中四国をリードする大型構造物耐震実験施設
構造・材料開発研究センター


研究組織スタッフと研究概要

研究分野1 耐震用高機能材料の開発と火災対策に関する研究

1.1 研究成果概要

(1)耐震性高延性材料の開発(鉄系)(中東 潤)

 コンクリート部材の耐震性向上のため、より地震エネルギーを効果的に吸収するX型主筋用鋼材が必要とされている。この鋼材には、地震エネルギー吸収の観点から周辺の鉄筋よりも低耐力で、かつ加工硬化の大きなものが求められる。よって、開発目標値として、0.2%耐力:100〜150MPa、引張強さ400〜450MPa程度、伸び30%以上、ひずみ0.2付近で最大応力(引張強さ)を示すX型主筋用鋼材の開発を進めることにした。これまでの研究においては、低温ぜい性の懸念から、フェライト系ではなく、オーステナイト系鋼をベースに進めてきたが、開発目標値を満足する新鋼材を得ることができなかったので、今回はオーステナイト+フェライトの2相鋼(Ni-Cr鋼)をベースとして開発を進めることにした。

<優れた成果があがった点>
@ 12Ni鋼にCr添加量を変化させて引張試験を行った結果、12Ni-17Cr鋼が0.2%耐力:104MPa、引張強さ:419MPa、伸び:47%を示し、ひずみ0.2においても最大応力(引張強さ)に比較的近い値を示し、当初の開発目標値に比較的近い材料が得られた。
A 12Ni-21Cr鋼に予ひずみ(圧下率1%にて冷間圧延)を加えた試料においても開発目標値に近い引張特性を示すことがわかった。

<問題点>
開発目標値を完全に満たす材料の開発
・化学成分の最適化、最適熱処理条件の探索、予ひずみの影響調査など

<評価体制>
 これまで得られた成果をシンポジウムや論文等で公表し、そこで得られた意見を参考にして今後の研究の進め方を検討する。

<研究期間終了後の展望>
大型構造実験による本鋼材の優位性の実証

<研究成果の副次的効果>
 本研究で得られる材料は低耐力で加工硬化が大きいので、特にひずみの小さい領域において優れたエネルギー吸収性を有している。このことから、例えば自動車用の衝撃吸収材への利用も考えられる。今後、さらなる高性能化を目指した基礎的な研究も進めていく予定である。


(2)耐震性新鋼材の高温強度特性と耐火性能の評価(井上達雄)

 都市型の巨大地震が発生すると,多くの場合火災が発生することが多い.火災によって構造物の温度は800℃を超えるといわれている.また,消火活動による温度降下によって,材料が著しい温度変化をうけ,そのために材料には相変態による組織変化をおこすことがある.これに伴って鉄骨構造物などには大きな応力が生じる.
 本研究では,まず火災の発生とその伝播について,火災シュミレーションソフトPyroSimを用いてシミュレーションを試みた.これは火災によって駆動される流れの計算流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)モデルである.このモデルでは、火炎からの煙の拡散および熱の伝達を解析することができる.例として,建物の部屋の床においた火元からの熱発生源の熱が窓からの風によってどのように拡散するかについての解析を行った.この結果,煙と熱の拡散と風速の相関関係についての有用な知見が得られた.
 ところで,このような火災に伴う温度変化環境において,鋼構造物ないしは鋼材がどのような温度変化を受け,それに伴う熱応力と相変態による変態効力を評価し,残留応力,変形をシミュレートすることは重要である.そこで,温度,応力/ひずみ/変形などの力学場,さらに相変態を連成して解析可能なソフト(井上らが開発)を用いて,圧延した鋼材が加熱・冷却を受ける場合の変態・熱・力学シミュレーションを行った.この結果から,温度変化に伴うマルテンサイトの分布,応力と変形の結果を得た.
 このような,変態・熱・力学解析においては,変態塑性(transformation plasticity)が大きな効果を持つことがわかっている.この現象は,変態中に降伏応力以下の小さな応力によってもおおきな塑性変形が生じるもので,すでにそのメカニズムについては,井上らが塑性力学的立場から理論的に明らかにしている.この変態塑性変形と応力との関係を表す係数を変態塑性係数というが,これの同定は変動温度―応力した煩雑な実験に寄らざるを得ないため,データが少ないのが現状である.そこで,ここでは各種の材料について,オーステナイトーパーライト,マルテンサイト変態における実験を行い,係数の同定を行った.
 これを用いて,上記の変態・熱・力学シミュレーションをしたところ,変態塑性は,応力,変形に極めて大きな影響を及ぼすことが明らかになった.
 
