海洋植物科学研究室では海の植物である
海藻の多様性、生態や環境適応のしくみなどを探る研究を進めています。ここでは、大学院研究や卒業研究の主な内容について紹介します。
1. 環境への適応のしくみ
地球上の熱帯から極地まで、高山から深海底まで、砂漠から森林までのあらゆる場所には生物がすんでおり、それぞれの環境に見事に適応して生きています。
海藻がすんでいる海の環境もじつにさまざまです。水温0℃以下になる極地の海からぬるま湯のような温かい珊瑚礁の海(
温度環境)、塩分の濃い海水の海岸からほとんど淡水になる川岸(
水環境)、水深50メートル以上の暗い海底から明るい潮間帯(
光環境)、生活排水が流れ込む栄養過剰な海から栄養分の少ない外海(
栄養環境)など、さまざまな環境の中で海藻は巧みに生きています。
私たちの研究テーマのひとつが
「海藻はどのようなしくみで海の環境変化に適応して生きているのか」です。
研究テーマ「海藻の栄養環境に対する適応のしくみ」
野菜や花をうまく育てるためには、水だけではなく肥料をあげる必要があります。肥料には植物の生育のために必要な栄養素が含まれているのです。その中でも植物が最も多量に必要とするものが「
チッソ(窒素)」「
リン」であり、カリウムとともに「植物の3大要素」と呼ばれています。
窒素は核酸やタンパク質の構成成分であり、一方
リンは細胞膜や核酸、エネルギー代謝物質の構成成分で、細胞内の化学反応にも使われており、いずれも植物体の成長や生命活動のために常にたくさん必要とされる物質なのです。それらは水の中の藻類にとっても同じように重要です。
しかし、海水中には窒素やリンは海藻が必要とするよりずっと少ない量しか存在していません。こうした栄養環境の中で海藻が生きていくためには、窒素やリンを効率よく体内に取り込んで利用するような何らかのしくみがあるはずですが、そのしくみはまだよくわかっていません。
私たちの研究室では、卒業研究および大学院研究において海藻が窒素やリンをどのように利用しているかを研究テーマとし、
紅藻スサビノリを研究材料に用いて遺伝子工学の技術を利用して調べています。
※
過去の大学院・卒業研究テーマはこのページの一番下にあります。
2. 瀬戸内海の海藻相調査
ある地域に生育する生物の全種類のことを
生物相といい、海藻の場合は
海藻相(かいそうそう)といいます。海藻相は地域によって異なり、大まかに気候の違いでみると、水温の低い北海道の海には大きなコンブ類が十種以上生育していますが、沖縄にはコンブはみられず逆に北海道にはない熱帯性の海藻がたくさんみられます。また、ごく近い地域の中でも、場所ごとに海藻種や種数は少しずつ違っていることが多く、海藻相には水温や水質などの環境や海岸の地形など
その場所をとりまくさまざまな要因が反映されていると考えられます。ある場所にどんな種類の海藻がどのように生育しているかを調べることは、その場所の環境や生態系の特徴を知る手がかりとなると考えられます。
北海道のコンブ群落(釧路)
福山大学の地元である福山市周辺の海では、これまで海藻調査はほとんど行われておらず、海藻の生育状況はわかっていませんでした。私たちの研究室では、福山や因島などの各地で毎月海藻の採集調査を行い、生育する種やその出現時期を調べ、海藻相を明らかにする研究を行っています。名前のわからない海藻については、形態観察や分子系統解析などの手法を用いて詳しく調べて名前を明らかにします。
これまでの主な調査地:
平成17年度:因島八重子島周辺
平成18年度:福山市鞆町玉津島
平成19年度:因島八重子島周辺(継続調査)、福山市竹ヶ端(たけがはな、芦田川河口域)
平成20年度:因島八重子島周辺(継続調査)、福山市竹ヶ端(継続調査)
研究の成果:
これまでの調査の結果、因島・福山各地から合計
約200種の海藻がリストアップされました。因島八重子島周辺からは最も多い190種以上、鞆町からは約120種、竹ヶ端からは48種が採集されました。種子島付近からしか報告のなかった紅藻シンカイユナを因島で発見したほか、新種の可能性のある海藻の存在などの新知見がみつかっています。
★平成20年度の主な卒業研究
・因島八重子島周辺の海藻相調査
・因島小浜海岸の浮遊アオサの種組成および季節的消長
★平成19年度の主な卒業研究
・因島八重子島周辺の海藻相調査
・紅藻ダジア属の系統分類学的研究
・芦田川河口付近(福山市竹ヶ端)の海藻調査
海藻採集風景(因島)
因島八重子島の海藻
海藻は「海の植物」であり、海藻が生い茂る場所(
藻場)にはいろいろな海の動物が暮らし、エサ場や産卵場として利用しているほか、海藻は海水中の過剰な栄養を吸収して水質を浄化するなど、多様な生物を育み、豊かな海の環境を保つ大切なはたらきをしていると考えられます。しかし、瀬戸内海では水質の悪化による透明度の低下や埋め立てによる自然海岸の減少などの影響で、海藻の生育できる場所が少なくなったり、海藻の種類が減っていることが指摘されています。
近年地球的課題として注目が高まっている環境保全や生物多様性保全の観点からも、海洋生態系における海藻の役割を解明することや、各地の海藻相の現状を把握して藻場の回復の方法を探ることが重要です。
私たちの研究が、こうした課題の解決に貢献することを期待しています。
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