【生物科学科】著書出版:小さなパンダ~レッサーパンダの謎~

新しく「小さなパンダ~レッサーパンダの謎~」という本を出版しました(2025年12月24日)。著者である佐藤生物科学科)が簡単に内容を紹介します。動物園では大変な人気者であり、絶滅危惧種であるがゆえに世界中から注目を浴びるレッサーパンダですが、ネパール、インド、ブータン、中国、ミャンマーの高山帯という日本からはるか遠く離れた場所に生息していることもあり、わたしたち日本に住む人の本種に対する理解は表面的なものである場合がほとんどです。本書は海外と日本のそうした知識のギャップを埋めると共に、本種の魅力を存分に説明しようと試みた本です。学部の学生、高校生の皆さんを中心に、一般の皆さんを対象にしております。ぜひ多くの方に読んでいただき、この愛すべき哺乳類の現状と、由来、形、生態の不思議についての解説を楽しんでほしいです。以下で、少しだけ各章を紹介します。

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カバーの絵は、前著「進化生物学」のカバーで素晴らしい絵を描いていただいた柏木牧子さんに再度お願いしました。大変かわいらしく、目を惹くイラストですね。

本の中の写真とこのブログの写真は全て広島市安佐動物公園でスタッフの皆さんにご協力いただき撮影したものです。本書の魅力を高めていただきました。スタッフの皆さんに感謝申し上げます。皆さん、安佐動物公園のレッサーパンダに会いに行こう。

かわいいから入るわたしたち

第1章ではレッサーパンダと私たち社会との関わりの観点から本種をまとめました。レッサーパンダが立ったことが大ブームとなったのは20年前のことです。かわいい立ち姿に日本中が魅了されました。レッサーパンダはどうして立つことが出来るのでしょうか?なぜ、私たちはパンダをかわいいと思うのでしょうか?レッサーパンダの真実と表面だけをとらえがちな傾向にある私たちの間の関係を探ってみました。

第1章 レッサーパンダの人気
1 食肉目草食系/2 かわいい/3 立った/4 パンダと日本/5 人間社会との関わり

広島市安佐動物公園協力、筆者撮影

レッサーパンダは何の仲間?

第2章ではレッサーパンダの由来について書きました。実はDNAの分析を通して、レッサーパンダの系統学的な位置づけを決定したのは私たちです。約180年の謎を解き明かすまでの歴史を振り返りました。本学の学生がこの課題の解決に大変頑張ったことを10年以上前の本学学長室ブログに書きましたので、そちらもリンクを貼っておきます。この成果は日本哺乳類学会賞の受賞にもつながりました。でっかいパンダとは異なる小さなパンダの由来がどのように解明されてきたのかを知っていただきたいです。

第2章 レッサーパンダの由来
1 でっかいパンダのせい/2 一八〇年の謎/3 進化を探るDNA/4 残された唯一の系統/5 消えてしまった仲間たち

広島市安佐動物公園協力、筆者撮影

不思議な食肉類

第3章では形に注目しました。レッサーパンダはイヌやネコと同じ食肉目というグループに属しています。このグループは基本的に肉を食べる動物が多く、獲物を狩るための四肢を持っているので、モノをつかむための四肢にはなっていません。しかし、レッサーパンダは手で竹の枝をつかむことが出来るのです。そして、他の食肉類と同じように短い腸で、分解の難しい植物を食べているのです。そして腹黒い。。。そんな形の不思議とその意味を理解しようと努めたのが本章です。

第3章 レッサーパンダのかたち
1 紛らわしいかたち/2 一種か二種か?/3 肉を食べる身体/4 パンダの親指/ 5 腹黒い

広島市安佐動物公園協力、筆者撮影

山奥での暮らし

第4章では生態についてまとめました。残念なことに、わたしは野生のレッサーパンダを見たことがありません。本種は、ネパール、インド、ブータン、中国、ミャンマーの高山帯に生息する、なかなかお目にかかるのが難しい種です。文献を漁りに漁り、現在分かっている本種の生態について紹介しようと努めました。さらに近年、ゲノムの分析が盛んであり、本種の生きざまがゲノムの視点でも解き明かされようとしています。その研究の最前線も紹介しています。

第4章 レッサーパンダの生きざま
1 野生の動物/2 食う食われる/3 パンダとパンダは共存する/4 繁殖戦略/5 ゲノムと生きざま

広島市安佐動物公園協力、筆者撮影

保全の課題

最終章の第5章では保全に着目しました。一般的には保全は「活動そのもの」をイメージしやすいですが、何を対象に保全をしたら良いのか?何を指標に保全をしたら良いのか?など学問の上で解決しなければならない課題が残されています。本章では、レッサーパンダの保全において現在の課題を共有し、未来の在り方を議論しています。

第5章 レッサーパンダの保全
1 絶滅危惧種/2 分類と保全/3 保全の旗印/4 保全ゲノミクス/5 レッサーパンダと考える地球の未来

広島市安佐動物公園協力、筆者撮影

なぜレッサーパンダを学ぶのか?

実はこれまでレッサーパンダの保全に関わってきたのはレッサーパンダの生息地以外の研究者が多いことが知られています。本州の3分の2の面積に相当する生息域にしか存在しない生物がこれほど世界中の注目を集めるのは驚異的に思います。本書で解説した保全状況に加えて、かわいさと生物学的な面白さがこれを後押ししているのだと思います。その結果、レッサーパンダは世界でも類を見ないほど保全に関する研究が行われています。そのため、保全生物学の最前線で何が起きているのかを理解するのに大変重要な動物と言えます。本種に投じられた保全に関する研究や活動は、日本に住む私たちの身近に住む生物たちの保全にも有益な情報になることは間違いありません。生物多様性保全の理解のためには、たとえ一種だけであっても詳細に理解するということが大変重要なことなのです。皆さんにとって楽しいと思える一冊になっていれば幸いです。

 

学長から一言:生物科学科の佐藤淳教授の新しい作品『小さなパンダ ~レッサーパンダの謎~』の出版、おめでとうございます。しかも、本日クリスマスイブに刊行というタイミングです。10年以上もの長きにわたり取り組んできた研究が、1冊の本として日の目を見ることになった喜びはどれほどかと想像しています。国内のジャイアントパンダが全て中国に返還されても大丈夫。愛くるしいレッサーパンダがカバーしてくれます。この小さな動物について楽しむには、まず本書を読んで、しっかり学びたいものです。