<評価体制>
 上で述べた火災のシミュレーション,および具体的な鋼材の変態・熱・力学シミュレーションについては,未発表でるが,変態塑性のメカニズム究明のために筆者が提唱した統合型変態・熱力学構成式の理論は、日本材料学会会誌「材料」に掲載され、高く評価され、2008年5月には、論文賞を授与されている、また、諸外国における関連の国際会議で絶賛を浴びている。さらに、各鋼種に対して同定した変態塑性係数のデータは、日本材料学会から頒布されているデータベースに収集され、各方面で利用されている。

<研究成果の副次的効果>
 本プロジェクトでは、地震後の火災に対する応答を目的としているが、変態塑性の効果は、熱処理、鍛造、熱間プレスなど、相変態を伴う多くの工学過程で重要であることから、本研究の成果の応用は幅広いものである。


(3)研究成果C 耐震性高延性材料の開発(非鉄金属系)(中東 潤)

 
金属は結晶の集合体であるが、その結晶を微細粒化することで強度は向上し、そしてある条件下で極めて大きな伸び(超塑性伸び)を発現するようになる。チタン合金の結晶粒微細化法に水素処理がある。この処理をα+β型チタン合金に適用することにより、結晶粒径は1μm以下の微細粒組織となり、強度は著しく向上することがわかっている。チタン合金は常温における組織によってα型、α+β型、βrich-α+β型、nearβ型、β型等に分類されるが、それら全てに水素処理の適用が可能であるかどうかはまだわかっていない。そこで本研究では、各型のチタン合金に水素処理を施し、本処理の適用範囲を調べることにした。そして微細粒化した合金についてはその組織的特徴や引張特性、超塑性特性について調べることにした。
<優れた成果があがった点>

  1. α型、βrich-α+β型チタン合金に水素処理を適用することにより、処理後の結晶粒径はα型チタン合金:3〜5μm(処理前:20〜30μm)、βrich-α+β型チタン合金:0.1〜0.3μm(3~5μm)に達することがわかった。
  2. 水素処理によって微細化したα型及びβrich-α+β型チタン合金の耐力、引張強さは大幅に向上した。
  3. 微細粒βrich-α+β型チタン合金は優れた高速超塑性を示す。温度650℃以上であれば、初期ひずみ速度10-2s-1台でもひずみ速度感受性指数(m値)は0.3以上を示す。
  4. 微細粒βrich-α+β型チタン合金は、超塑性発現温度としては極めて低い温度である650℃において10000%以上の超巨大超塑性伸びを示すことを明らかにした。

<問題点> 
@ nearβ型、β型チタン合金への水素処理の適用は困難である。
<評価体制>

  1. これまで得られた成果をシンポジウムや論文等で公表し、そこで得られた意見を参考にして今後の研究の進め方を検討する。
  2. 大手企業と連携し、意見交換を行いながら研究を進めている。

<研究期間終了後の展望>

  1. 超塑性加工法への適用による実用化
  2. さらなる結晶粒微細化法の検討

<研究成果の副次的効果>
建築材料として注目されつつあるチタン合金であるが、水素処理によって著しく高性能化することがわかった。この高性能チタン合金は建築土木分野だけではなく、機械分野をはじめとする多くの分野での活用が期待できる。

