【大学教育センター】第12回教育改革シンポジウム開催!!「大学淘汰の時代をどう生き抜くか?」
福山大学開学50周年記念事業の一環として、第12回教育改革シンポジウムが、令和7年9月4日(木)、福山大学1号館1階の大講義室にて開催されました。今回のテーマは 「大学淘汰の時代をどう生き抜くか?」 で、高等教育研究の第一人者である東京大学名誉教授・筑波大学特命教授の金子元久先生を講師にお迎えし、大学を取り巻く環境の変化と今後の展望についてご講演いただきました。その様子を、大学教育センターの前田が紹介します。

開会挨拶
シンポジウムは、大塚学長の挨拶から始まりました。
学長は冒頭で、「本日の会が、これから長く続く人口減少に起因する、とくに地方私立大学にとっての冬の時代にあって、本学にとってむしろ長い発展の起点になるような、特別の意味合いをもつシンポジウムとなることを期待しています」と語り、続けて「そうした時期に文字どおり絶好の講演者として、金子元久先生をお迎えできたことを大変光栄に思います」と述べ、講演への期待を込めました。

基調講演「大学淘汰の時代をどう生き抜くか?」
金子先生の講演では、少子化による18歳人口の減少や大学教育の質的改善に向けた動きなど、日本の高等教育が直面する大きな変化について解説がありました。さらに、アメリカやドイツの高等教育制度との比較を通じて、日本の大学が抱える構造的な課題を多角的な視点から示されました。
特に、教育プログラムの評価と改善、授業方法の見直しといった取り組みを進めることや、個々の大学教員の取り組みを認めながらも学習制御・往還型授業への転換が求められていると強調されました。また、学部や学科の縦割り構造を超えた教員間の連携強化の重要性についても触れ、大学教育が新たな段階を迎えていることを示されました 。

会場との対話
講演後は、大学教育センター副センター長・今井航教授の司会のもと、会場の教員との質疑応答が行われました。
まず、大学教育センターの今井教授からは、講演で紹介された「日本的特質」に関するスライドについて、「戦前はドイツ、戦後はアメリカの影響を強く受けてきた日本の高等教育の特徴がよくわかり、非常に考えさせられる内容だった」との感想が寄せられました。また、授業の準備や復習にどの程度の時間を想定しているかを問う調査で、約3割の教員が「想定していない」と回答していることに触れ、授業外での学びも含めた設計の必要性を述べられました。

続いて、メディア映像学科の中嶋教授からは、ドイツ・ハノーバーを訪問した際に学んだマイスター制度に関する質問がありました。ドイツでは、プロフェッサーの地位が高く、多くの講義は講師が担当し、学生はインターンシップを経て就職する仕組みになっていることを紹介。その上で「こうした制度をどのように評価されるか」と問いかけました。これに対し金子先生は、ドイツのデュアルシステムについて言及し、「中等教育段階から職業教育とアカデミック教育の二本立てになっており、かつては優れた制度とされてきたが、近年は職業の多様化や流動化により、従来のように職業カテゴリーを設けることが難しくなってきている」と解説されました。

さらに、国際経済学科の鈴木講師からは、グローバル化が進む中での人材育成について、「企業と大学がどのように対話を進めるべきか」という質問がありました。これに対し金子先生は、「企業との対話は非常に重要だが、日本企業の多くは“一括採用”を前提としているため、企業側が求める人材像を明確にできていない場合も多い」と指摘。その上で「だからこそ大学が目標を掲げ、多様で流動的な人材を育てることが大切だ」と強調されました。

最後に、経済学科の中村准教授からは「金子先生がお考えになる“教育”とは何か」という、かなり大きな問いが投げかけられました。金子先生は平然たる口調で「大学教育の目標は、そう簡単な言葉では表せない。考える力や葛藤する力など、一見抽象的に思える能力を育むことこそが教育であり、そのきっかけや場をつくることが重要である」と述べられ、会場は注意深く耳を傾けている様子が見られました。
閉会の挨拶
質疑応答の最後に、今井教授が「この先10年、20年後に向けて、私たちはどう行動すべきかという大きなヒントをいただけました。」と述べ、講演を締めくくりました。その後、大学教育センター長・鶴田副学長より、金子先生への謝辞と聴講者へもお礼の言葉があり、盛会のうちにシンポジウムは閉会となりました。

今回のシンポジウムは、大学教育の現状を再確認するとともに、これからの高等教育の方向性を考える貴重な機会となりました。金子先生の講演において触れられた「その教員間の連携強化の重要性」で言えば、先生の著書である『大学の教育力―何を教え、学ぶか』(筑摩書房、2007年)の185~186頁に、アメリカにおいて推進されている「スカラシップ・オブ・ティーチング・アンド・ラーニング」の運動が紹介されており、次のように述べられています。「ここでいう「スカラシップ」には大学人の共同体といった意味がこめられている。研究面において大学人が自分の業績を発表することによって評価され、さらにそれを互いに交流することによって自分の研究を進めるように、教育面においても自分の実践を人にしめし、それを交流することによって、教育の力を高める。こうした過程をつくることによって、教員のいわば教育力を高めることが意図されている」。今回のシンポジウムで問われた「大学淘汰の時代をどう生き抜くか?」への答えの一つが、ここにあるように思いました。
福山大学大学教育センターでは今後も教育改革に向けた取り組みを継続し、「教員間の連携強化」を図りながら、学生一人ひとりの学びをより充実させるための実践を進めてまいります。
学長から一言:開学50周年という節目の年に開催した恒例の教育改革シンポジウムは数えて12回目。この催しの立ち上げに赴任早々に関わった者として、かつて同じ職場で働いた金子元久教授を基調講演者にお招きできたのは感慨無量。独米日の高等教育の有り様に通暁した講演者による、広い視野からの、そして眼前の日本の深刻な問題に注意を払ったお話は圧巻でした。つまるところ個々の教員の力量を上げることの重要性への言及は、まさに我が意を得たりの感がありました。




