1.糖タンパク質糖鎖の分離、構造解析法の開発
1.糖タンパク質糖鎖の分離、構造解析法の開発
ペプチド鎖とヌクレオチド鎖にくらべて糖鎖には構成単位のつながり方に著しい特徴があります。例えば、アラニンというアミノ酸が2つつながったペプチド鎖は1種類しかなく、アデニル酸というヌクレオチドが2つつながったヌクレオチド鎖も1種類しかありませんが、グルコースという単糖が2つつながった糖鎖はグルコースの取りうる構造(フラノース型かピラノース型か)、結合する手の向き(α−型かβ−型か)、結合相手の位置(1、2,3,4,6位のいずれか)によって、11種類もあります。 もし、鎖を構成するする材料が異なれば、構造の種類は極めて多くなり、4つの異なった材料から出来るペプチド鎖とヌクレオチド鎖では24種類であるのに対して、糖鎖では実に3500種にも達します。このように糖鎖の構造は極めて複雑で多様です。しかも、糖鎖を構成する糖の種類が異なれば、その生理活性が異なるのは当然ですが、構成する単糖の種類が同じでも、つながり方が異なれば、分子的性質や生理作用は全く異なります。このように少ない構成単位を用いて、多様な性質を表現できる糖鎖が、生体内でシグナル分子として機能していると考えられています。
糖鎖の機能、生理作用を調べようとするとき、遺伝子工学的手法で作った糖タンパク質の品質管理、糖鎖の構造異常によって起こる病気の診断等々に、糖鎖の糖鎖構造解析は欠かせません。 ところで、タンパク質や核酸の構造解析には自動分析装置が市販されていますが、糖鎖の構造解析は大変難しく、手間のかかる仕事であるため、自動分析装置は無く、研究者自らで行わなければなりません、現在、多くの糖鎖微量分析法が使われていますが、私たちは独自に、糖鎖をp−アミノ安息香酸エチルエステル(ABEEと略称する)で標識し、これを2種類の分離原理の異なるカラムを用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離、同定する方法を開発しました(ABEE化糖の二次元糖鎖マップ)。 この方法は1)誘導体化が短時間で高収率に進行する、 2)シアル酸の脱離が起こらない、3)反応物の精製が容易である、4)2次元HPLCによりほとんど全ての糖鎖が分離できる 5)FAB/MS、MALDI-TOF/MS分析の感度が高い、などの利点があり、糖タンパク質糖鎖解析に有力な方法と考えています。 現在までに私たちが蓄積したABEE化糖鎖2次元マップのデータを公開しています。
さらには慶應義塾大学および理化学研究所との共同により、ABEE化糖鎖2次元マップのデータに対応する質量分析のデータを載せたMass Bankを近日公開する予定です。このデータベースを広く利用していただけると幸いです。
2.生理活性糖鎖の機能解析
生体内に含まれる糖鎖には、タンパク質や脂質などと共に複合糖質を形成し、付加物に生理的な機能を与えるものが存在します。糖鎖により与えられる機能には、複合糖質の細胞内外への輸送、情報伝達の仲介と調節、細胞接着の仲介と調節等この他にも様々なものが存在します。現在世界中でこのような複合糖質の糖鎖の構造解析が行なわれ、様々な糖鎖の構造が明らかにされていますが、どのような糖鎖がどのような役割を担っているかはまだまだ解っていません。そこでわが研究室では、これらの糖鎖の機能解析をするために、糖鎖を前述したp−アミノ安息香酸エステル体で紫外標識し、それぞれの糖鎖の機能解析を行う為の研究を進めています。
この研究の一環としてホヤ喘息について調べています。ホヤ喘息とは、広島のカキ打ち作業者に多発していた疾患で、カキ殻に着生する原索動物「ホヤ」の体液飛沫を繰り返し吸入することにより、感作発症するアレルギー症です。 私たちは広島大学の故岡 智教授、広島県立広島病院の故城 智彦院長等と共同で、ホヤ喘息患者に対して特異的に皮内反応を与える4種のホヤ由来糖タンパク質のエピトープ構造を解析し、現在までに特異な構造を持つ糖鎖が抗原決定基になっていることを明らかにしました。現在はこのアレルギー症状において、糖鎖が生体内でどのような反応を起こしているかを調べています。
3.微生物の生産するバイオサーファクタント糖脂質の解析
バイオサーファクタント(BS)とは微生物によって生産される界面活性物質のことです。現在使用されている台所洗剤やシャンプーなどに含まれる界面活性剤は、石油由来の化学合成界面活性剤で、難分解性であるために汚染などの環境への影響が懸念されています。それに対して微生物由来のBSは、生分解性であり、なおかつ高い界面活性能を持つため、これらの化学合成界面活性剤にとって変わる物質として期待されている他、汚染された土壌の浄化(バイオレメディエーション)への利用も考えられています。 さらにこのようなBSには様々な生理活性をもつ物質が存在していることから、将来様々な分野での応用が期待されています。わが研究室ではこの微生物が生産するBSについて構造を解析し、その生合成経路を明らかにして、より安定した生産性とより優れた能力を持つBSの実用化にむけて研究を行っています。
4.先天的複合糖質代謝異常症に関する研究
糖タンパク質や糖脂質の等の複合糖質の糖鎖は細胞内小器官であるリソソームに存在するグリコシダーゼによって順次分解され、排泄されます。ところが、ある特定の酵素の遺伝子に先天的な異常があると、それから作られる酵素が作用しなくなり、本来分解されるべき糖鎖が細胞内に大量に蓄積し、重篤な病気が発症します。これを複合糖質代謝異常症あるいはリソソーム酵素欠損症と呼ばれています。私たちは、ヒトのα-マンノシダーゼ欠損症(α-マンノシドーシス)やヤギのβ-マンノシダーゼ欠損症(β-マンノシドーシス)の尿中、組織中、胎児中に蓄積している未分解糖鎖の構造を明らかにしてきた。最近では、ヒトα-ガラクトシダーゼ(この酵素の欠損症はFabry病と呼ばれる)やヒトα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(この酵素の欠損症はSchindler病と呼ばれる)をCHO細胞を使って発現させ、その糖鎖の構造を調べている。現在、多くのリソソーム酵素についても同様な解析を行っています。
5. シロアリ兵隊カーストの額腺分泌物の解析
シロアリは世間では忌み嫌われている害虫ですが、枯葉などのセルロースを分解し、自然界の物質のサイクルにおいて重要な役割を担っており、我々が生きるうえで必要不可欠な存在です。その生態は高度に発達しており、ハチやアリと同様にカーストと呼ばれる階級制度が存在し、生殖カースト、労働カースト、兵隊カーストなどに分化していて、それぞれに決まった役割が存在します。また同じコロニー(巣)内の仲間との連絡方法としてフェロモンを使用していることも知られています。
このカースト制度において、兵隊アリは外部からのコロニーへの侵入者を防ぐ役割を担っており、その顎は敵に噛み付いたりするために大きく進化しています。この顎には額腺と呼ばれる分泌腺が繋がっており、噛み付いた際にはここから分泌された液体を塗りつけます。この分泌液にはタンパク質、脂質が含まれており、防衛の際に何らかの機能を持つと考えられるため現在研究しています。
外部受託研究
6. 海産棘皮動物抽出物中に含まれる血管再生物質の特定
7. 牛脳由来の機能性糖脂質に代わる新たな機能性糖脂質源の探索
8. ステビア抽出物中に含まれる物質の同定と有用成分の単離
9. 組換え型糖タンパク質中の糖鎖が及ぼすタンパク質の機能への影響