【機械システム工学科】新任教員の紹介 ―西尾教授-

2025年度、機械システム工学科では2人の新たな教員を迎えました。前回の田中教授に続き、今回は、機械システム工学科に新しく着任の西尾教授の自己紹介を学科のFUKUDAI Mag担当メンバーの小林がお届けします。
We choose to go to the Moon.
1970年に大阪で1回目の万博が開催された時、私は小学校5年生でした。アメリカ館で月の石が誇らしげに飾ってあったことを覚えています。当時、賛否のあったアポロ計画に対して、JFK;ケネディ大統領が1970年までに月に人を送り込む;We choose to go to the Moonと宣言し、1969年7月に実現されました。同じ頃、「1970年までに」と宣言し、実現したプロジェクトがあります。20世紀最高のデザインとも賞賛される[11] ボーイング747の開発です。派生型のB747-SPは航続距離が12,000 kmを超え、パンナムがニューヨーク/東京間の定期便を就航させて、世界を驚かせました。教育熱心な私の母親が与えてくれた子供向けの科学雑誌には、航空機の翼断面と流れの様子が掲載されており、それを見た少年は「流体力学」に憧れを持つようになりました。

Fig.1 羽田空港で撮影された B747-SP(1978 年);当時の技術でニューヨークから東京まで無着陸で
飛行できる航空機は、B747 以前は特殊なものを除いて存在せず、定期便として実現したことは驚愕
の出来事でした[12]。
[11] ジャンボに込められた美意識,山中俊治の「デザインの骨格」,2010.
https://lleedd.com/blog/2010/05/05/boeing_747/
[12] パンアメリカン航空 Boeing 747SP (N533PA) 航空フォト,FlyTeam.
https://flyteam.jp/photo/3868748
図 学
大学では工学部を選び、流体力学を学ぶことができる学科に入学を果たしました。本格的な専門科目は2回生になるまで履修できませんでしたが、教養課程で学んだ「図学」に興味を惹かれました。Fig.2は、簡単な図学の演習問題です。正方形を一点鎖線で示される軸のまわりに回転させた時の正面図の作図です。「対象物の見え方」を理解し、実感できる良い機会でした。後に、研究テーマとして「画像計測」を行うことになろうとは、この頃は想像もしていませんでしたが、画像のひずみや変形を考える上で、図学での経験は大変役に立ちました。学んでいる時には、「役に立つことを学んだ」というより「面白いことを見つけた」という印象が強かったように思います。

Fig.2 図形の回転;黒い正方形を回転させると、軸に垂直な面では単純な回転になりますが、正面から見ると赤い矩形に変形します。今では、PC 上で簡単に図形を 3 次元回転させることができますが、「原理」の理解には作図がとても役に立ちます。
流れ場の研究に没頭する
大学では学部卒業後に大学院に進学し、博士後期課程にも進みました。憧れた「流体力学」を専門とする研究室への配属も果たし、「3次元剥離流場の解析」というテーマに取り組むこととなりました。研究室には大型回流水槽があったほか、工学部には完成したばかりの風洞実験設備がありました。研究室には、私と同じように「流れ」に興味を持った学生が集まっていましたので、ドクターコースの学生としてグループをまとめ、大型実験設備を使った研究に没頭しました。「造船学科」の所属でしたので、船体に作用する流体力の発生メカニズム解明が主目的でしたが、表面圧力や速度場の計測で得られる流れ場に魅了され、その先にある流体現象の特性解明にチャレンジしていました。


