【人間文化学科】特別研究員クリスティーナ・イヴァノヴァさんが岩手大学主催の学会で講演を行いました。

5月30日に、福山大学特別研究員クリスティーナ・イヴァノヴァさんが岩手大学主催のオンライン学会で講演を行いました。今回はその様子と研究の内容をクリスティーナさんに紹介してもらいます。(編集はFUKUDAImagメンバーの古内)
みなさん、こんにちは!私は、ブルガリアのソフィア大学から参りましたイヴァノヴァ(苗字)・クリスティーナと申します。ソフィア大学日本学科の大学院博士課程後期に在籍する学生で、博士論文で、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を対象として、その文体の言語学的研究に取り組んでいます。2024年9月から福山大学に特別研究員として在籍し、2025年9月まで人間文化学科青木美保教授(現在名誉教授)の指導を受けています
青木先生とクリスティーナさん(広島県立図書館にて)
今年2025年5月30日に、私は、岩手大学宮沢賢治いわて学センターのオンライン講演会の講師に招かれて、博士論文の一部を発表し、他の研究者と意見交換しました。テーマは「ブルガリアにおける宮沢賢治の受容」で、初めに日本におけるブルガリアのイメージとブルガリアにおける日本のイメージを比較し、以下のようにブルガリアの日本文学翻訳の背景についても紹介させていただきました。

ブルガリアでは、日本文化に対する関心が高まっています。子供たちはアニメ・ポップカルチャーに惹かれていますが、最近は日本の伝統文化も非常にブームになっています。もちろん、日本語教室も大人気です。私も大学卒業後、そのような日本語教室に務めておりました。生徒が小・中学生グループ、高校生グループと大人グループに分けられ、日本語と日本文化を一緒に学んでいました。「あ・い・う・え・お」から始めて、文章を組み立てられるようになったみんなはいつか漫画を自由に読めるようになりたいとか、いつか自分の能力を実際に試してみたいとか、よく言っていました。その生徒さんたちが今年の秋に初めて日本へ修学旅行に来ることになります。言語を学ぶのは世界へのドアを開くことですね。そのブームは、日本文学のブルガリア語への翻訳の動きにつながっていくと思われます。
日本文学の翻訳は1920年代から始まりましたが、日本語の専門家がいなかったため、70年代までは他の言語に訳されたものからの重訳が普通でした。1959年に外交関係が開始されてからは日本語に触れる機会が増え、1973年にソフィア大学で初めての日本語夜間講座が開かれました。続いて77年に川端康成の『雪国』の翻訳が出て、芥川龍之介、三島由紀夫、井伏鱒二、星新一などの翻訳が続き、1981年に宮沢賢治の『よだかの星」の翻訳が出ました。岩手大学での講演のために、その翻訳者と連絡を取り、インタビューを行いました。現代では、村田紗耶香『コンビニ人間』や川口俊和『コーヒーが冷めないうちに』等が人気です。最近、漫画のブルガリア語翻訳も出版されました。例えば、今年は『進撃の巨人』も刊行されました。
続いて1990年に、ソフィア大学の日本語夜間講座が日本語学科に昇格しました。私は2018年にちょうど最初の日本留学の直前に、そのクラスを受けていました。そこで初めて東北で長い期間留学したことのある言語学の先生(アントン・アンドレーフ准教授、東北大学1998~2004年)が宮沢賢治の詩を紹介してくださり、『春と修羅』の序文が課題になっていました。
更に、宮沢賢治の受容を考えるとき、2019年11月にブルガリアの第30回日本文化月間のために島根県のあしぶえ劇団が、ソフィアと港町ブルガスで公演した『セロ弾きのゴーシュ』は画期的でした。二つの公演はいずれも満席で、メディア掲載されて反響は好調でした。一部のセリフをブルガリア語で発話したかった俳優たちのために、字幕の翻訳者が求められていました。講演の数カ月前に、私は3日間島根県で、劇団と一緒に彼らのブルガリア語の指導をさせていただきました。『セロ弾きのゴーシュ』のブルガリア公演の後にも、自分の中には、宮沢賢治の関係で何かをもっと貢献してみたい気持ちが燃え続けていました。ですので、その時担当していたクラスで生徒さんに賢治を少し紹介し、2023年2月に賢治のテーマを研究計画として示して、ソフィア大学博士課程に入学しました。
さて、このたび岩手大学での講演のために、ブルガリアにおける宮沢賢治の受容を幅広く把握できるように、宮沢賢治を読んだことのある24人のブルガリア人にアンケート調査を行いました。宮沢賢治の作品をどうやって知ったか、何語で読んだか、どんな印象だったか、を尋ねて結果をグラフでまとめました。講演の最後には、今までの自分の研究結果と仮説を短く紹介でき、たくさんの質問と意見をいただいて、嬉しく思いました。
とにかく、研究や言語の学びにとって留学は貴重な時間です。実は、2014年に日本語を学び始めた時は、研究者になるとは思っていませんでした。そのときは、日本語を話すのは恥ずかしいとか、話してみても絶対失敗してしまうとか、そういうことばかりを考えていました。ですが、「千里の道も一歩より」ということわざを念頭に置きながら、努力を意識的に重ねてここまで来ることができました。きっとその前向きな生き方が、これからも私を素晴らしいところに導いてくれるでしょう。
学長から一言:本学の交流協定校であるブルガリアのソフィア大学から来日し、本学の特別研究員として宮沢賢治研究に日々打ち込んでいるクリスティーナ・イヴァノヴァさんが、いつまでも思い出に残る滞日研究生活の大成果をあげました。岩手大学人間社会学部の宮沢賢治いわて学センター主催の研究会での講演です。長年にわたって研鑽を積んできた日本語を駆使して、きっと聴く人を虜にする発表だったことでしょう。残された滞在期間中に、青木美保名誉教授の指導の下、素晴らしい博士論文を仕上げてください。