 

 

研究分野2 構造物の耐震安全性に関する研究

2.1研究成果概要

(1)鋼構造物の耐震性向上に関する研究(上野谷 実、中村 雅樹)

 本研究分野では土木の鋼構造物における耐震性能の向上を目的として、鋼材の特性である変形性能(ダクティリティー)を有効に活用して地震エネルギーを吸収し,構造物の致命的な損傷や倒壊を回避する構造システムに関する研究が行われてきた。現在までの継続的な実験的研究によれば、せん断パネル構造のせん断型塑性リンクは曲げ塑性リンクより地震エネギルーを効果的に吸収することが明らかにされている。
本年度は鋼製門形ラーメン橋脚におけるハイブリッド型せん断塑性ヒンジによる地震エネギルーを効果的に吸収する材料構成や断面形状などに関する実験的研究を行った。
 鋼製門形ラーメン橋脚の柱基部と隅角部の中間部のようにせん断力が卓越する部分におけるせん断塑性リンク部材の断面構成を検討した。一定の軸方向圧縮力のもとに、水平力による交番せん断力を受けるハイブリット型箱形断面柱の載荷実験を行った。これまでの研究結果と比較するために、せん断塑性リンク部材においてフランジはすべて普通鋼SMとし、ウェブは普通鋼SM、耐震用新鋼材FLSおよび低降伏点鋼LYの3鋼種とし、ウェブの板厚はフランジの1/2とした。鋼製橋脚の場合、地震力の方向が90度変われば、ウェブは曲げを受けるフランジとして抵抗する必要がある。ところが、低降伏点鋼の薄いウェブの場合、フランジとして抵抗するためにはかなりの剛性不足となる。
 これまでの研究において、このような曲げ剛性の低下には通常の約2.5倍のSM鋼縦リブを補剛材として配置すれば剛性低下に対処できることが確認されている。したがって、今回はウェブの縦リブが従来の2本から5本に増加されたハイブリット型箱形断面柱について、一定の軸方向圧縮力のもとに繰返しせん断載荷実験を行った。
 その結果、ウェブの縦リブが従来の2本から5本に増加されたハイブリット型箱形断面柱はリブ間隔が半分になるために幅厚比が約20となり、座屈の発生が大幅に抑制された。これにより3鋼種の供試体において、強度は約1.5倍に増加し、変形性能およびエネルギー吸収量は約3倍となり、せん断型塑性リンクの性能が著しく向上した。
 ウェブにFLSを用いた場合、SMを用いた供試体より低い荷重で塑性変形を生じるが、ひずみ硬化により終局強度はSMを用いた供試体と同等となった。塑性変形性能およびエネルギー吸収性能はSMを用いた供試体より優れている。ただし、部材の崩壊が溶接部の亀裂破壊に依存するためにFLSの溶接性の向上が今後の課題である。また、ウェブの鋼材がFLSと LYの場合について比較すると、ウェブの鋼材がFLS の供試体は強度が高く、エネルギー吸収性能がLY の供試体とほぼ同等であるが、塑性変形性能において劣る。ただし、これはFLSの溶接性の向上によって解決されるものと考えられる。
 以上より、ウェブの板厚がフランジの1/2のハイブリット型箱形断面柱はウェブの縦リブを幅厚比20以下になるように配置することによってせん断型塑性リンクの性能が著しく向上し、せん断リンクデバイスへの適用性はFLSおよびLYがSMより優れており、特に強度が必要な場合にはFLSが優れていることが明らかになった。


(2)鋼構造物の耐震性向上に関する研究(中山昭夫)

