研究分野1 耐震用高機能材料の開発と火災対策に関する研究
1.1 研究成果概要
(1)耐震性高延性材料の開発(鉄系)(中東 潤)
コンクリート部材の耐震性向上のため、より地震エネルギーを効果的に吸収するX型主筋用鋼材が必要とされている。この鋼材には、地震エネルギー吸収の観点から周辺の鉄筋よりも低耐力で、かつ加工硬化の大きなものが求められる。よって、開発目標値として、0.2%耐力:100〜150MPa、引張強さ400〜450MPa程度、伸び30%以上、ひずみ0.2付近で最大応力(引張強さ)を示すX型主筋用鋼材の開発を進めることにした。これまでの研究においては、低温ぜい性の懸念から、フェライト系ではなく、オーステナイト系鋼をベースに進めてきたが、開発目標値を満足する新鋼材を得ることができなかったので、今回はオーステナイト+フェライトの2相鋼(Ni-Cr鋼)をベースとして開発を進めることにした。
<優れた成果があがった点>
@ 12Ni鋼にCr添加量を変化させて引張試験を行った結果、12Ni-17Cr鋼が0.2%耐力:104MPa、引張強さ:419MPa、伸び:47%を示し、ひずみ0.2においても最大応力(引張強さ)に比較的近い値を示し、当初の開発目標値に比較的近い材料が得られた。
A 12Ni-21Cr鋼に予ひずみ(圧下率1%にて冷間圧延)を加えた試料においても開発目標値に近い引張特性を示すことがわかった。
<問題点>
開発目標値を完全に満たす材料の開発
・化学成分の最適化、最適熱処理条件の探索、予ひずみの影響調査など
<評価体制>
これまで得られた成果をシンポジウムや論文等で公表し、そこで得られた意見を参考にして今後の研究の進め方を検討する。
<研究期間終了後の展望>
大型構造実験による本鋼材の優位性の実証
<研究成果の副次的効果>
本研究で得られる材料は低耐力で加工硬化が大きいので、特にひずみの小さい領域において優れたエネルギー吸収性を有している。このことから、例えば自動車用の衝撃吸収材への利用も考えられる。今後、さらなる高性能化を目指した基礎的な研究も進めていく予定である。
(2)耐震性新鋼材の高温強度特性と耐火性能の評価(井上達雄)
都市型の巨大地震が発生すると,多くの場合火災が発生することが多い.火災によって構造物の温度は800℃を超えるといわれている.また,消火活動による温度降下によって,材料が著しい温度変化をうけ,そのために材料には相変態による組織変化をおこすことがある.これに伴って鉄骨構造物などには大きな応力が生じる.
本研究では,まず火災の発生とその伝播について,火災シュミレーションソフトPyroSimを用いてシミュレーションを試みた.これは火災によって駆動される流れの計算流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)モデルである.このモデルでは、火炎からの煙の拡散および熱の伝達を解析することができる.例として,建物の部屋の床においた火元からの熱発生源の熱が窓からの風によってどのように拡散するかについての解析を行った.この結果,煙と熱の拡散と風速の相関関係についての有用な知見が得られた.
ところで,このような火災に伴う温度変化環境において,鋼構造物ないしは鋼材がどのような温度変化を受け,それに伴う熱応力と相変態による変態効力を評価し,残留応力,変形をシミュレートすることは重要である.そこで,温度,応力/ひずみ/変形などの力学場,さらに相変態を連成して解析可能なソフト(井上らが開発)を用いて,圧延した鋼材が加熱・冷却を受ける場合の変態・熱・力学シミュレーションを行った.この結果から,温度変化に伴うマルテンサイトの分布,応力と変形の結果を得た.
このような,変態・熱・力学解析においては,変態塑性(transformation plasticity)が大きな効果を持つことがわかっている.この現象は,変態中に降伏応力以下の小さな応力によってもおおきな塑性変形が生じるもので,すでにそのメカニズムについては,井上らが塑性力学的立場から理論的に明らかにしている.この変態塑性変形と応力との関係を表す係数を変態塑性係数というが,これの同定は変動温度―応力した煩雑な実験に寄らざるを得ないため,データが少ないのが現状である.そこで,ここでは各種の材料について,オーステナイトーパーライト,マルテンサイト変態における実験を行い,係数の同定を行った.
これを用いて,上記の変態・熱・力学シミュレーションをしたところ,変態塑性は,応力,変形に極めて大きな影響を及ぼすことが明らかになった.
<評価体制>
上で述べた火災のシミュレーション,および具体的な鋼材の変態・熱・力学シミュレーションについては,未発表でるが,変態塑性のメカニズム究明のために筆者が提唱した統合型変態・熱力学構成式の理論は、日本材料学会会誌「材料」に掲載され、高く評価され、2008年5月には、論文賞を授与されている、また、諸外国における関連の国際会議で絶賛を浴びている。さらに、各鋼種に対して同定した変態塑性係数のデータは、日本材料学会から頒布されているデータベースに収集され、各方面で利用されている。
<研究成果の副次的効果>
本プロジェクトでは、地震後の火災に対する応答を目的としているが、変態塑性の効果は、熱処理、鍛造、熱間プレスなど、相変態を伴う多くの工学過程で重要であることから、本研究の成果の応用は幅広いものである。
(3)研究成果C 耐震性高延性材料の開発(非鉄金属系)(中東 潤)
金属は結晶の集合体であるが、その結晶を微細粒化することで強度は向上し、そしてある条件下で極めて大きな伸び(超塑性伸び)を発現するようになる。チタン合金の結晶粒微細化法に水素処理がある。この処理をα+β型チタン合金に適用することにより、結晶粒径は1μm以下の微細粒組織となり、強度は著しく向上することがわかっている。チタン合金は常温における組織によってα型、α+β型、βrich-α+β型、nearβ型、β型等に分類されるが、それら全てに水素処理の適用が可能であるかどうかはまだわかっていない。そこで本研究では、各型のチタン合金に水素処理を施し、本処理の適用範囲を調べることにした。そして微細粒化した合金についてはその組織的特徴や引張特性、超塑性特性について調べることにした。
<優れた成果があがった点>
- α型、βrich-α+β型チタン合金に水素処理を適用することにより、処理後の結晶粒径はα型チタン合金:3〜5μm(処理前:20〜30μm)、βrich-α+β型チタン合金:0.1〜0.3μm(3~5μm)に達することがわかった。
- 水素処理によって微細化したα型及びβrich-α+β型チタン合金の耐力、引張強さは大幅に向上した。
- 微細粒βrich-α+β型チタン合金は優れた高速超塑性を示す。温度650℃以上であれば、初期ひずみ速度10-2s-1台でもひずみ速度感受性指数(m値)は0.3以上を示す。
- 微細粒βrich-α+β型チタン合金は、超塑性発現温度としては極めて低い温度である650℃において10000%以上の超巨大超塑性伸びを示すことを明らかにした。
<問題点>
@ nearβ型、β型チタン合金への水素処理の適用は困難である。
<評価体制>
- これまで得られた成果をシンポジウムや論文等で公表し、そこで得られた意見を参考にして今後の研究の進め方を検討する。
- 大手企業と連携し、意見交換を行いながら研究を進めている。
<研究期間終了後の展望>
- 超塑性加工法への適用による実用化
- さらなる結晶粒微細化法の検討
<研究成果の副次的効果>
建築材料として注目されつつあるチタン合金であるが、水素処理によって著しく高性能化することがわかった。この高性能チタン合金は建築土木分野だけではなく、機械分野をはじめとする多くの分野での活用が期待できる。
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