機械学会材料力学部門ニュースレター(2000年)
材料力学部門功績賞受賞記事
功績賞とわが研究人生
井上達雄
オリジナリティ−のある優れた論文に与えられるのが論文賞なら、長い間に蓄積された努力に対していただくのが功績賞と聞く。ありがたく、心からお礼申し上げるとともに、そろそろわが研究人生も終わりかなという寂しさも覚えるこのごろではある。
学生時代には、ギロチン台とひやかされた手製の熱疲労試験機を使っての実験に明け暮れると同時に,計算尺、対数表、ベッセル関数表を片手に、手廻し計算機(タイガー計算機)を朝から晩まで廻して温度と弾塑性熱応力を計算したことを思い出す。やっと、当時の金で50万円もするシャープの電卓(といっても、50cm角の大きなもので加減乗除のみ)を買ってもらったときはうれしさのあまり歓声をあげたものである。
また、そのころ、大学に初めて導入された記憶容量が4250word(=1.7kbite)の電子計算機(KDC-1)の使用時間の予約をするために、まだ明けやらぬ寒い冬の朝早くから、センターの前に毛布に包まって順番待ちをしたものである。紙テープを用いた,数字ばかりの機械語のプログラムに苦労したが,その威力には感銘をうけた(下の追記参照)。
大学院になって、センターに入る予定の2号機(KDC-2)には、なんとA=B+Cと書くだけで計算ができるFORTRANとやらが入っていると聞いた。機械語でやっていた私には、そんなはずがないと思って到底信じがたいものであったが、それが本当だとわかると、大学院の有志を集めて森口繁一先生のテキストを教材にFORTRAN研究会を組織して、張り切っていた。
そのころ、アメリカでは、三角形を使って計算をやってるぞと,故平修二先生に言われたのが、有限要素法の名前を聞いた契機であった。ところが、どちらかといえば力学に苦手な京都大学機械系の周辺では、具体的なことを誰も教えてくれない。仕方なく、そのころわが国の有限要素法のセンター的存在であった鋼構造協会のSTANという研究会に、修士の学生の分際で毎月通って、山本、鷲津,宮本、山田、川井などの先生に教えを乞うとともに、可愛がっていただいた。しかし、論文を見ても、剛性マトリックスの重合わせの具体的なことが書いてないものだから、弾性のプログラムができたのは、それから2年近くたってからであった。
ところで、弾性体の熱ひずみは,εT=αTだが、弾塑性のひずみ増分理論では、これを増分表示しなければならない.このとき,線膨張係数αは温度-伸び線図に見られるように、一般には、温度とくに変態点以上の温度では大きく変化するし、また、これを冷却する速度によって変化することに,ふと気づいたのが、相変態を伴う解析にのめり込むきっかけであった。(後でわかったことだが、これはすでに村外志夫先生がずっと昔にやっておられた。)
努力というか,人に負けないくらい時間をかけたつもりではあるが,生来頭の良くない私がオリジナリティーのある仕事ができるべくもない.優秀な学生,共同研究者に,教えられ,助けられて,熱応力とその基礎になる高温での非弾性構成関係を基礎に,変態・熱・力学=Metallo-thermo-mechanicsの構築を行って,それに有限要素法(それに,少し分子動力学法)を武器に,まあ何とか相変態を伴う工学過程の解析の基礎ができたような気がするのがうれしい.
頂いた功績賞をバネに,これからも,変態・熱・力学のまとめと,その普及,材料データの収集に微力を尽くことにしたいと思うこのごろではある.
追記;
KDC―1は、真空管式の4250biteの電子計算機、その使用時間の予約をするために、まだ明けやらぬ寒い冬の朝早くから、センターの前に毛布に包まって順番待ちをしたものである。しかし、いざ自分の時間になって、黒い紙テープを光電リーダーにかけて、ミスがあると、空で読めるようになっていたパンチ穴に紙を貼り付けて修正したりした。プログラムはアセンブラの前の機械語で、たとえば、足し算をするには
201 a 1234: 1234番地の数値をアキュムレータに移す。
それに、4321番地の数値を加える。
その結果を2222番地にデータ
のように数段階のプログラムを組む必要があった。