 この研究ではハイテクリサーチセンターで開発された耐震性新鋼材FLS(Ni:15%、Cr:15%のステンレス鋼)を制振デバイスとして利用するため、以前から提唱しているZ形ブレースの束材にこの新鋼材を組み込んだ制振ブレースの弾塑性挙動を実験的に確かめている。昨年までの実験では、この新鋼材の溶接材料がまだ開発されていないため、通常のステンレス鋼材の溶接材料で溶接を行っていて、溶接部から破断が生じ強度や靭性が上がらないという現象が出てきて、この鋼材の特性、すなわち普通鋼並みの強度を持ちながら伸びが70%程度という変形能力を持つ高性能鋼材という特徴が生かされていないため、今年度はこの溶接部のディテールに工夫を加ええることで溶接部の強度を上げることとした。溶接部の強度を上げるにはT形継ぎ手の余盛りの大きさを大きくすることで対応し、溶接断面を1.3倍程度大きくした。この結果、溶接部の強度は上昇し、溶接部からの破断は無くなり、溶接部境界の断面が急変する不連続部分から亀裂が進展して最終破壊に至った。そのため変形能力は大きくなったが、載荷の繰り返し回数が増えすぎたため疲労破壊が先行して、期待したほど靭性の伸びが得られなかった。この疲労破壊の先行に関しては繰り返し回数を半分にする等の対策で十分対応は可能で、今後このFLSの特性を生かした制振デバイスの開発につなげていきたい。


(3)鉄筋コンクリート構造物の耐震性能向上に関する研究(南 宏一、寺井雅和)

コンクリート系建築構造物の耐震性能向上について、いくつかの研究を行った。
1.RC基礎梁のせん断補強筋形状の違いがせん断耐力に与える影響
二線溶接継手工法は地中梁の側面であばら筋同士を継手するときに適用し、その端部に2本の電気抵抗溶接されたあばら筋同士を地中梁の側面で重ね継手とする。上部または下部でキャップタイをかぶせて、全体としては閉鎖型のあばら筋になる。現在、地中梁に多く使用されている二線溶接鉄筋工法は昭和62年に実用化したもので、実験データなどが古く実験内容も不確定な部分が多い。そこで本研究では、二線溶接鉄筋網の梁における力学的特性や破壊性状を明確にすることを目的とする。今年度は、中型試験体と大型試験体を制作し、せん断耐力に対する寸法効果の影響を検討した。
2.孔あき鋼板ジベルを用いた鋼板で補強されたRC柱のせん断破壊性状に関する実験的研究
現在、土木構造物として鉄道の連続合成桁の中間支点上のずれ止めなどに、孔あき鋼板ジベルが利用されているが、これを既存建築物の補強部材への活用が期待されている。本研究では、孔あき鋼板ジベルで補強した部材の変形性能を明らかにし、耐力評価方法の確立を目的としている。今年度は、ジベルの特性を明らかにするために、複数個のジベルに対する押し抜き試験を行った。
3.重量偏心を有する多点滑り免震装置の実験研究
これまで、2枚のコンクリート基礎板全体が滑る「多点滑り機構」の開発を行ってきた。本研究では,上部構造に大きな重量偏心を有する場合でもその捩れ応答が概ね生じないことを確認することを目的に振動台実験を行うものである。実験に先立ち応答の予測解析を行い、多点滑り免震装置の振動実験結果と予備解析の妥当性、および免震床の重量偏心の影響を確認した。
4.高強度鋼管を用いたCFT柱の構造性能確認実験
500N/mm2級のプレスコラム材と60N/mm2級コンクリートを用いた試験体について軸力曲げ載荷を実施し、軸力比の違いによる履歴性状、破壊性能の違いを明確にする。さらに、算出した終局曲げ耐力、限界部材角評価式の妥当性を確認する。
5.高強度せん断補強筋を用いたRC柱のせん断ひび割れ性状に関する実験的研究
RC部材に高強度のせん断補強筋を用いた場合、RC部材においてとりわけ脆性的な破壊に起因するせん断ひびわれについて、せん断ひびわれ発生から最大耐力に至るまで、せん断補強筋量、柱長さ比および軸力比によって、どのようなひびわれ性状を示すか実験的に検討する。この実験では、ひびわれの測定方法として、目測やクラックスケールのほか、デジタルマイクロスコープによる機器測定の方法も試みた。


