【建築学科】音環境の専門家による特別講義を実施しました

建築学科2年次生科目の「建築環境工学Ⅱ」において,学生の専門的知識と実務理解を深めることを目的に,音環境の研究開発において経験豊富な石塚崇さんに特別講義をお願いしました。
石塚さんは,ゼネコンの技術研究所に研究員として勤務しています。「研究者」なのか「技術者」なのかと悩み続けた結果,民間企業の研究員は「イノベーター」を目指すべきだと気づいたそうです。
特別講義では,イノベーションに関する考察や最近の技術開発モデルのお話の後,講師自身が関わった開発実例によって,具体的なイノベーション実例を紹介してくださいました。

<イノベーションとは?>
イノベーション(Innovation)とは新価値創造であり,「イノベーション」=「発明」×「洞察」で構成される。新しい組み合わせによって生み出される「発明(Invention)」だけでは不十分で,それに加えて,未知の課題を発見する「洞察(Insight)」が必要不可欠。ニーズや新市場を見つける力といった洞察力が重要になってくる。

<技術開発モデルの新潮流>
これまでは,[アイディア]→[研究]→[開発]→[製品化]→[市場]の流れであったが,打率が低い。最近では,[研究]と[開発]の間に【プロトタイプ】を入れて,[アイディア]→[研究]→【プロトタイプ】→[開発]→[製品化]→[市場]の流れになってきている。プロタイプをつくって顧客や社外関係にフィードバックし評価してもらうことで,ニーズの掘り起こしを行なっている。
<挑戦1:遮音バルコニー(失敗例)>
集合住宅のバルコニー越しに入ってくる交通騒音のエネルギーを最大70%,騒音レベルを5dB低減できる技術。新聞発表したが,事業化に至らず。それはなぜか?社会ニーズには合致しているが,社内ニーズや時代背景とミスマッチであったことに気づく。技術シーズ主導になっていた。講師によると,洞察力が不足していた失敗例とのことだが,最近はコンピュテーショナルデザインの進展によって同技術が盛り返している。
遮音バルコニー
(引用:https://www.shimz.co.jp/solution/tech061/)
<挑戦2:“音と通さない隙間”による通気性能と遮音性能の両立>
「しずかルーバー」は,屋外に設置された設備機器や屋上イベント等に起因する騒音問題の解決を目的に、高い遮音性と通気性を兼ね備えたアルミ製ルーバー。「遊園地や公園にパラボラ構造を利用した,遠隔通話が楽しめる遊具がありますよね。あれを見て,なにかに応用できないものかとずっと考えていたのです」(石塚氏)。放物線と円弧の焦点(中心)が一致するようにしたことがポイント。


しずかルーバー
(引用:https://www.shimz.co.jp/solution/tech365/)
「しずかスリット」は,建物の感染症対策や省エネに有効な自然換気用の外気吸い込み口として,室内に外気を取り入れても騒音は入ってこない新たな給気スリット。“外気を入れても騒音入らず”は,建築環境分野の常識を覆す発想。

しずかスリット
(引用:https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2021/2020054.html)
<挑戦3:音環境デザインツール>
設計初期段階での3次元CADデータから建物の音響性能をリアルタイムに予測・評価できる音響シミュレーションツール。ツール上で床や壁の素材を選択するだけで音響シミュレーションを行うことができ,音響の知識がなくとも一目で音響性能の良否がわかる。今まで設計後期に行われることが多かった音環境の検討をプロジェクトの初期段階から行うことができるため,音響性能を確保するための設計の手戻りが少なく,全体的な工期の短縮,コストの削減に繋がる。本ツールによって音環境に対する理解が深まることから,意匠設計者の学習効果も期待できる。
建物の音響性能をリアルタイムに予測・評価するシミュレーションツール
(引用:https://www.shimz.co.jp/solution/tech375/)
閃きによるアイディアを,得意のシミュレーションによって検討し,プロタイプをつくってニーズの掘り起こしを行ない,実用化へと進めていく開発スタイルが印象的でした。
アイディアをかたちにして世の中をかえた実践例は,学生にとってたいへん刺激的であったのではなないかと思います。
イノベーションのお話は,エンジニアリング系の「卒業研究」だけでなく,デザイン系の「卒業設計」や日々の設計課題のテーマ設定やコンセプト構築も活かせるのではないかと思います。
石塚さん,貴重なご講演,ありがとうございました。