Fig.3 風洞で行った速度場計測;風洞では「二重模型」を使って水面の影響を考慮した流場を作ります。計測例は、斜航角 10°の横断面内速度分布です。[21]
[21] 斜航船体まわりの剥離流場に関する研究,関西造船協会誌,1988
運命の出会い;画像計測
関西には、船を研究対象とする大学/学科が3つ(大阪大、大阪府立大;現大阪公立大、神戸商船大;現神戸大/海洋政策科学部)あります。私は、大阪府立大学で最初の職を得ましたが、そこでライフワークとなる「画像計測」と出会いました。流れの可視化画像を使った計測技術の開発です。
大阪府立大学船舶工学科には、奥野武俊教授(後に学長)が在職されていました。流れの可視化と画像計測の分野では広く知られた研究者でした。私は赴任後4年目くらいから、彼のパートナーとして活動するチャンスを得ました。時代は1990年代に入るところでしたが、デジタルの画像関連機器が一般に普及する直前の時期であり、これを使った先進的な研究が黎明期から発展期に差し掛かる時代でした。私は、奥野教授と共に画像を使った速度場計測技術、PIV; Particle Image Velocimetryの原理開発に従事することとなり、仲間にも恵まれて研究と計測技術普及の活動に取り組むことができました。

Fig.4 開発した高精度/高解像度アルゴリズムを使った計測例。多関節翼まわりの流れ場で魚類型推進の研究に応用した例です。[31] この計測結果はPIV ハンドブック[32] にも掲載されています。
[31] 多関節翼を用いた魚類型推進に関する研究,日本造船学会論文集,第 191 号,2002.
[32] 可視化情報学会編,PIV ハンドブック第 2 版,森北出版,2018
船舶工学
大阪府立大学での勤務が10年を超えた時、転機が訪れました。神戸商船大学に来ないかという誘いでした。画像を使った研究で成果が順調に得られるようになり、船舶関連分野から飛び出すことも視野に入れていた時期でした。異動の誘いは船舶工学が仕事の主体になることを示唆していましたが、事情を伺った結果、腹をくくって挑戦することにしました。
しかし、設備も学生の資質/気質が異なる環境での研究活動の継続は簡単ではなく、実質的にはゼロからの研究環境の再構築を行うことになりました。幸いにも、浅い水深での実験が可能な水槽があり、これを利用した研究テーマのオファーが企業からあったことや、流体解析技術/CFD;Computational Fluid Dynamicsが大型汎用計算機に頼らないでも実用的な計算が可能な水準に近づいた時期とも重なり、新たな研究展開の端緒を掴むことができました。この研究分野の転換は、多くの方々の協力を受けて成立したものでした。特に、年齢を重ねて学内の管理業務なども増えていた中で、研究室所属の学生の皆さんの協力になしには、このユニークな成果を開花させることは不可能でした。定年を迎える時期になっても、自らの研究活動を維持できたのは、これらの協力者のお蔭でした。

Fig.5 極浅水域で横移動する船舶まわりの流場の計算結果の例。大きな剥離領域が現れ、流体力の大幅な増加が発生することが示唆されている[41]。
[41] 極浅水域における横移動船舶に作用する流体力の特性変化に関する研究,日本船舶海洋工学会論文集,2015.
海洋機械コース
2025年4月に、本学に赴任しました。与えられたミッションは、工学部機械システム工学科に設置された「海洋機械コース」の完成と充実です。「海に囲まれた日本では、船舶は欠かせない」とは、よく使われる例えですが、それ以上に「船舶でないと運べないものが有る」という事実を理解いただきたいと思います。更に、福山/尾道地域には、数多くの造船所がひしめき、それを支える産業が集まっています。このような場所に「船舶工学を学べる学科」が存在することは、重要な「意味」があります。これを多くの方々に共有いただき、是非、一緒に活動に取り組んでいただきたいと考えています。
若い世代の理系離れの傾向が指摘されて久しいですが、工学部では「モノづくり」への関心が薄れ、情報端末に表示されるバーチャル空間に籠る傾向が強くなっていることは、もっと憂慮すべきことと考えております。鉄道ファンや飛行機オタクの例を出さなくても、物を運ぶ機械の魅力は多くの方にご理解いただけることと思います。与えられたミッションの貫徹を目指して精進を重ねます。よろしくご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
学長から一言:西尾茂教授、福山大学へようこそ! この4月に新たに開設された機械システム工学科の海洋機械コースを支える大黒柱です。前回紹介の田中教授とともに新コースの大発展を私たちに見せてください。大いに期待しています。幼少期からの学習・研究の遍歴が記された自己紹介文にも、きちんと出典の注記が付されているのを見て、学者の面目躍如たる姿を感じました。