(4)木質構造物の耐震性能向上に関する研究(鎌田輝男)

(A)剛接仕口を用いた新しい木造仕口工法の開発
 在来木造軸組構法の弱点は、地震の揺れによって柱と横架材の仕口部が折れたり、脱落して建物が倒壊して、貴重な生命あるいは財産を失うことである。しかしながら、鋼製の剛接仕口を用いることによって、木造軸組仕口部の剛性および強度を高め、柱の折損や横架材の脱落を防ぎ、木造住宅の倒壊あるいは崩壊を防ぐことができる。
 剛接仕口金物は、工業規格品である125o角形鋼管(長さ150o)2個を9oダイアフラムに溶接して鋼製ボックスを構成し、中央にはダイアフラムを貫通して長さ600oのΦ28丸鋼を溶接したものである。このボックス内に柱を挿入し、ボックス側面に設けられたガセットプレートが桁材を承ける構造になっている。
 昨年度開発された剛接仕口金物は,厚さ4.5oの125o角形鋼管を使用したが,これを厚さ3.2oのより薄いものとすることによって,重量を12.5kgから9.8kgに軽量化することによって,より施工性を向上させ,また,ガセットプレートに設けていたけた緊結用スリットを省略することによって,仕口金物の製作工程を簡略化した.
在来木造軸組構法による短ほぞ仕口軸組試験体と今回採用された剛接仕口金物を用いた軸組試験体の耐力実験によって、剛接仕口を用いた軸組試験体の剛性および耐力特性は,在来仕口軸組試験体のそれよりも著しく向上し,特に耐力は2倍以上となり,剛接仕口金物を用いることの有効性が検証された.
 いずれの試験体も1/10以上の変形角を生じさせるような加力に対しても,軸組が崩壊するということはないが,剛接仕口金物を用いた軸組の等価剛性は,在来型仕口軸組の2倍程度を有することが判明した.一方,等価減衰比は,いずれの場合も3%程度であるが,在来型仕口軸組の方が変形角1/20程度までは剛接仕口金物を用いた軸組よりも大きく5%程度であった.

(B)板小舞下地土壁工法の開発
 伝統構法木造住宅や在来型軸組構法における木造住宅で用いられる土壁は,いわゆる竹小舞下地土塗り壁であるが,近年,良質の竹小舞,わら縄などの資材調達が困難になったこと,小舞掻き職人の減少によって,土壁そのものが敬遠されるようになってきている.しかしながら,地球環境に対する負荷の軽減,ハウスシック症候群といった健康問題の観点から,土壁の良さが再認識されるようになった.
 そこで,土壁施工の簡略化と木材資源の有効利用を目指して,ヒノキ間伐材から製作した薄板を縦横に組んだ板小舞下地パネルを開発し,これを在来型短ほぞ入れ仕口軸組に取り付け,土壁とした試験体の加力実験を実施し,従来の竹小舞下地をもつ土壁との比較から,耐力壁としての十分な特性を持つかどうかの検証を行った.
 板小舞下地パネルは,板小舞が軸組に平行に配置される直交型と斜め45度方向に配置される斜交型の2タイプが考えられ,板小舞の筋違い効果を考慮すると,斜交型の方が耐力特性に優れるのではないかと予想されたが,軸組周辺部では板小舞のはらみだしや柱からの外れが生じ,土壁を損傷しやすく,耐力特性の向上はみられなかった.
 板小舞下地土壁の問題点としては,竹小舞下地であれば,小舞縄によって,壁土と小舞が一体化するのに対して,板小舞と壁土は小舞板との付着性能によるのみで,容易に壁土が下地から剥がれるという欠陥があり,これをいかに解決するかが問題点として上げられる,また,小舞板の空隙部の大きさも板小舞前後の壁土の分離に大きな影響を与えることが判明した.
 板小舞下地パネルを用いた土壁工を安定した耐力壁工法とするためには,板小舞サイズ,板小舞空隙部の大きさ,板小舞下地パネルと軸組の結合法など,明らかにしなければならない問題点が指摘された.


