきましたが、来年から法人税などにおける外資優遇措置を廃止する案が議論されていて、日本企業にとっても成り行きが大いに注目、懸念されています。フィリピンが推進しているインフラ投資には財源が必要で、比較的対処しやすい外国企業への課税がまず優先された模様ですが、投資の急減につながる心配があります。

坂田ディレクター(右から2人目)を囲んで(JETROマニラ事務所)

 

〇8月31日(金)行程:フィリピン大学、UP Town Center

(フィリピン大学)

フィリピン大学は、フィリピンの伝統ある国立大学です。経済学部のAgustin Arcenas准教授、経済学部事務室のRose San Pascualさん、経済学部のStudent Councilのメンバーの学生グループが我々を歓迎してくれました。自己紹介後、昼食を一緒にいただきながら交流の時間を過ごしました。学生グループは、経済学部の図書館をまず案内してくれました。その後、皆で車に乗って広大なキャンパスのツアーに出かけました。とても快活で親切な学生たちでした。

ランチタイム

フィリピン大学記念撮影(右から1人目Arcenas准教授、2人目Rose San Pascualさん)

フィリピン大学のシンボル、Oblation像の前で

 

〇9月1日(土)行程:イントラムロス、Mall of Asia

(イントラムロス)

マニラ旧市街にあるイントラムロス(300年間以上続いたスペイン統治時代に作られた城塞都市)周辺地区を訪れました。サンチャゴ要塞、フィリピン独立運動の英雄ホセ・リサルの記念館、マニラ大聖堂、最古のサン・アグスティン教会を訪問し、お土産店にも入りました。

マニラ大聖堂

サン・アグスティン教会

 

(Mall of Asia)

イントラムロス地区を出た後、マニラ湾に沿って南へ進むと、ほどなく巨大なMall of Asiaに到着しました。土曜日で、とても多くの客が往来していました。

マニラ湾

 

〇9月2日(日)行程:マニラから韓国インチョン空港経由で岡山空港へ

帰りの飛行機便は、1日(土)の午後11時10分発で、2日(日)早朝にインチョン空港に着きました。少し待ち時間を過ごした後、定刻に無事、岡山空港に到着できました。

連日、あちこちへと活発に動きながらマニラ周辺の実情を観察して、フィリピンの経済と開発課題についての理解が大いに深まったと思います。様々な人々と交流する機会があり、いろいろな刺激を受けました。マニラの交通渋滞の凄さも、百聞は一見に如かず、自分自身で体験してみて初めてその深刻さを真に理解できるのだと思います。

このフィリピン研修に参加した学生は、2014年から合計で24人となりました。多くは既に社会人として活躍していますが、フィリピンの現実を見たことがいろいろな場面で皆さんの役に立っていれば嬉しい限りです。

 

学長から一言:引率教員の早川教授、お疲れさま!4人の学生さん、たくさん学べましたか?世界はまだまだ広いので、次は自分の力で外国研修や留学をしてみましょう!きっともっともっと成長できますよ!!!