【海洋生物科学科】世界初!フクロクジュクラゲの繁殖個体 マリンバイオセンター水族館ほか、4館同時展示に挑戦!

福山大学マリンバイオセンター水族館では、このたび、鶴岡市立加茂水族館新江ノ島水族館九十九島水族館海きららの3館とともに、フクロクジュクラゲの繁殖個体を展示することに成功しました。このクラゲは、福山大学内海生物資源研究所の飼育水槽に発生した謎の稚クラゲを、水上雅晴講師および佛円あや助手が上記の3館とともに共同で繁殖育成し、福山大学マリンバイオセンター水族館で展示したものです。
フクロクジュクラゲの繁殖個体の展示、そしてポリプ(※)の水槽内からの発見は、世界初の出来事!この研究をリードしている海洋生物科学科の“水族館生物学者”泉貴人講師がリポートします。(投稿は海洋生物科学科の山岸)

 

 


福山大学内海生物資源研究所の飼育水槽に、1ミリもない謎の小さなクラゲが発生したのは今年3月のこと。それを管轄する水上講師からの依頼を受けて、その水槽の濾材(水を濾過するためのリング状の物体)からクラゲの“発生元”であるポリプ(※)を特定しました。

1ミリもないちびっ子クラゲ。これが全ての始まりだった。

この写真を、黒潮生物研究所の戸篠祥主任研究員(立方クラゲの第一人者で、泉の“クラゲの兄貴分”です)に送り、DNAの詳細な分析を依頼したところ、非常に珍しいフクロクジュクラゲAltina alataだと判明しました。

ポリプのついた濾材。中央にある、オレンジ色の粒がポリプ

※ポリプ:クラゲは一生の間に、海底に固着して生息する「ポリプ」という状態を経る。ポリプからは定期的にクラゲが発生し、それが切り離されて海中を浮遊することで一般によく見る「クラゲ」という形となる

フクロクジュクラゲは、箱虫綱アンドンクラゲ目の一種。その傘部分が縦長の直方体に近い形をしており、長頭の七福神である「福禄寿」に似ていることが名前の由来です。最大で傘の長さが10cm以上まで成長する、大きなクラゲです。

南方系の種であるこのクラゲ、海外ではハワイやオーストラリア、カリブ海に分布し、刺傷被害をもたらすことで問題視されています。国内では沖縄諸島や先島諸島、相模湾で成体の採集記録があり、稚クラゲも高知県で記録はされていますが、今回、初めてポリプとして発見されました。日本では、そして世界でも水槽内からはポリプが一切見つかっていなかった、非常にレアな種であったと言えます。

フクロクジュクラゲの成体(神奈川県;新江ノ島水族館山本岳氏提供)

この超貴重なポリプ、うちだけで管理しておくのは勿体ない!(のと、全滅のリスクを回避したい…。)そこで、共同研究先の水族館である鶴岡市立加茂水族館(山形県)、新江ノ島水族館(神奈川県)、および九十九島水族館海きらら(長崎県)にポリプの一部を送りました。この水族館は、日本の誇る“クラゲの水族館”たち!ライバルともいうべき3巨頭水族館が、競い合うように育成をしてくれました。さらに本学でも、佛円あや助手が発生したクラゲを鋭意繁殖育成!最終的に、6、7ミリの大きさまで育てることができました。

今回は、佛円助手により育成された稚クラゲを、水上講師および泉講師監修の下、福山大学マリンバイオセンター水族館で展示したものです。

今回展示した個体。6,7ミリメートルまで育つのに、3か月を要した。

今回は、大学附属の水族館に関連する水槽で偶然出現したクラゲを育成して調べることで、珍しいフクロクジュクラゲの発見に至ることができました。これは大学に水族館があるという、全国でも非常に珍しい環境に由来する成果であるとともに、「研究機関である大学と飼育に精通した全国の水族館との連携」がもたらした功績でもあります。今後もこれらの連携体制は、研究や展示において非常に有効となります。

フクロクジュクラゲのポリプや稚クラゲは、古い文献に断片的な形態の記述があるのみで、その生態や成長の記録は記されていません。今後は本種のポリプやクラゲを育てるとともにそれを分析することで、水族館と大学が互いの“強み”を生かしつつ世界初の生態を解き明かしていく予定です。

何より、クラゲの3巨頭ともいうべき水族館、日本のエースのクラゲ学者(戸篠さん)とその見習い(泉)、そして弊学の飼育のプロ、水上講師と佛円助手。我ながら、えげつない連合です。現在の日本で、これを超えるメンバーのクラゲ研究はありません!

フクロクジュクラゲは大水槽の向かい、水族館の奥の方に展示されています!

興味深い本研究について、泉講師がYouTubeチャンネルで自ら解説しています!このリンクから動画もご覧いただけます。

泉講師は「水族館と大学が手を組んだことにより、また一つ金字塔を打ち立てました。水族館を持つ福山大学の立地を活かしたのも、水族館生物学の大きな成果。フクロクジュクラゲはまだ生態がよく分かっていない都合、短期の展示になる可能性もありますので、クラゲ好きの方々はこの4館のどこかに是非見に来てください。」とPRしていました。

 

学長から一言:海洋生物科学科と因島キャンパスの内海生物資源研究所がまた「どえらい」ことをやりました。国内大学では設置されていること自体が極めて稀な附属水族館の水槽からクラゲの“発生元”であるポリプを見つけ出し、それを大切に、大切に育てるとともに、クラゲに関しては名だたる国内の水族館3館とも連携して、フクロクジュクラゲというその珍しいクラゲの展示を行い、生態解明に迫っています。この地味に見えても世界初という偉大な仕事に携わる本学関係者に最大級の敬意を払います。