研究分野3 既存構造物の防災対策技術の開発

3.1研究成果概要

(1)炭素繊維グリッドとアンカー筋を組み合わせた既存RC橋脚の耐震補強(宮内克之)

 既存のRC道路橋橋脚の補強方法としては、コンクリート巻き立て工法、鋼板巻き立て工法、連続繊維シート貼付け工法などが主に用いられている。これまでに、炭素繊維グリッド(CFG)と耐久性の良いポリマーセメントモルタル(PCM)の乾式吹付け工法を併用した既存RC構造物の耐震せん断補強方法の開発を行なってきた。このCFGとPCMを組み合わせた補強方法は、@耐久性の向上、A少ない断面増し厚量、B良好な施工性による大幅な工期短縮、C工期短縮に伴うコストダウンなどの特徴を有している。道路橋橋脚の多くが水環境や海岸に近い地域にも多く存在すること、河川内橋脚では河積阻害率が問題となることや施工期間が限定されることなどを考慮すると、CFGとPCMを組み合わせた補強方法は、道路橋橋脚の補強方法として極めて効果的であると考えられる。
 しかしながら、CFGを用いて曲げ耐力の向上を図る場合には、CFGを直接基礎コンクリート中に定着することが困難なこと、橋脚躯体基部の塑性域にCFGが配置されるなど、問題点が多く存在する。そこで、躯体基部塑性域には曲げ耐力の向上を目的としたアンカー筋を設置し、それに続く躯体部には補強による断面増し厚量をできるだけ小さくするためにCFGを配置して、PCMを乾式で吹き付ける補強方法(提案工法)の開発を行った。
 具体的には、断面寸法400 mm×800 mmのRC柱に、提案工法によって補強した試験体に対して、正負交番繰返し載荷試験を行い、道路橋橋脚を想定した曲げ耐力向上型補強方法としての提案工法の有効性およびアンカー筋とCFGの継手性能について検討した。

その結果、以下のことが明らかとなった。
(1) 提案工法によって曲げ耐力向上型の補強を施した試験体は、大変形での繰返し載荷においても等価粘性減衰定数の値は低下することはなく、非常に優れた耐震性を示した。
(2) 塑性域に配置したアンカー筋とCFGとの継手長は、断面幅程度確保すれば十分である。
(3) 提案工法によって補強された既存RC道路橋橋脚の耐震性は、道路橋示方書X耐震設計編に基づいて耐震設計計算を行なえば、安全側で評価できる。


(2)建築系鉄筋コンクリート構造物の耐震補強技術(南 宏一、寺井雅和)

 既存学校校舎など耐震性能が低いコンクリート系建築構造物を対象とした研究をいくつか行った。
1.低強度コンクリート学校校舎の耐震補強に関する実験的研究
 過年度からの継続で、RC造建物の耐震性能を確認するために、既存建築物を模擬した低強度コンクリートを打設したRC骨組による実験的研究を行う。また、この骨組に対して、様々な施工方法で鉄骨ブレース補強をした実験を行い、鉄骨ブレースによる補強効果、施工方法による違いなどを比較検証する。今年度は、ハイブリッド工法で鉄骨骨組みを施工された骨組試験体の実験を行った。

2.ディスク型アンカーのせん断強度に関する実験的研究
 既存鉄筋コンクリートの建物の耐震補強において、あと施工アンカーが多用されているが、低強度コンクリートに対する適用の妥当性検証が十分ではなく、騒音・振動など工事環境の改善も望まれている。本研究では、低強度コンクリート建物に対するあと施工アンカーの代替構法として考案したディスク型アンカーに関して、ディスクの適用方法と効果について検討したものである。ディスク型アンカーの力学特性を調べるための実験を行い、従来型あと施工アンカーと比較した。

3.異種強度コンクリートによって接合された床スラブ打ち継ぎ面のせん断強度に関する現場実験
 低強度コンクリートを有する学校校舎の耐震改修として、既存建物の外側にRCフレームを増設する案が挙げられ、増設RCフレームによって耐震補強の効果を得るためには、既存建物と増設RCフレームの接合部分が十分なせん断強度を有数化検証する必要性が生じた。耐震改修案の妥当性を検証するために、既存の低強度コンクリート床スラブと新設した普通強度コンクリート床スラブにおける打ち継ぎ部が、耐震改修設計において必要とされたせん断強度を有していることを確認する実験を行い、床スラブ打ち継ぎ部のひびわれ発生強度および最大せん断強度を確認する。

4.低降伏点鋼をX形配筋したRC部材による耐震性能評価に関する研究
 新しく開発した低降伏点強度,高延性の鋼材の特徴を活かすために,繰り返し作用する地震時荷重に対して,斜め方向主筋を有効に利かせるX形配筋RC部材について検討した。部材長さが異なるX形配筋RC部材の耐力特性と地震エネルギー消費能力について検証するために,モデル解析による検討を行い,この計算値と既往の実験値とを比較した。その結果,X形配筋の解析モデルにより,地震時荷重に対するせん断抵抗機構を評価することができ,部材長さが小さい方が,X形主筋によるせん断耐力およびエネルギー吸収が大きくなることが確認された。


(3)木質構造物の耐震補強技術について(鎌田輝男)

(A)リブフレームを用いた木造住宅の耐震補強技術の開発
 木材資源の有効利用を目指して開発されたリブフレームは,2枚のスギ板材を釘またはビスで接合したものを柱材および桁材として長方形フレームを構成し,隅角部に挿入されたL型鋼板にスギ板の両面から多数の釘を打つことによって隅角部を補強し,木造ラーメンとしたものである.このリブフレームを用いることによって木造モノコック工法による住宅建設を可能とし,リブフレームのプレファブ方式による簡易製作と乾式工法による施工の簡素化を図ることができる.
これまで,様々のタイプのリブフレームについて,耐力特性実験を実施してきたが,本年度は,特に,既存木造住宅の耐震補強要素として使用することを目的とした横幅900oの試験体について耐力特性実験を実施した.
(B)樹脂製仕口ダンパーを用いた仕口補強技術の開発
 木造住宅の制震デバイスとして従来仕口ダンパーと呼ばれる減衰性能付加装置が用いられているが,これは,2枚の鉄板の間に粘弾性ゴムを挟み,木造軸組の仕口部に取り付け,軸組のせん断変形に対して鉄板の相対変位によるゴムの変形によってエネルギーを吸収しようとするものである.この仕口ダンパーの問題点は,鉄板の平行性を保つように施工するには十分な注意が必要であることと,軸組の大きな変形角に追随することが困難なことにあった.
 そこで,新たに樹脂成型による一体型の仕口ダンパーを開発した.これは,木造仕口部にビス止めで取り付けるだけの簡単なものであり,何より製作工程は単に樹脂成形によるだけで簡単に製作でき,また,大きな変形角にもダンパーが破損することなく追随することができる.
本年度は,基礎実験として,山形プレートで補強した短ほぞ仕口を持つ木造軸組にこの樹脂製ダンパーを取り付け,水平繰り返し加力実験をすることによって,軸組にどれだけの減衰性能を付加することができるかを確認した.
 各加力レベルに対する履歴ループから,等価剛性および等価減衰比を評価し,ダンパーを取り付けることによって,軸組の剛性および耐力は増加し,減衰性能としては10%程度の減衰比を与えることができた.なお,この仕口ダンパーを取り付けることによって,柱の引き抜き防止にも十分役立つことが確認され,既存住宅の耐震補強法として安価でかつ簡便な方法であることが確認された.